●TIME LIMIT〜新婚編〜 15●〜須本視点〜
「じゃあ須本、時間だからそろそろ行くな」
「ああ…彼女によろしく。せいぜいフラレないようにな…」
「オマエなぁ…」
一ノ瀬が何か反論しようとして、でも何も言わずにカフェを出て行
きっと今の俺には何を言っても無駄だと分かってるからだろう。
今日はクリスマス。
一ノ瀬も彼女の元に行ってしまったから、今からは正真正銘ボッチ
(うわ…、想像以上にキツ…)
1ヶ月前、4年間付き合った恋人に俺はフラれた。
フラれる前に一ノ瀬と、クリスマスをお互いの彼女と過ごすつもりで予約していた
別に俺だけキャンセルしても良かったけど。
何となくそのまま搭乗して、クリスマスを東京で一人寂しく過ごし
……想像以上にキツいけど。
カフェの窓から外を見ると、街中どこもかしこもカップルだらけ。
中には人前でも関係なしにイチャついてるカップルとかもいて……無償に辛くなる。
「すみませ〜ん、今お一人ですか?」
一ノ瀬が出て行った後もそのままカフェでコーヒーを飲んでいると
「…一人だけど」
「よかったらご一緒してもいいですか?」
「……」
確かにこの誘いに乗って一緒に今日を過ごせれば、寂しくなくなるのかも
ワンナイトぐらい出来るのかもしれない。
……でも俺が求めてるのはそういう人じゃない。
「ごめんね、もう出るところだったから」
「えー…、残念〜」
カフェを出て、適当に街をブラつきながらYouTubeを開く。
(クリスマスなのに対局あるんだ…)
しかも進藤ヒカル六冠VS塔矢アキラ女流五冠戦。
(マジかよ、めっちゃ気になるだろ…)
と直ぐさま配信を観ることにした。
こんな日に夫婦でバチバチ戦ってる姿を見ると、何かちょっとだけ
そうだよな、クリスマスなんて関係ない人だって大勢いるもんな。
そういやこの二人の名人リーグの成績って今どうだったかな…と、確認する為に次は棋院のホームページを開いた。
すると、トップ画面の
『日本棋院 クリスマスイベントのお知らせ』
という文言が目に入ってきた。
(へぇ…、今日って棋院でイベントやってるんだ…)
17時までみたいだけど、今はまだ15時。
ちょっとだけ覗いてみようかな…、と考えてる間にも俺の足は既に
日本棋院に着くと、結構賑わっていて人の出入りも多かった。
プロ棋士同士の対局に大盤解説、指導碁、サイン会、物販。
トーナメントの大会もしていたみたいで、もうちょっと早く気付い
大盤解説会は今は今日行われている進藤先生と塔矢先生の名人リー
俺も端の方で聞いていると、女の子が俺の横に座ってきた。
まだ小学校に入ったかどうかぐらいの小さな女の子。
しばらくすると一緒に来ていた小学校高学年くらいのお兄さんに、
「お兄ちゃんまだ見るの?明菜ヒマ〜もう帰ろう?」
と文句を言い出した。
「今いいところだから静かに」
「えー…、お姉ちゃんちでも行こうかなぁ」
「迷惑になるからやめとけって。今頃一ノ瀬さんとデート中だろう
一ノ瀬…?
親友と同じ苗字をお兄さんの方が口にしたので、俺はつい視線をそ
すると女の子と目が合う。
「わぁ…、お兄さんイケメンだねぇ。クリスマスなのにこんなとこ
とグイグイ聞いてくる。
「……いないけど」
「うっそだぁ〜」
「本当だよ。この前フラれたばかり…」
「あらら。ゴメンね、聞いちゃいけないこと明菜聞いちゃったみた
「……」
明菜ちゃんというこの女の子は小学1年生らしい。
退屈なのか、ペラペラ俺に話しかけてくる。
「お兄さんは何歳?」
「19だよ」
「大学生ってやつ?」
「うん」
「どこの大学行ってるの?」
「九大」
「そうなんだ、すごいね」
「え…、知ってるの?」
「ううん。でも一ノ瀬お兄ちゃんと一緒だからすごいなって思って
また一ノ瀬って言った…。
俺の知ってる一ノ瀬と同一人物なんだろうか……まさかな。
「明菜は勉強できないから大学なんてムリだと思う…」
「そんなことないと思うよ」
「そうかなぁ…、じゃあお兄さんが教えてくれる?」
「いいよ」
「ホント?それなら明菜がんばれる気がする」
「そりゃよかった」
「じゃあお礼に…、明菜が大きくなったらお兄さんのお嫁さんにな
―――え?
壇上の倉田名人が
『おーい、そこの小っさいの。隣のイケメンをナンパしない』
とマイクでツッコんで、笑いを取っていた。
明菜ちゃんは
「ナンパじゃないもん!倉田おじさんのイジワル〜」
と真っ赤になって怒っていた。
17時になって大盤解説会も終わり、玄関に向かっていたら明菜ち
「お兄さん、さっきのやつ、約束ね?」
と小指を出して来る。
「いいよ…、約束な」
と俺も小指を出して指切りげんまんをした。
「えへへ…ありがとう。そういえばお兄さん、お名前なんて言う
「大樹だよ」
「じゃ、大樹さん。またね」
と彼女はお兄さんの元へ走って戻って行った。
俺も棋院を出て、今夜は千葉の実家へ帰ることにする。
(可愛い子だったな…)
不思議と帰り道はカップルが目に入っても辛くならなかった。
小さな恋人に出会えたからかもしれない。
もちろん、もう会うことはないと思うけれど……不思議と彼女と
***************
「大樹さん、大樹さん起きて。もう7時だよ」
「ん……」
珍しく寝坊をしてしまった。
もう冬休みに入った奥さんが作ってくれた朝ご飯を急いでいただい
(何かずいぶんと懐かしい夢を見たな…)
(あの時の明菜ちゃんは元気にしてるんだろうか…)
「……ん?」
ふと、自分の奥さんの名前が同じ『明菜』であることを思い出す。
彼女の隣に座っていたお兄さんの容姿が、今の進藤五冠に似ていた
『お姉ちゃんちでも行こうかなぁ』
『今頃一ノ瀬さんとデート中だろうし』
『九大』
『一ノ瀬お兄ちゃんと一緒だからすごいなって』
(え…?嘘だろ…)
まるでパズルのピースが上手くハマっていくような感覚。
『明菜が大きくなったらお兄さんのお嫁さんになってあげるね』
「大樹さん?大丈夫?」
遅刻しちゃうよ?と心配そうに俺に話しかけてくる奥さんの顔を……マジマジと見てしまった。
「明菜ちゃん…?」
「なに?」
「…いや、何でもないよ。行ってきます」
「行ってらっしゃい♪」
玄関先でいつの通りキスをして、俺は家を出た。
もちろん顔を赤く染めて――
(すごい……俺ら本当に約束守ってるし……)
あの指切りをした小指を眺めながら、俺は仕事場へ急いだのだった
―END―
以上、新婚編でした〜。
プロポーズ〜結婚式まで、結婚の手続きをテーマに書いてみました。
両親への挨拶、入籍、引っ越し、改姓手続き、指輪の購入、結婚式…とやる事がいっぱいありますよね。
保険への加入もその一つだと思います。
初夜の時に明菜が赤い糸の話をしてましたが、糸が結ばれた瞬間が必ずあるはず…ということで、ラストはこんな感じにしちゃいました。
実は昔一度出会ってたということで。
もちろん当時小1の明菜はもう覚えていません。でも小5の明人と大2の須本君の記憶の片隅には残ってたということで〜。
明菜と倉田さんはもちろん顔見知りです。ヒカアキの子供は全員知ってる倉田さんです。
解説してたら、明菜が横のイケメンに「結婚してあげるねvv」とナンパしてる姿を見て、突っ込まずにはいられなかった倉田さんなのでした(笑)
〜須本君と別れた後の会話〜
明人「オマエさぁ…、いつもさっきみたいに誰彼構わず声かけてん
明菜「そんなことしてないよ。あのお兄さんが特別明菜好みの顔だ
明人「イケメンが好きなだけだろ」
明菜「イケメンはイケメンでも、明菜はああいう顔のイケメンが好
明人「あ、そう」
明菜「また会いたいな〜いつか。どこかで」
月日は流れ、千明の結婚式でまた自分好みのイケメンを発見する明菜です。
千明の病室にお見舞いに行った時も、自分好みのイケメンな医者が病室にいたのでガン見してしまう明菜です。
全員同一人物なのでした★