TIME LIMIT〜新婚編〜おまけ

※明菜のクラスメート・惣田さんのお話です





「きゃーv進藤五冠今日もカッコいいvv」



私、惣田愛の土日は推し活で忙しい。

今の推しは何と言っても若干22歳の進藤明人五冠。

今日もテレビの前で公式戦の応援だ。


「はぁ…今日もめちゃ強だった。めっちゃカッコよかった…」

無事TVトーナメントの勝利を見届けた後、私は高校時代の囲碁友達・奈々緒ちゃんにメッセージアプリを送った。

もちろんさっきの対局の感想と、あと

『これから一局打たない?』

とお誘いする為に。

するとすぐに返事が返ってくる。


『ごめーん、今デート中』




………え?




しかも『彼氏出来たから、これからはあんまり打てないかも』と――


奈々緒ちゃんは大学に入って念願の恋人が出来たらしい。

女子高だった私達にとって、大学生になったら恋人が欲しいというのは皆が持っていた夢だった。


(彼氏かぁ…いいなぁ…)


もちろん私だってほしい。

でも私の通う看護学科はほぼ男子がいなくて、女子大みたいなものだ。

出会いなんてない。


でも、そんなことより……

(これから誰と打てばいいの…)


ふと、進藤さんの顔が思い浮かんだ。


『アマ四段くらいかなぁ』

と言っていた進藤さん。

ダメ元で、私は彼女にメッセージを送ってみた。


『もし時間あるなら、一局打たない?』と――


するとすぐに既読になって、『いいよー』と返事が来る。


やった!!


しかも『ウチ来る?』と――


え?進藤さんのおウチ?

それってつまり進藤ヒカル先生と塔矢アキラ先生のおウチってことだよね?

(おまけに推しの実家)




ええええええええーーー???!!!



 

 



「惣田さん!お待たせ〜」


進藤さんちの最寄り駅で待ち合わせた私達。

一緒に歩きながらご自宅へと向かった。


「わ、私なんかが行っても本当にいいのかな…」

「え?何で?当たり前だよ〜」

進藤さんが「普通の家だからガッカリさせちゃうかも」と笑った。


ドキドキしながら付いていくこと10分。

到着したのは2階建ての今どきなおウチ。

ただ門の前には車5台は駐めれそうな駐車スペースがあって、この都心では珍しい贅沢な土地の使い方だ。


「何かうち、昔から来客が多くて。研究会開いてるわけじゃないんだけどね…」

「へぇ…」

「緒方先生とか和谷先生とかしょっちゅう来るよ〜」と。

(緒方九段と和谷七段が?!)



ガチャ

「ただいまー」

ドキドキしながら進藤さんに続いて中に入ると、

「お帰り」

と進藤ヒカル先生が出迎えてくれてビビる。


「明菜の友達?初めまして、明菜の父です」

「は、初めまして!惣田愛です!お邪魔します!」


進藤さんが、

「惣田さん高校の時囲碁部で、私より強いんだよ〜」

と恐れ多い説明を先生にしてくれる。


「へぇ〜そうなんだ。オレとも打ってよ」

「え?!そそそれはさすがに…っ」

「お父さん暇だから打って貰いなよ〜」と進藤さんにリビングに連行される。


(うわ…、リビング広っ…)


リビングの一部分が和室になっていて、その中央に当然のように碁盤が置いてあった。

その碁盤を挟んで何故か永世七冠と向き合ってる私……


「惣田さん黒どうぞ」

「ああありがとうございます」

「互先で打とうか」

「ええ?!それはさすがに相手にならないかと…」

「じゃあコミ無しでいいか」

「ですです」

「じゃ、お願いします」

と進藤先生がペコリと頭を下げてきた。

「お、お願いしますっ」



私達が打ち始めるのを見届けてから、進藤さんは台所で飲み物を準備してくれていた。

コーヒーのいい香りが漂ってくる。


パチパチ打ち進めること50手。

やっぱりめちゃくちゃ強い。

永世七冠の名は伊達じゃない。

コミ無しがどうとかいうレベルではないのだ。

それでも一方的に負かされないのは、進藤先生が上手く調整してくれてるからだろう。


(こんなの…一生の思い出だ……)


引退して表舞台から消えた進藤ヒカル先生。

引退した時は二冠だった。

引退理由は「世代交代の時期だから」というものだった。

息子の明人先生に本因坊を奪取された直後で、今からちょうど1くらい前の話だ。

プロの世界に未練はないと何かのインタビューで話していたけれど……全然鈍ってないこの棋力

やはり定期的に誰かと打ってるんだろうなと思う。


(奥様の塔矢アキラ先生となのかな…)


二人の対局の棋譜はどれも素晴らしくて……胸が熱くなったものだ

何百譜並べたかもう覚えてないくらい。

表立ってはもう二人の新しい棋譜が見れないのは残念だ。


150
手を超え、まもなく終局というところでリビングのドアが開いた。


「ただいま」


 



―――えっ?!


 



「あれ?お兄ちゃんどしたの?」


そう――入って来たのは紛れもなく、間違いなく、私の推しの進藤明人五冠だったのだ。

指に挟んでいた碁石を思わず落としてしまう。


(きゃーーっvv嘘でしょ?!本物?!)

(私服……進藤五冠の私服姿……めっちゃカッコいい……可愛い……最高……ハアハア)


「内祝い持ってきた」

「わ、お菓子?ありがと〜♪」


進藤五冠が進藤さんに紙袋を渡した後、何故かこっちに近付いてくる。

え?え?


「父さん、お宮参りいつにする?」

「オレはいつでもいいけど。アキラの都合聞いておくよ」

「うん、また連絡して」


進藤五冠が碁盤にチラリと視線を送ってきた。


「…コミ無しで打ってるの?」

「よく分かったな」

「ふぅん…、面白い内容だね」

「だよなー。オレもそう思った」

「最後の一連の勝負手、いいね。父さん、結構悩んだでしょ?」

「はは、バレた?抑え込むの実は苦労した」

「明菜のお友達?」


ひ!話しかけられた!


「そそそうです。クラスメートです」

「そうなんだ。頑張って」

「あ…りがとうございます…」


進藤五冠は「じゃ、父さん日程の連絡待ってるから」ともう一度告げて慌ただしく帰っていった。

ドキドキドキと私の胸はそれから何時間も鳴り響いたままなのでした……


 

 



「お邪魔しました!」

「また来てね〜惣田さん」


夕方、進藤さんと先生に見送られて私は進藤家を後にした。

もうホクホク気分だった。

夢にも登る気持ちとはまさにこのことだろう。


(進藤先生と対局しちゃった…)

そして何より

(推しに会っちゃった…vv)


生の進藤五冠はめちゃくちゃカッコよかった。

私服姿最高だった。

可愛すぎた。


居ても立ってもいられず誰かに話たくて、私は奈々緒にメッセージを送る。

まだデート中だったらゴメン。

でもこれだけは言わせて!


『私、今の大学に進学して本当によかった!』


ありがとう、進藤さん――

 


END

 

 

 

以上、明菜のクラスメートで一番仲のいい、惣田愛ちゃんのお話でした〜!
埼玉の女子高出身で、囲碁部出身です。
高校3年間全国優勝しちゃったアマ六段の実力者です。
推しは明人です。公式戦は常に配信観て応援してるよ★

明人が内祝いとかお宮参りとか言ってたので、7月くらいの話ですね。前期試験前あたりかな。
もちろん明人は美鈴に「実家にこの内祝い持って行って、お宮参りの日程聞いてきて」と指示を受けて実家にやって来たのです。
しっかり者の奥さんで明人は碁に集中出来て幸せですな。

果たして二冠のヒカルをすんなり棋院が引退させてくれたのかは謎ですが、行洋先生も引退出来たので不可能ではないのかな?と思います。
まぁ後継者の明人がいたから棋院もしぶしぶOKした感じでしょうかねー。
復帰してから20年もタイトルホルダーとして頑張ってくれたしね。
もちろん現在も毎日のようにアキラと打ってる為、棋力は全然落ちてないヒカルです。
家にもプロ棋士がめっちゃ打ちに来るらしいので、来客駐車スペースが5台分もある進藤家です。(プラスヒカアキの車の駐車場もあります)
リビングに面したお庭も広いので、家は普通の大きさでも、敷地面積はめっちゃ広い進藤家なのでした!(土地代だけで推定2億よ)