TIME LIMIT〜有休編〜 おまけ〜明菜視点〜





千明お姉ちゃんがこの度2人目を妊娠した。


もちろん義兄も両親も大喜びだ。



(いいなぁ……)



大樹さんと結婚して早8ヶ月。

彼のことを知れば知るほど、どんどん好きになってる自分がいた。

そして日に日に

(大樹さんの子供が欲しいなぁ…)

という思いが強くなってる自分がいた。


でももし今私が妊娠したとしても、姉のように喜んでくれる人は1人もいないだろう。

大学はどうするんだ、とか。

学業と子育ての両立は難しいぞ、とか。

皆がきっと否定的な反応をするだろう。


……きっと大樹さんだって同じはず……


 

 




「明菜…」


23時。

寝室のベッドに上がった彼が、いつものように私にキスしようとしてきた。

もちろん私はそれを受け入れたのだけれど、胸に伸ばしてきた手を私は掴んで――拒否した。


「ごめん…大樹さん。今日はちょっと…したくない」

「え?あ…、そうなんだ」


大人しく引き下がってくれて、彼はベッドに体を預けた。


「じゃあ…、お休み明菜」

「……お休みなさい」



生理中以外で拒否したのは実は初めてだ。

本当はもちろん拒否なんてしたくなかった。

でも今日の私はおりものが特に多い日なのだ。

前回の生理から計算しても今日が『危険日』であることは間違いない。

危険日――つまり排卵日で、一ヶ月で一番妊娠しやすい日だ。

こんな日に大樹さんの子供が欲しくて欲しくてたまらない今の私が、いつものように彼に抱かれてしまったら、どうなるのかなんて目に見えてる。

きっと私は彼に懇願してしまうだろう。


『生でしよ』と――

『中に出して』と――


大樹さんは私に甘い。

だから私がお願いすれば、もしかしたら誤って受け入れてしまうかもしれないのだ。


(だから今夜は我慢…)


彼に背を向けて、私は目を閉じた。


のだけど……





(―――え?)





背を向けた背後から、ぎゅっと体を抱き締められる。

お腹に手を回されて……チュッと耳にキスされる。


「大樹さん…、今日はしないって…」

「うん…分かってる。代わりに少し話をしようか」

「…え?」

「明菜…何かあった?最近ちょっとテンション低いよな?」

「……別に」

「俺が何か気に障るようなことした?」

「……ううん」


大樹さんが何かをしたわけじゃない。

これは私の問題なのだ。

私が大樹さんを好き過ぎて……彼の子供を欲しがってしまった私の問題なのだ。


(あと4年我慢しなくちゃいけないのに…)


こんなことになるなら、やっぱり大学卒業するまで結婚しなかった方がよかったんじゃないかと……後悔してる自分がいる。

付き合ってた頃は週に1回のデートでしか彼と会ってなかったし、体も合わせていなかった。

その状態だったら私だってあと4年くらい待てたと思う。

でも結婚して一緒に住んで、毎日顔を合わせて、隙あらばキスして、毎晩彼に抱かれて――もう引き返せないくらい彼のことが好きになってしまった自分がいるのだ。


更には皆で行ったあの温泉旅行がいけなかった。

綾ちゃんの食事を手伝ったり、美明君達と遊んであげる彼のイクメンぶりを垣間見てしまって……ますます彼の子供が欲しくなってしまったのだ。

まだダメなのに。

卒業して働き出して1年経ってからって決めてるのに――



「明菜…、プロポーズした翌朝に俺が言ったこと覚えてる?」

「…え?」

「これからいっぱいケンカしようって言ってきた明菜に、俺がなんて返したか覚えてる?」



『…ケンカより、話し合いをしようか。解決に向けて…』



「うん……覚えてる」

「じゃあ…、明菜が思い詰めてること話してくれる?解決に向けて話し合おうか」

「…無理だよ」

「どうして?」

「だって、だって私…、今更大樹さんと離れられないし、このまま我慢するしかないもん。他にいい方法なんてないでしょう?」


大樹さんが私の体を仰向けにして、跨ってくる。

チュッと目尻にキスしてきた。


「俺も明菜と離れるつもりはないけど…、何を我慢するって?」

「……子作り」


言うまで離してくれなさそうだったので、私は正直に打ち明けてみた。

予想外の回答だったのか、大樹さんが目を見開いてくる。


「…つまり明菜は子供が欲しいけど、あと4年は我慢しなくちゃならないから落ち込んでるってこと?」

「…うん」


コクンと頷くと、途端に頬を赤めた大樹さんが――私の肩に顔を埋めてきた。

ぎゅっと上から抱き締められる。


「ヤバい…」

「え?」

「俺の奥さんが可愛すぎてヤバい……どうしよう……」

「は?ちょ…っ」


チュッチュと首筋にキスを落とされる。

そして顔を上げてきたかと思うと今度はイケメン過ぎる真面目顔で

「じゃ、もう今から作っちゃおうか」

と提案されて、(ん?)となる。


「え、いや、だからまずは大学卒業しないと…」

「とりあえず1人産んでからでもいいんじゃない?」


んん?


「一ノ瀬みたく俺も育休取るし、何とかなると思うよ」

「いや、でも…」


結婚の挨拶の時に、大樹さんのお母さんから言われたことをハッと思い出した。


『まずは大学を卒業しないとね。それまでは大樹が子作りしようとしてきても拒否らなくちゃ駄目よ』


大樹が


子作りしようとしてきても


拒否らなくちゃ



「やっぱダメー!!」


私は大樹さんの体を押して自分から引き離した。


「やっぱり4年くらい我慢する!」

「何とかなるのに?」

「それでもダメ!今のクラスメートと一緒に卒業したいし、後悔したくないもん!」

「…そっか」


少しばかりシュンとしてくる大樹さん。

そんな彼を見てると、私の中で安心感が広がる。



(ああ…大樹さんはもし私が今後予定外の妊娠をしても、きっと喜んでくれる…)

(大学も子育ても何とかなるよって、きっと笑顔で言ってくれる…)



「ありがとう…大樹さん。その気持ちだけで私、すっごく嬉しい…」

彼の胸にギュッと抱き着いた。

「大好き…」

「明菜…」



うん…、俺も大好き。

明菜がそう言うなら俺も我慢するよ。

でも、気が変わったらいつでも言って?



そんなことを口にしてくる可愛い12歳年上の旦那さまと、仲良く抱き締め合って眠りについたのでした――

 



END

 

 


以上、明菜が大学2年になったばかりの4月のお話でした〜。
一応解決に向けての話し合いが上手くいったということでいいのかしら?これは(笑)

明菜も我慢してますが、須本君も明菜の為にだいぶ我慢してるのですよ…子作りをね。
そんな時に明菜から「子供欲しいけど我慢しなくちゃならないから落ち込んでる」なんて聞かされた日にはもうタガが外れちゃいますよね〜ってことで。
大学も子育ても何とかなるんじゃない?ってな感じで、むしろ須本君がノリノリになってしまって、逆に冷静さが戻る明菜なのでした!(笑)危ない危ない。