●TIME LIMIT〜一人暮らし編〜





「これは?」

「広さは悪くないけど古くない?せめて築10年以内がいいなぁ」

「じゃあこっち。築8年で間取りも良くない?」

「でも一階だよ。危なくない?」

「じゃあこれ。五階だって」

「場所がちょっとね」

「あ。これ超理想」

「でも高過ぎだよー。月19万…て、初任給?」

「うーん…」



高三の冬休み。

私は家に遊びに来た美鈴と一緒に、春から住むアパートを探しに不動産屋巡りをしていた。

条件としては、それなりにお互いの大学に近くて、それなりに新しくて、それなりの広さで、それなりの家賃のところ。

あと二階以上で。

でもその『それなり』がなかなか見つからない。

全部揃ってるところなんかない。

やっぱり何かを妥協しなくちゃいけないのかも…。


「東京って高過ぎだよー。何でこんなワンルームが10万もするの?地元だったら新築の一軒家が貸りれるよ!」

と、美鈴が唸っていた。

「都心だからね…。大学からは遠いけど、もうちょっと中心から離れるとそこそこの値段のところもあるんだけど…」

「千明の実家より遠いところから大学に通ってどうするのよ…」

「…だよね」


結局この日は見つからず、お互い「はー…」と溜め息をつきながら家に帰った。

明日もう一回出直そう…。







「いい所あったか?」

家に帰ると、直ぐさまお父さんが聞いてきた。

「全然。今何を妥協するか考え中…」

「はは。でも楽しいだろ?オレも初めて一人暮らしする時そうだった」

「お父さんはいつから一人暮らし始めたんだっけ?」

「お前と同じ18。今思うとよくそれまで実家で我慢したもんだ」

「どういう所にしたの?」

「確か…棋院に10分で通える、2LDKのマンションの…7階?だったかな。よく仲間のたまり場になったなぁ…」

「棋院って市ヶ谷でしょ?そこまで10分って…いくらぐらいしたの?」

「20万ちょいかな。新築だったし」

「に…っ?!」


20万??

信じられない数字だ…。


「もうタイトルも取ってた頃だからな。ちょっとくらい贅沢してもいいかな〜って」

「はぁ…そうですか。参考にならない話をどうもありがとうございました」

「ま、父親としては娘にはちゃんと防犯設備が整ったそれなりに綺麗な所に住んで欲しいからさ、あんまり妥協すんなよ。家賃は多少高くても払ってやるから」

「…ありがとう」


心強いお言葉だ。

でも、美鈴の家の都合もあるし、そんなに高い所にするわけにはいかない。

美鈴ん家は普通の平均的なサラリーマンの家だ。

(たぶん年収はお母さんのパート代を入れても500〜600万てとこだろう)

一緒のアパートに住むって決めたんだから、美鈴の方に合わせないと。






「美鈴のお父さんとお母さんは何か言ってた?」

「うーん…でもお兄ちゃんが今年から働き出したから、ちょっとは余裕が出てきたみたい。大学も私立でも許してくれたぐらいだし」

「じゃあ少々高くても大丈夫?」

「うん。私も高1からずっとバイトしてたから結構貯金あるしね。予算オーバー分は自分で払うよ」

「お。偉い」


それでも更に悩むこと3日。

ようやく決定して、お父さんに契約してもらった。


「よかったな、いい物件見つかって」

「うん!」


結局私達が決めたのは、お互いの大学のちょうど真ん中に位置するマンション。

築5年の1LDK。

私が5階で美鈴が3階。

家賃は月12万と少し高くなっちゃったけど、防犯設備はきちんとしてるから、お父さんも納得してくれた。

引っ越しは美鈴と合わせて3月中旬にする予定。

初めての一人暮らし。

ものすごく楽しみだ!








*****








「じゃあ…頑張れよ」

「体には気をつけて」

「うん!ありがとうお父さんお母さん!」


あっという間にやってきた3月。

何日か前から少しずつ荷物を移動させてたけど、美鈴が東京に引っ越して来る今日、私も正式に家を出ることにした。

家族に見送られた後、ウキウキと今日から住む部屋に向かった。



「千明〜!来たよ〜!」

「美鈴!」


マンションの前に止まってた引越トラックの横に、美鈴の姿が。

お互いキャーと駆け寄って、改めてよろしくね!と言い合いっこした。


「後で食器とか雑貨買いに行こうよ。東京の方がたくさん種類あるしセンスもいいから、私あんまり持ってこなかったんだよね」

「いいよ。じゃあ先に荷物の片付け終わらせちゃおう。私も手伝うし」

「千明の方はもう終わったんだ?」

「うん、だいたいは。あ、スーパーも行ってもいい?冷蔵庫の中はまだ空っぽなんだ」

「お。さっそく自炊?さすが千明」


美鈴の部屋に荷物が運び込まれた後、ダンボールを片っ端から開けて片付けに入った。

美鈴はギャルとまではいかないけど、それなりに化粧も服装もすごい子だ。

クローゼットのハンガーに服をかけながら、私じゃ絶対に着こなせないな…としみじみ思った。



「一ノ瀬君はもう部屋に呼んだの?」

「まさか。向こうも今引っ越し前でバタバタしてるみたいだし」

「いつ引っ越しちゃうんだっけ?」

「確か28日って言ってたかな…?」

「ふーん…寂しくなるね。福岡なんてなかなか行けるとこじゃないし」

「うん…」


28日まであと3日。

あと3日で一ノ瀬が福岡に行ってしまう。

付き合い出したのが卒業式だから、ただでさえあれからあんまり会えてないのに…もっと会えなくなるんだ。

やっぱり寂しいなぁ…。


「ちゃんとデートしてる?」

「図書館で何回か会ったぐらいかな。一ノ瀬後期も受けたから…。落ちるって分かってたら絶対もっと他のデートもしたのに!」

「は?図書館だけ?じゃあ千明と一ノ瀬君…まだしてないの?」

「……何を?」

「何をって、小学生じゃないんだから…」


つまり……アレだよね?

付き合ってる男女がすること…。

って、私と一ノ瀬が??

そもそもまだ付き合って一ヶ月も経ってないんだよ?!

考えられないって!!


「一ノ瀬君が福岡行く前にさ…一回ぐらい深い関係になっておいた方がいいとお姉さんは思いますよ?」

「か、簡単に言わないでよ。そりゃ美鈴は高校どころか中学の時から彼氏いたけど、私は初めてなんだからっ」

「そうなんだよね〜。千明って青春を勉強と囲碁に費やしちゃったんだよね〜」

「だって…囲碁も法律も歴史も楽しすぎるんだもん」

「ま、いいわ。それよりせっかく今日から親の目から逃れたわけだし、まだ引っ越すまで3日あるわけだし、一ノ瀬君と思い出作っておきなさいよ」

「う、うん…。一ノ瀬に聞いてみる…」




その日の夕飯は私の部屋のキッチンで二人で作ってみた。

これからの新生活を祝ってケーキなんかも食べちゃったりして、ちょっとしたパーティーを開いたり。

美鈴が帰った後、ドキドキしながら一ノ瀬にメールをしてみる。


『引越しの準備進んでる?もし時間に余裕あるなら、明日か明後日私の部屋に遊びに来ない?片付け終わったんだ♪』


送信、っと。


はぁ…緊張する。

一ノ瀬これ読んだらどう思うんだろう…。

私ってガード緩い?

こんな即行彼氏を部屋に招くなんて…軽い女だって勘違いされないかなぁ…。


「あ、もう返事来た」

ドキドキしながらメールを開けると…


『なんとか終わりそう。明日ならいいよ。進藤の部屋見てみたいし』

…だって。

自分で誘っておいて、明日かぁ…と悩む。

心の準備なんてする暇ないな…。


『じゃあ明日ね。最寄駅田町なんだけど、13時ぐらいに西口に来てもらってもいい?』

『西口に13時ね。了解。楽しみにしてるな』


何とかデートの約束が出来て、ホッと溜め息が出た。

さてと…お風呂に入って、体の準備でもするか。

下着とか服とかどうしようかな…。

って、さすがに泊まったりしないよね??









*****









どうなるだろう…と不安なまま迎えた翌日。

気にし過ぎたせいであんまり眠れず、顔のクマが有り得ないことになっていた。

午前中、遊びに来た美鈴が慌ててメイクで隠してくれる。


「じゃあ千明が迎えに出る時、私も帰るね。頑張って♪」

「無理〜だって一ノ瀬なんだよ?確かに好きだけど…友達だった期間が長すぎていきなりそういうことしろって言われても…。というか…私らだとそっちの雰囲気にすらならないかもしれないし。それはそれで複雑だけどホッとする…」

「大丈夫大丈夫。皆最初はそんなもんだから。絶対にならないと思ってても、不思議となっちゃうのが男と女なのよ♪」

「そうなのかなぁ…」


13時まであと15分になり、私は覚悟を決めて部屋を出た。



「進藤、一週間ぶり」

「一ノ瀬…」


でも、いざ会っちゃうと普通に話せるし、いつもの私達だった。


「後期残念だったね」

「それ禁句。やっと忘れられそうだったのに」

「あはは、ごめんごめん。でも第一志望は福岡の方だったんでしょ?じゃあいいじゃん」

「うん…まぁ。進藤と会えなくなるのはやっぱり辛いけどな」

「一ノ瀬…」


私も…と手を繋いだ。





マンションに着くと、とりあえず部屋の広さに一ノ瀬は驚いていた。


「絶対にここ他に学生住んでないだろ」

「どうだろ?でも1LDK〜2LDKのマンションだから一人暮らしか二人暮らしの人ばっかだよ。子供見たことないし」

「ふーん。てか、テレビでかっ!50以上あるんじゃねぇ?」

「はは…お父さんからの高校卒業祝いなんだ。隣の部屋のベッドからでも見えるからちょっと便利」


ほら、と一ノ瀬をベッドルームに引っ張っていった。

ドアを開けたままにしておくと、ベッドに横になっていてもリビングのテレビがよく見える。

でも、一ノ瀬はテレビなんか見ていなかった。

私を…見てる?


「……オレ、あと2日で東京とお別れだ」

「…そうだね」

「初めての一人暮らしだし、福岡での新しい生活も楽しみだけど…。でも、進藤に会えないのがやっぱり辛い」

「うん…私も」

「今ちょっと後悔してるんだ。もっとデートしておくべきだったって」

「うん…」

「明日からしばらく会えないだろ?だから、その…オレ…」


一ノ瀬の顔が徐々に赤くなっていった。

つられて私の顔まで赤くなる。

一ノ瀬が何を言いたいのかは分かる。

向こうに行く前に、私と…もっと深い関係になっておきたいんだろう。

私も同じだ。

怖いけど。

緊張するけど。


「私も…一ノ瀬と一緒だよ。だから今日…部屋に呼んだんだし」

「進藤…」


ベッドに座らされ、一ノ瀬もすぐ横に座ってきた。

お互いドキドキしてるのがすごく分かる。

一ノ瀬も私と同じ……きっと初めてなんだ。

覚悟を決めて目を閉じると―――すぐにキスされた。


「―…ん…っ」


告白された時に屋上でしたキスとも、図書館でこっそりしたキスとも全然違う、舌を深く絡めあって息する隙も与えてくれない激しいキス。

大人のキスだ。

自然と手が一ノ瀬の肩…そして頭の後ろに回る。

一ノ瀬も、私を腰の後ろからギュッと抱きしめていた。


「――……は、…進…藤…」

「ん……一ノ…瀬…」


しばらくのキスの後、唇を離した私達は、緊張しながらも…もう止まらなかった。

服を脱ぎながらベッドの上に上がって…体を横たわらせた。

男の人に初めて上に乗られた。

重みがすごく心地好くて…安心出来る。


「何か…恥ずかしいね。一ノ瀬とこんなこと…、告白されるまではあんまり考えたことなかった」

「あんまり?少しはあった?」

「少しだけね。…一ノ瀬は?」

「一応健康な男子だから…人並みには」

「…そうなんだ」


一ノ瀬の頭の中で、私はどんな風に乱れていたんだろう。

今の私と同じ?

それとも、想像とは少し違ってる?




「…ぁ…っ、ん……は…」


下着も全部脱がされて、生まれたままの姿になった。

体を触られると…思った以上に勝手に口から声が出る。

恥ずかしくて堪らないのに、快感には勝てない。

胸にお腹に…そして下半身へと彼の手は伸びていった――



「…ぁ…ぅ…、ん…」


初めてだけどそんなに痛くないのは、私が思った以上に濡れてるのと…一ノ瀬が優しく時間をかけて進めてくれてるから。

汗が出てくる。

涙も。


こんなこと……お父さんとお母さんは15歳でしてたんだ……なんて欝すら考えながら――



「…進藤。…いい?」

「…うん、来て…」


慣れない手つきで一ノ瀬がゴムを付け始めた。

その時初めて見た男の人の下半身。

昔、お風呂で見たお父さんのものと全然違う…。

ここまで大きく伸びるものなんだ…。


「あんまり見るなって。恥ずかしいだろ」

「だ、だって…」

「じゃあ…挿れるから」

「う、うん…」


固いものが私の入口にあたった。

グッと押し込まれる。


「い…っ」


思った以上の圧迫感。

裂かれて、貫かれる感じがした。


「……っ…」

「進藤…大丈夫か?」

「う…ん…」


歯を食いしばって、何とか耐えた。

でも、痛い。

でも、嬉しい。

一ノ瀬と一緒に…大人の階段をひとつ登れたことが。

一ノ瀬とひとつになれたことが……



「一ノ…瀬……好き…」

「進藤…」

「大好き…」

「オレも…。オレも進藤のこと大好きだよ…」

「一ノ瀬……」


再び大人のキスをした私達。

その後、一ノ瀬は突き始め、出し入れし出した。

ギシギシと鳴るベッドの軋みが何だかいやらしいなぁ…何て思いながら、、次第に私も気持ちよくなってきて。

頭が訳分からなくなってきて――



「――…あ…ぁ…っ」


ドクンッと今まで感じたことのない快感が私を襲った。



「…はぁ…は…ぁ…」

「…ふ……ぅ…は…」


お互い荒れる息を整えた後、もう一度キスをした――









*****









「で?どうだった?一ノ瀬君とエッチした感想は?」

「どう…って」


結局夕方までいちゃいちゃ愛を確かめあってた私と一ノ瀬。

日が落ちる前にそそくさと彼は家に帰って行った。

一緒に夕飯を食べてる途中、美鈴が興味津々に聞いてきた。


「…別に。これがセックスなんだ…って感じかな」

「そっかぁ〜。千明もついに大人になっちゃったのねー。おじさんが聞いたら泣いて喜ぶだろうな〜」

「喜ぶわけないでしょ!絶対に言っちゃ駄目だからね!」

「あはは、分かってるって」





その晩――一ノ瀬から電話があった。

昼間の今だから、何だか緊張する…。


『えっと…体大丈夫?血出てない?』

「うん…平気。ちょっとシーツに付いてたけど、それだけ」

『そっか、よかった。あ、帰っちゃってごめんな。本当は泊まりたかったんだけど…親の目もあるし』

「ううん、それは気にしないで。お互い様だし」

『でも次は泊まるから。朝まで一緒にいような』

「…うん。私も一ノ瀬の部屋に遊びに行ったら…泊まるね」

『楽しみにしてる』




次会う時はお互い大学生。

6年間の遠距離恋愛。

不安で堪らないけど……きっと大丈夫。

何があっても、一緒に乗り越えていこうね。









―END―