●TIME LIMIT〜元カノ編〜 4●





彼女の矢部さんとは相変わらず下校だけ一緒にして、休日ごくたまにしぶしぶデートに出かけた。

でもいまいち気乗りしないから全然楽しくない。


「もうすぐ新学期だね。クラスどうなるかな…」

「さぁな…」

「明人君は就職希望で出したんでしょ?」

「うん…」

「私は文系進学で希望出したから…クラス離れちゃうかもね…」

「そうだな…」


春休みにももちろん何回か会って、どうでもいい会話を続ける。

オレに気持ちの入ってないことは誰がどう見ても明らかで、矢部さんもたぶん限界だったんだろう。



「……明人君て、好きな人いるの…?」


明日から新学期だという日、別れ際についに聞かれてしまった。


「――え?」

「最初からずっと感じてたんだ…。本当は他に本命がいるんじゃないかって…」

「……」

「……私じゃその人の代わりにならない?」


美鈴ちゃんの代わりにならないかって?

なるわけないだろ……


美鈴ちゃんをいい加減諦めなくちゃならないから作った恋人だったのに。

同級生で名前も同じで、容姿も性格も良くて条件は最高だったはずのに。

結局オレは美鈴ちゃん以外好きになれないんだって……思い知らされただけだった。



「……ごめん。代わりにはならない」

「そっか……」

「ごめん……」

「どうしてその人に告白しないの…?」

「……え?」

「したらいいのに…」

「告白を……?」



美鈴ちゃんに……オレが告白?

そんなこと出来るんだろうか?

相手は26歳だぞ?

17歳のオレなんてきっと相手にされない。

じゃあ一体いつなら相手にされるんだろう?

20歳くらいになれば、ちょっとは見込みも出てくるんだろうか?

でもオレが20歳ってことは、美鈴ちゃんは29歳だ。

果たしてそれまで独身でいてくれるんだろうか?



「私、明人君のこと本当は諦めてたんだ…」

「え…?」

「だって明人君…告白されても全部断ってたから。どうせ断られるんだから、してもムダだって諦めてた…」

「……」

「でもやっぱり後々後悔したくなかったから。気持ちに整理をつける為に告白することにしたんだよ」

「そう…だったんだ」

「嬉しかったなぁ…OKしてもらえて。毎日が楽しかった。ありがとう…」

「……」


楽しかった――過去系だ。

今はきっと楽しくないんだろう。

申し訳なく思う。


「もう…終わりにしようか。明日から三年生だし、お互いの為にも今日別れるのがちょうどいいと思う…」

「……ごめん」

「明人君も最初から諦めてないで、後々後悔しない為にもちゃんと告白した方がいいと思うよ…」

「……うん。そうだよな…」


ちゃんと告白しよう。

もちろん今すぐは出来ないけど。

オレがハタチになってもまだ美鈴ちゃんが独身だったら、その時彼女に恋人がいようがいまいが、ちゃんと想いを伝えよう。


後悔しない為にも――








*****************








「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」


結局オレは同窓会に参加することにした。

元カノに会うかもしれないのに、笑顔で見送ってくれる余裕のある奥様。

オレのことを信じてくれてる証拠だろう。

当然だ、美鈴ちゃんと付き合い始めてから今まで、ひたすら真っ正直に彼女に愛を伝え続けて来たんだから。

でもってこれから先も一生伝え続けるんだと思う。



ちなみに同窓会には8割り方が参加していたけど、元カノの姿はなかった。

「へー、矢部さん留学してるんだ」

と彼女の親友が他の奴に話しているところを偶然耳にする。

「うん、交換留学で来年の夏までね。学部で2人しか選ばれないから選考厳しかったけど、諦めずに応募してよかったって喜んでたよ」


大学でも頑張ってることが分かって、少しだけホッとした自分がいた。

オレも家族の為にも、これからも頑張ろうと拳を握りしめた――











余談だけど、この同窓会から3年後――オレは矢部さんと偶然再会する。

姉さん一家と一緒に沖縄旅行に行った時の、行きの飛行機でだ。

彼女は留学から戻ったあと、航空会社に就職したらしかった。


「良かったね…」

とオレの横に座ってる美鈴ちゃんや子供達を見て微笑まれる。


「うん…矢部さんも」

オレがそう返したのは、彼女のネームプレートが既に矢部ではなく、左手薬指にも指輪をしていたからだ。



彼女が去った後、美鈴ちゃんがこそっと訊いてくる。


「もしかして高校の時付き合ってたっていう彼女?」

「え?あー……うん」

「あんな美人だったなんて聞いてないんだけど!」


美鈴ちゃんが口を尖らせた。

ちょっと嫉妬してくれてる彼女が可愛くて可愛くて、自然と笑みがこぼれる。


「美鈴ちゃんの方が可愛いよ」

「…あのね、美人と可愛いは全然違うのよ」

「うん、でもどっちにしろオレにとっては美鈴ちゃんが一番だから」

「……もう///」



結婚して5年。

オレは相変わらず美鈴ちゃんが大好きだ。

この沖縄旅行でも奥様にたくさん愛を伝えようと思った――









―END―







以上、元カノ編でした〜。
予想外に長くなってしまいました…。
明人君の愛が重すぎて書いててビックリしました…(笑)

ちなみに同窓会では明人君は大人気なんですよ。
なんせ既に三冠(本因坊・碁聖・王座←同窓会までの間に奪取した)ですので〜。
同級生からサイン攻めの写真攻めで大変だったらしいですw

可哀想すぎた元カノ・矢部さん視点もちょびっと書いてみました。
よければどうぞ〜。
↓↓↓
おまけ:矢部さん(20歳)視点