TIME LIMIT〜新婚編〜おまけ

※ブライダルフェアに行った時のお話です(カフェで隣の席になった婚活女性視点)





(今日来るんじゃなかった…)



有名シティホテルのロビーラウンジで、待ち合わせていた男性とお喋りしながら。

私、鳴瀬美和(29)は後悔していた。

結婚相談所に入会してから早3ヶ月。

今日もお見合いの為に貴重な日曜日にこのラウンジに来ていた。


今日のお相手は大手食品メーカーの総務部勤務という31歳。

年収600万、大卒。

顔は普通、身長も170cmで普通、体型も普通、趣味も映画鑑賞とか読書という無難さ……うん、全然悪くない。

優しそうだし、こういう平凡な男性と結婚するのが一番だと思う。

そう思ってたのに……



「まだちょっと時間あるから何か飲んでいこうか」

「そうだねー」


隣のテーブルに座ってきたこのカップルのせいで、今日の私のお見合いは掻き乱されてしまったのだ。

チラリと私のお見合い男性の横に座った、そのカップルの男の方に目をやった。


(イケメン過ぎでしょ…)


ここのラウンジにいる女性客全員が見惚れてしまうくらいの、芸能人ばりの顔の良さ。

おそらく身長だって180センチはあると思う。


「大樹さん、さっき駐車場で挨拶してた人って、大学時代の教授?

「そうだよ。俺がいた研究室の教授で、ネフローゼ症候群の第一人者でね。学会出席の為にこのホテルに泊まってたみたい」

「へー」

「医学部卒業して8年近く経つのに、俺のこと覚えててくれて嬉しかったなぁ」

「大樹さんきっと当時と全然変わってないと思うよ。31歳に見えないもん」

「ありがとう」


しかも31歳の医者(もちろん年収1千万超えだろう)ときた。

ちなみに私の前に座るお見合い相手も31歳だ。


(え、何か違い過ぎない?)


よく見たら目尻とかめっちゃシワあるし、うっすら白髪あるし、本当に同じ31歳?

チラリと今度は自分の横に座る、隣のカップルの女の方を見た。

めっちゃ可愛い。

そして若い、ピチピチしてる。

この肌の透明さは化粧で出せるレベルじゃない。


「でもこういうホテルあんまり来たことないから緊張するよぉ…」

「そうなんだ。まぁ明菜ちゃん19だし、友達の結婚式もまだ全然無い年頃だもんな」


女の方は19歳らしい。

そりゃ化粧なんてしなくても肌が綺麗なはずだと納得する。


「あ。でも式は式でも、お兄ちゃんの就位式は一回だけ参加したことあるよ。お父さんに誘われて…」

「え?!本当に?!いつ?!何戦で?!」


男の方はめっちゃ食い付いていた。

就位式?何戦?


GW前だったかな。棋聖戦で。椿山荘でフレンチいただいちゃった♪」

「棋聖の初戴冠の時かぁ…、俺も一般募集で申込むか悩んだんだよなぁ」

「え、大樹さんそこまで就位式に興味あるの?」

「棋聖戦の就位式は各リーグ優勝者のメダル授与もあるから、他の就位式より盛り上がるんだよな。それに生の進藤五冠を一度くらい拝みたいというか…」

「いやいや、普通に結婚式挙げたら会えるから」

「来てくれるかな?」

「妹の結婚式に来ない兄なんていないでしょ。というか明人お兄ちゃんちって、一ノ瀬家の隣だよ?大樹さんあんなに一ノ瀬家行ってたのに、隣は行かなかったの?ピンポン鳴らせば普通にお兄ちゃん出てくると思うけど」

「いやいやいや…そんな恐れ多い」


どうやら囲碁の進藤明人の話をしてるらしい。

なんと女の方は妹らしい。

男の方は囲碁が趣味なんだろう、にこにこ楽しそうに語っていた


(趣味のある男性っていいなぁ…)


私のお見合い相手は映画鑑賞とか読書が趣味だと言っていたが、実際は旬のアニメやマンガを読んだりしてる程度で、何だかガッカリした。

さっきまでこういう平凡な男性もいいなと思っていたのに…、隣のイケメン医者のせいで、もはや顔も「へのへのもへじ」に見える。





「あ、そろそろ時間かな。じゃあ行こうか明菜ちゃん」

「うん♪」


最初のお見合い時間は1時間と決まっている。

終わりに近づいた頃、隣のカップルは席を立った。

男の方は会計もスムーズで、こういう有名ホテルにも慣れてる感じが伝わってきて素敵だ。


(カッコいいなぁ…、私もああいう人に出会いたかった)


でも結婚相談所にああいう男性はほぼ存在しない。

年収が高い男ももちろんいるが、年齢が上過ぎたり、容姿がイマイチだったり、性格がモラハラ気味でヤバかったり、根暗な研究職の童貞男だったり……

ごくたまにいたとしても、引く手数多ですぐに成婚して結婚相談所のリストから消えてしまうのが常だ。


「そろそろ時間ですね。帰りましょうか…」

私が立ち上がると、お見合い相手もそれに続いた。


別れ際、

「今日はちょっと残念でした。美和さん、途中から隣の男性の方ばかり見てましたよね」

と言われてドキッとなる。


「すみません…」

「いえ、仕方ないと思います。美和さんだけじゃなくて、ラウンジにいた他の年頃の女性客のほとんどが彼を見てましたから」

ぶっちゃけああいう人がライバルだったら僕に勝ち目ゼロですし、と。


「それに僕も同じでしたので」

「え?」

「僕も横の女性ばかり見てました」


その瞬間、私はカッと恥ずかしくなった。

この人がイケメン医者に敵わないのと一緒で、私だって隣の19の女の子に何一つ勝ってる要素がないからだ。

可愛さも、年齢も、肌の美しさも。

もっといえば私の家族に有名人なんて1人もいない、ごく普通のサラリーマン家庭だ。


「あのカップル、このホテルのウェディングフェアに来たみたいでしたね。すごいですよね…、同じ31歳であんなに年下と結婚出来るなんて…」

「…やっぱり男の人って若い女性がいいですもんね」


あと半年もしたら30になってしまう私。

30
になったら私の価値は大きく下落するだろう。

だからその前にどうしても結婚したかったのに……


「どうでしょうね?僕は同い年くらいの女性の方が話も合うのでいいと思いますけど…」

「…え?」

「今日は隣のせいで全然集中出来なかったので…、もし機会をいただけるのなら美和さんともう一度お話してみたいです」

「え…」


最後の最後で、お見合い相手はそんなセリフを残して帰って行った。



(私も話したい…)



今度はちゃんと集中したい。

確かにあのイケメン医者と比べたら天と地の差くらいある人だったけど。

でも、世の中には分不相応という言葉がある。

私にはイケメンより平凡な男性の方が、余っ程気楽でありのままの自分で過ごせそうだ。


お見合い後には仮交際に進むかどうか、結果を相談所を通じて報告しなければならない。


(もう一度話をしたい…)


その一心で私は仮交際を申し込んだ。

彼がその後将来の旦那さまになるなんて、この時は思いもしないで――

 

 



END

 

 


以上、明菜と須本君がブライダルフェアで行った時のお話でした〜。
隣のカップルがキラキラしすぎてたせいで、自分のお見合いに全く集中出来なかった女性のお話でした(笑)

このカフェに行く前、地下駐車場で大学時代の恩師に再会した須本君。
教授はもちろん須本君のことは覚えてるのですよ。特に優秀な生徒だったからね。
そのまま付属病院に就職してほしかったのに、東京の大学病院とマッチングしてしまって残念に思っていた教授なのです。
明菜を「妻です」と紹介した須本君ですが、まだ結婚して1ヶ月ちょっとで「妻」ワードに慣れてない為、お互いドキドキしてる初々しい二人ですv

明人の棋聖の就位式、初棋聖ということで、せっかくなので家族で参加する進藤家です。(もちろん家族席を用意してくれてる)
ヒカル、アキラ、明菜、明良子、美鈴ちゃんで参戦です!ヒアアキは関係者に挨拶回りで忙しいですが、明菜は特にすることもないのでフレンチのコースを存分に堪能したのでした!