TIME LIMIT〜産休編〜





「順調ですよ」



妊娠34週目。

産前休暇に入った私は、朝から病院に妊婦健診に来ていた。

いつもの尿検査、血圧、体重測定、内診を終えた後、エコー検査に入る。

4D
はだいぶリアルで、赤ちゃんの顔の形が細部までハッキリ分かるほどだ。


「一ノ瀬似かな?」

担当医の櫻井先生のその言葉に、夫が

「だったら嬉しいけど」

と返した。


一人目と同じで、夫が務めている大学病院で今回も出産予定の私。

妊婦健診の時は何だかんだで、いつも夫も付き添ってくれていた。

もちろん仕事を抜けて来てるので白衣のままだ。

(相変わらずカッコいいな…)

普段の夫ももちろんカッコいいのだけれど、白衣を着て医師モードの彼は3割増しでカッコよく見える気がした。



「そろそろ一回NSTもしておく?」

「そうだな」


櫻井先生の勧めでお腹の赤ちゃんの心拍モニタリングが始まった。

これは時間がかかるので、その間に帝王切開の説明に入る。


「オススメは38週目に入った1110日あたりだけど、希望ある?」

「いや…、千明はある?」

「オススメでいいよ」

「じゃあその辺で、櫻井が執刀出来る日で頼む」

「じゃ、1110日な。前日から入院で」


夫の同期の櫻井先生。

まだ若いのに帝王切開の経験も豊富で、綾の時も緊急だったのにも関わらず物凄く手際がよかった記憶がある。

帝王切開は部分麻酔なので会話は患者にも筒抜けなわけだけど、櫻井先生は常に冷静沈着といった感じで、淡々と助手の医師や看護師に指示していたのが印象に残っている。

今回も櫻井先生が執刀してくれるなら心強い。

もちろん夫も立ち会ってくれるので、更に心強かった。


コンコン


診察中のドアノックは珍しい。


「一ノ瀬、千明さん来てるんだって?」

ガラッとドアが開き、須本さんがそんなことを言いながら入ってきた。


「ご無沙汰してます、千明さん。もう産休に入ったとか」

「うん、今日からね。明菜は元気?」

「おかげさまで。大学もバイトも楽しそうに行ってますよ」

「そう、よかった」


須本さんが夫に「帝王切開の日決まった?」と尋ねた。

「うん、1110日」

「じゃあ俺もその日手術室入るから。赤ちゃんのケアは任せて」

「ああ、頼む」


明菜の夫である須本さんは小児科医だ。

帝王切開後、速やかに赤ちゃんのチェックや診察を行うのは小児科医の役目なので、それを須本さんが引き受けてくれるらしい。



「ヤバい……御三家揃ってて鼻血出そう……」


近くに待機していた看護師さんがそう呟いたのが聞こえた。

夫と櫻井先生と須本さん。

イケメン3人が揃ったこの診察室は、確かに何だかキラキラしていた。


 

 

 

 

 



「じゃあオレも戻るから。千明も気を付けて帰って」

「うん。ありがとう」


無事妊婦健診を終え、会計の窓口で夫と別れた。

名前が呼ばれるまで携帯でも触ってようとカバンから取り出したところで、

「あの人が一ノ瀬先生の奥さま?」

と窓口の女の子達の会話が聞こえてきた。


「めちゃくちゃ美人だね…、やっぱ医者をゲットするにはあれくらいの美貌がいるのかぁ…」

「一ノ瀬先生がベタ惚れな理由が分かるね」

「愛妻家だもんね〜。そしてイクメン」

「私もあんな旦那様が欲しい〜〜」


聞いていて何だか恥ずかしくなって、下を向いてしまった。

ベタ惚れって……愛妻家って……


(そうなの?!)


確かに仲直りしてからは、前にも増してストレートに愛情表現をしてくるようになった夫。

好き、可愛い、愛してると毎日のように言ってくる。

妊娠が分かってまたしばらく最後まで出来ないのに、私と一緒にいられるだけで幸せそうな顔をしてくるのだ。

前回は娘が8ヶ月になるくらいまで性生活が復活しなかった私達。

(今回はなるべく早く復活してあげよう…)


 

 

 

 

 

 

 



「ママ!」


夕方、保育園に迎えに行くと、娘が私を見つけて走ってきた。

「産休に入られたんですね」

先生にこの大きなお腹を見られて、「今後はお母さんが送り迎えされる感じですか?」と尋ねられる。


「そうですね。産まれるまではそのつもりです」

「そうですか……分かりました……」

(何か先生のテンションが低いのは気のせい?)


綾が先生にバイバイして、クラスを後にする。


「あんた露骨すぎ!」

「だって綾ちゃんのおじいちゃんにしばらく会えないと思ったら…」


そんな会話がふと聞こえてきて、

(なるほどね…)

と理解した。

今まで送り迎えを担当していた父は、実年齢より若々しいというか40代に見えないこともない。

おそらく先生達にも人気があったのだろう。

(私が幼稚園の時も先生や他のお母さんにモテまくってたもんな…)

50
代になっても人気は健在というわけだ。

ちなみに私の出産日以降は夫も育休に入るので、今後は夫が綾の送り迎えを担当することになっている。

(凌も人気出そうで嫌だな…)

むしろ赤ちゃんを夫にお願いして、なるべく私が送り迎えをしようと思った。


 

 

 

 

 

 

 

 

 



「ただいま」

「お帰りなさーい」


19
時過ぎに夫が仕事から帰宅した。

お風呂から出たばかりの私達。


「ご飯ちょっと待っててくれる?先に綾の寝る準備しちゃうから」

「あ、じゃあオレがドライヤーするよ」


夫が綾の髪を拭いてドライヤーをしてくれてるので、私はその間に夫の夕飯を温め直した。

歯磨きも終わって娘の寝る準備が万端になったところで、バトンタッチする。

今から絵本を読んであげながら寝かせるのだ。


「パパ、おやすみ〜」

「お休み」




だいたい30分くらい読んであげるとウトウトしだす娘。

完全に眠りに落ちたところで私は寝室を後にした。


「お疲れさま。寝た?」

「うん。絵本3冊も読んじゃった」

ダイニングに戻ると夫は夕飯を既に食べ終えていて、洗い物をしてくれていた。

「しょうが焼き美味しかったよ」

「そう?よかった」


ソファーに腰掛けると、洗い物を終えた夫もすぐ横に腰掛けてくる


「あと1ヶ月かぁ…」

優しくお腹を撫でてきた。

「楽しみだな」

「そうだね…」


夫の肩に甘えるように頭を凭れかけた。

髪の先を梳くわれて…、チュッとキスされる。


「好きだよ千明…」

「うん…、私も」



去年の今頃は、1年後に私達がこんな風に過ごしてるなんて思いもしなかった。

夫と父に育児を丸投げして、仕事に生きてた私。

もちろん充実した毎日だったけれど……正直今の方がもっと充実してるような気がしてならない。


最近ますます言葉を話せるようになってきた娘から

「ママだいすき」

と言われることもしばしばあるからだ。

きっと去年までの私だったら、娘からそんな言葉を貰うことはなかっただろう。


「……ん……」


夫がキスしてくる。

とても愛情の籠った優しい口付けだ。

去年の私だったらこのキスも鬱陶しく感じていたと思う。

でも今はとても心地よく思う……


「……千明、無理してない?」

「…どうして?」

「産休入って仕事しばらく出来なくなったし…」

「ふふ…そうだね。でも別にいいかな…、どうせこの先30年は続けることになるだろうし」

1
年くらい休んだってどうってことないよ…、と今の気持ちを伝える。


「それよりこの子に会うのが楽しみ♪櫻井先生が一ノ瀬似かなって言ってたけど、本当かな?」


だとしたら、物凄く嬉しい。

絶対将来カッコいい男の子に成長すると思う。

もちろん私似でもいいけど。

もう元気に産まれてきてくれたらそれでいい。


「大丈夫だよ。櫻井と須本って名コンビだから、安心して任せられるし」

「名コンビ?」

「何だかんだで仲いいからな。仕事中は息合いまくりだし。大学病院の若手の中では歴代随一ってくらい二人とも優秀だしな」

「へぇ…」

「今はもう後輩医師に教える側に回ってる二人が、直に執刀してくれて診察してくれるのは、本当有難いよ」

「そうだね」



11
10日まであと1ヶ月。

その日を楽しみに、私は残りのマタニティライフを楽しむことにした――

 

 


END



 

 


以上、二人目産休に入った千明のお話でした〜。

出産まであと1ヶ月です。
今回も櫻井君が執刀してくれるそうです。
取り出した後は須本君担当で。名コンビらしいです(笑)

ヒカルはこの時点で54歳かな。
絶対実年齢より若く見えると思うので、40代って言っても全然違和感ない感じでしょうか。
保育園の先生達にも相変わらず大人気だった為、千明が産休に入って来なくなって、先生達はガッカリ〜なのです(笑)

出産次第、次は一ノ瀬君が綾ちゃんの送り迎えを担当するわけですが、絶対先生達「きゃーーvv」ってなると思う。
先生達は一ノ瀬君が医師だってもちろん知ってますしね。(毎年就労証明出すからね)
てなわけで、心配な千明はむしろ赤ちゃんを一ノ瀬君に任せて自分が送り迎えする気満々のようです(笑)