TIME LIMIT〜新婚編〜おまけ

※須本さんの母視点です





『結婚を考えてる人がいるんだ。一度会ってくれないかな?』

「もちろんいいわよ」



息子の大樹からそう電話が掛かってきて、初めて女性を実家に連れて来たのは、息子が28歳の時だった。

同い年で、大手ゼネコンで営業の仕事をしているという彼女。

営業成績も同期の中ではトップクラス、真面目で向上心が高く、気配りも出来てコミュニケーション能力も高い――まさに「しごでき」という名前がピッタリ合いそうな女性だった。


(あら…息子はこういう子が好みなのね。意外ね)


別に息子の選んだ人なら反対はしない。

結婚は自由にすればいい。

だから誰でもウェルカムだ。


――でも、何か違和感があった。


彼女の横でにこやかに座ってる息子の目には、迷いがあるように見えたからだ。

2
年も付き合って、彼女がもうすぐ29歳になるのに結婚の「け」の字も出さない彼氏にはなりたくない――だから無理やりにでも話を進める。

でも本当は、本当にこの人と結婚してしまっていいのか、一生の伴侶が本当にこの人でいいのか……いまいち自信が持てない迷ってる顔をしていた。

頑張って隠してるつもりなんだろうけど。

でもそういうことに敏感な女性の目は恐らく欺けないだろう。


予想通り、数週間後に息子は彼女とは別れたと私と夫に話してくれた。


『家の格が違い過ぎて合わない。合う人と付き合うことにしたから別れて』


そう言われてフラれたらしいが、どこまでが真実なのかは分からない。

昔から恋人と別れると落ち込む癖がある息子は、きっとまた2年は恋愛ごとを避けるだろう。

不器用な子だと思う。

(せっかく父親似で顔面偏差値が高く、私似でIQも高く産んであげたのに…)


「もしかしたら大樹は一生独身かもしれないわね」

夫とそれならそれで仕方ないわね、と話していた。







そんな息子からまた電話が掛かってきたのは1週間前のことだ。

『実は婚約したんだ』

だから今度の日曜に連れて行くから、と言われて驚く。


(あら…、いつの間に新しい恋人が出来てたの)


しかも既に『婚約した』という事後報告。

前の『結婚を考えてる人が』のレベルではないことに、私はすぐに気付いた。


「まぁまぁまぁ…そうなのね、おめでとう。お名前は?お歳は?何をしてる方なの?」

『進藤明菜さんっていって、歳は19で…』


――19?!


T医科大の看護学科の1年生で…』

「まさか大樹…、教え子に手を出した感じなの?」

『え?!いや、違うよ。付き合い始めたのは入学前だし…』


それはつまり高校生と付き合ってたってこと?!

ちょっとだけ目眩がした。


『一ノ瀬の奥さんの妹なんだ。それで出会って…』

「あら、一ノ瀬君の?」


一ノ瀬君は息子が大学の時からずっと仲がいいお友達だ。

私も昔何度か会ったことがあるけど、とてもいい子でカッコいい好青年だった。

現在は息子と同じ大学病院で形成外科医として働いている。


「あら?でも一ノ瀬君の奥さんって、囲碁の進藤ヒカルの娘さんじゃなかった?」

『うん…、よく覚えてるね母さん』

「そりゃね」


息子がハタチくらいの時、珍しく興奮気味に私に話してくれたのだ。

『一ノ瀬の彼女って、囲碁棋士の進藤ヒカルと塔矢アキラの娘なんだって!』と。

中学高校と囲碁部だった息子は当然タイトルホルダーにも詳しく、息子にとって彼らはスター同然だった。


「じゃあ奥さんの妹さんってことは、向こうのご両親は…」

『うん…挨拶してきた、進藤先生と塔矢先生に』

「まぁ…!」


それが衝撃的すぎて、息子の婚約者が19歳の女子大生なんてことはすっかり頭から抜けてしまった。






迎えた当日。

ピンポーンとインターフォンが鳴り、私と主人は玄関に向かった。


「は、初めまして!進藤明菜です!」


私達に緊張気味に笑顔で挨拶してくれたのは、若さが眩しいとっても可愛らしいお嬢さんだった。

(さすが19歳だわ…ピチピチね)

そして何より嬉しかったのは、息子とこの明菜さんから幸せオーラが溢れ出てたことだ。

ラブラブオーラとも言うの?

前回連れて来た彼女の時とは違って、息子の目にも一切の迷いがないように見えた。

もう彼女以外考えられない、卒業まで絶対待てない、今すぐ結婚したいという好き好きオーラが溢れ出ていた。

(笑っちゃいけないわよね…)


「明菜ちゃんのご両親は反対してない?ずいぶんと早くにお嫁に行っちゃうことになるけど…」

「あ、大丈夫です。父は元々大樹さんのことすごく信頼してて。ずっと私の受験勉強見てくれてて、合格出来たのも大樹さんのおかげなので」

「あら、そうなの…」

息子は抜かりなく地盤固めからちゃっかりしていたらしい。

その後二人は

「明菜ちゃんが頑張ったからだよ」

「ううん、須本さんがいなかったら絶対無理だった。ありがとう」

「どういたしまして」

と見つめ合ってイチャイチャしていた。




二人が大樹の部屋にアルバムを見に行ってしまった後、私は夫と顔を見合わせた。


「大樹はいい人に巡り会えたんだな…」

と夫が言う。

「ええ…本当に。あの顔…3年前のあの子じゃ考えられないわね」


3
年前どころじゃないかもしれない。

あんなに幸せそうな息子を見たのは……もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


「明菜ちゃんに感謝しないとね」

「そうだな」


あんなに可愛い子だ。

同年代の男の子達からもきっとたくさんのアプローチを受けていたことだろう。

それなのに、一回りも年上の息子を選んでくれた彼女には感謝しかない。

彼女がいればきっと息子はこれから先、幸せな人生を歩めるだろう――そんな予感しかしない。



「アルバムどうだった?」

帰り際、玄関で明菜ちゃんに尋ねる。

「小さい大樹さん、すっごく可愛かったですvv」

メロメロです〜と喜んでいた。


「もし将来須本さん似の赤ちゃんが生まれたらあんな感じなのかなぁ〜v」

息子の頬は赤くなっていた。


「じゃ、父さん母さんまたね」

「ありがとうございました!」

「また来てね」


自然と手を繋いで車に向かった二人。

車が見えなくなるまで私達は玄関から見送った。



――婚約おめでとう 大樹、明菜ちゃん――

 

 



END

 

 

 

以上、須本さん母視点でした〜。
両親の前なので自分のことを「大樹さん」と呼んでくれる明菜にドキドキしてる須本君です。
(結婚したら絶対そう呼んでもらおう…///)とか考えてますよ。