●TWITTER●
「来週は進藤先生の番ですので。よろしくお願いします」
「あ、はい」
「なに呟いてもいいですよ。囲碁に関係あってもなくても。写真だけでもいいですし、質問箱に来た質問をひたすら回答してる棋士もいますし」
「……分かりました」
日本棋院に所属している若手の棋士が週替わりでツイートしているTwitter。
次は僕の番らしく、アカウントのパスワードを教えてもらった。
さて、何を呟こうかな。
「お兄ちゃん、どしたの?難しい顔して」
担当初日の土曜日。
リビングで文章を考えていたら、彩がやってきた。
Twitterのことを話すと、途端に目を輝かせてくる。
「お兄ちゃんの番なんだ!え?まだツイートしてないの?何してるの!」
「だから考えてるんだって」
「何を考えるの?始めは『今週の担当になりました進藤佐為です。一週間よろしくお願いします』に決まってるじゃん」
「……なるほど」
彩に言われた通りに打とうとしたら、ストップをかけられる。
「写真も変えなきゃダメだよ。前の担当の人の写真になってるから」
「あ、そうか」
「なんかいい写真ある?ないなら今撮ってあげる」
「じゃあお願いしようかな」
彩に「はい、笑って〜」と言われて写真を撮ってもらう。
そしてアイコンをその写真に変え、お決まりの台詞を打ち込み、僕は生まれて初めてツイートしてみた。
(―――え?)
「わ〜さっすがお兄ちゃん。『いいね』の数の桁が違うね!」
みるみる間にハートの横に表示されている数字が上がっていった。
『進藤先生一週間よろしくお願いします!』
『待ってました!』
などと、どんどん返信される。
あまりのリアルタイムな反応に、Twitter初心者な僕は驚きを隠せなかった。
そして少し怖くなった。
なぜなら
『アイコンの写真はご自宅のリビングで撮られたんですか?』
としっかり背景までチェックされていたからだ。
『素敵なリビングですね!』
『写真期待してます!』
『本因坊や名人の写真もアップしてくれたら嬉しいです!』
という返信が特に多かった。
「お兄ちゃんだったら、プライベートなことツイートした方が喜ばれるかもね〜」
「そうか、分かった。じゃあまずは『朝10時に起きてきた寝起きで髪がボサボサな進藤彩女流』の写真でもアップしようか」
と言うと、彩は一目散に逃げて行った。
過去のツイートを振り替えると、確かに一日何回も呟いている人もいたが、たいていは皆一日一回くらいだったので、僕もそれに見習うことにした。
また明日呟けばいい。
それまで忘れていようと思っていたら、昼から研究会にやって来た京田さんに
「Twitter、進藤君が当番なんだね」
と早速思い出さされる。
「はい……まぁ仕方ないです。順番なので」
横にいた父に
「え?なに?佐為お前Twitter始めたの?」
と突っ込まれる。
「若手棋士が週替わりで担当しているアカウントがあるんですよ」
と京田さんが父に教えてあげる。
「へー、若手限定かぁ。だからオレには回ってこないんだな」
父がやや残念そうにしていた。
父は母と違い、基本SNS系に抵抗はない。
むしろ好きな方だろう。
きっと父が今当番になったら、一日に何十回も呟きまくるに違いない。
「で?佐為はどんなこと呟いてるんだよ?」
「え?あ……まだ全然、担当になった挨拶しかしてないけど」
「マジで?もっとファンサービスしてやれよ!」
「て言われても、一体何を呟けばいいのか…」
「リアルタイムなことが一番喜ばれるだろ」
「リアルタイムって……『今から進藤門下の研究会が始まります』…とか?」
「それいいじゃん!よし、写真もアップしてやろうぜ!ほら京田君、佐為と碁盤挟んで座って打ってる振り振り♪」
僕と京田さんの対局姿を父に写真に撮られる。
そして無理矢理アップされる。
「ほらほら、すげー『いいね』付いてきた。楽しいなこれ♪」
父はフォロワーの反応にご機嫌だ。
『進藤門下の研究会の様子が見れて嬉しいです!』
『きゃー私服の進藤先生と京田先生だぁvv』
『もしかして進藤本因坊が撮影ですか?』
『進藤先生のご自宅の和室なんですか?』
などなど返信も瞬く間にたくさん送られてくる。
それに更に気をよくした父は水を得た魚のようにその後も僕らをカシャカシャ撮り続け、勝手に僕になりきりアップし続けていた。
三人一緒に写ってるところを撮る為にわざわざ彩を呼び出したり。
母が帰って来てからは、嫌がる母もカシャカシャ撮りまくっていた。
更に翌日も「囲碁サロンでも撮ろうぜ!」「塔矢先生んちも行こうぜ!」と父に振り回され続ける。
僕は父にTwitterのことを話してしまったことを心底後悔したのだった――
翌月曜日。
学校に着くなり西条に
「なんや進藤、お前めちゃめちゃツイートしよるやん」
と突っ込まれる。
「はは…、ほぼ父のツイートだけどね」
「あ、やっぱりそうなんや?まぁノリが本因坊そのものやしな、皆気付いてると思うわ」
「ならいいんだけど…」
「でも、いいん?あんな写真アップしてもて」
「――え?」
何のこと?と首を傾げると、西条が昨日父が勝手にアップしていたそのツイート写真を見せてくれた。
『自宅でG』
というタイトルのそのツイート。
(ちなみに@〜Iまである)
そこには父に一日連れ回されたおかげで疲れて、リビングでうたた寝をしている僕の寝顔写真がアップされていた。
(おおおお父さんんん…っっ!!!??)
1万以上の『いいね』に、5千近いリツイート、更に何百ものコメントが寄せられていたその写真を、僕が即座に削除したのは言うまでもない。
その後僕がツイートすることはなく、最終日に
『次の担当は西条悠一四段です。ありがとうございました』
とだけ素っ気なく呟いて当番は終了した。
まさか引き継いだ西条が
『寝顔がアップされてしまって拗ねてる進藤七段』
と写真付きでツイートするなんて思ってもなかったけど……
―END―
以上、Twitterのお話でした!
実在する日本棋院若手棋士のTwitterをもし佐為(高1)が担当したら〜と書き始めてみました(笑)
まぁ佐為はそういうのは苦手っぽいので、ヒカルに乗っ取られるでしょうねw
ちなみに佐為がプライベートな写真をツイートをしまくってるらしいという噂は瞬く間に広がり、おかげでフォロワー数は何十倍にもなったらしいですよ。
こんなところでも広告塔として活躍してる佐為なのでした!
ちなみに西条がアップした「拗ねてる進藤七段」はもちろん学校で撮影したものです。
当然制服姿の佐為です。
『ぎゃー!!西条先生グッジョブ!!もっとお願いします!!』
と大量に返信があったこと間違いなしですな。
あ、寝顔写真はもちろん即座にファンは保存してるので、消してもムダな足掻きなんですよw
ファン筆頭の精菜の携帯の待受は、即座にこの寝顔写真に変更されたこと間違いないね!(笑)