●TIME LIMIT〜美鈴編〜





「もう終わりにしよう」



29歳になる直前――私は3年間付き合った彼氏にフラれた。

今度こそ大丈夫だと思ったのに。

結婚まで考えてたのに。


「何で私って…こう男運がないんだろう…」


今回の彼の別れたい理由は、他に好きな人が出来たから…らしい。

いっつもそう。

二股かけられたり、浮気されたり、他に好きな女が出来たり。

私って男を見る目がないのかな…。

それとも私に何か原因があるのかな…。




「……はぁ。飲みに行こう…」


一人で家で飲んでても落ち込むだけなので、やっぱり外に出ることにした。

でも手当たり次第に携帯で誘ってみたけど…誰も捕まらない。

千明も明日までに作成しなくちゃならない資料があるから無理だって。

残業…か。

頑張ってるなぁ…千明。

裁判官の友達がいるなんてちょっと誇らしい。

今度付き合った男にまた浮気されたら、今度は慰謝料取ってやろうかな。

千明にいい弁護士紹介してもらおう。

……なんてね。








「…あれ?美鈴ちゃん?」

「え?」


駅の改札を抜けたところで、若い男の子に声をかけられた。

ずいぶんとカッコよくて可愛い男の子。

見たことあるような…すっごい懐かしいような?

でも…誰だっけ?


「酔っ払ってるんですか?オレですよ、オレ。明人です。千明の弟の…」

「え…?うそ…明人君?!」




ええーー?!


と思いっきり叫んでしまった。




「うそ、何年ぶり?久しぶり!大きくなったねー」

「5年ぶりぐらいですか?姉さんから話はよく聞いてましたけど」

「まだ囲碁やってるの?」

「やってますよー。これでも結構頑張って、リーグ戦にもほとんど食い込んでるんですから」

「へーそうなんだぁ…。よく分かんないけど」

「はは」

「ね、今から飲みに行かない?あ…まだ未成年だっけ?」

「今年やっとハタチになりました」

「おめでとう!よし、お姉さんがお祝いに奢ってあげる♪」

「いいんですかー?オレ、たぶん美鈴ちゃんより年収一桁多いですけど」

「あら、生意気ね〜」

「ははは」



明人君を連れて駅前の居酒屋に入った。

いつの間にこんなに成長したんだろう。

私は明人君がおばさんのお腹の中にいる頃から知ってる。

通りで私も歳を取るはずだ。


でも、でも、何か嬉しい。

だってだって明人君、昔のおじさんとそっくりに成長してるんだもん。

おじさんは私の初恋って言っても過言じゃない。

だから、そんな明人君と一緒に飲めるってことで、妙にテンションが上がった。


ハイになって飲みまくって飲みまくって………



気がついたら……どこかのラブホのベッドの上だった……




……やばい……







○●○●○







ピンクのライトが眩しいラブホの一室。

目が覚めるとそんなところにいた。

恐る恐る隣を見ると……当然明人君がいた。

まだスヤスヤ眠ってたので、そ〜っとベッドを降りる。


シャワーを浴びて、ちょっと頭を整理しよう。

えーーっと……とりあえずこれは犯罪ではないわよね?

もうハタチだって言ってたし。

だから飲みに行ったんだし。


でも……ハタチ。

私より8つ……いや、もうすぐ9つ、年下。


何やってんのよ…私……





シャワー室から出ると、明人君が起きてテレビを見ていたのにはビックリした。

私の方に顔を向けてくる。


「おはよう…美鈴ちゃん」

「は…はは、おはよ…」


もう笑うしかない。


「あの…明人君、一生のお願い。このこと千明には言わないで…」

「え?」

「お願い、二人だけの秘密にして?ううん…もう忘れて!今すぐ!」

「……」


いくら失恋で傷ついてからって…。

酔ってたからって…。

初恋の人に似てたからって…。

親友の弟に手を出すなんて最低だ。

しかも8つも下の…まだハタチの男の子に……


「美鈴ちゃん……後悔してるんだ?」

「だって…いくら酔ってたからって……千明の弟に……」

「オレは…確かに姉さんの弟だけど、でもオレはオレだよ」

「でもね…」

「オレは嬉しかったよ?美鈴ちゃんのこと…小さい頃からずっと好きだったし」

「それは家族に対する好きと一緒よ。昔よく家に遊びに行ってたから…」

「違う!だって、家族は家族だ。抱きたいなんて一度も思ったことない。でも美鈴ちゃんは…。オレ、昨日美鈴ちゃんに再会した時から…そのつもりだった。酔わせて…ホテルに連れ込もう…って。こんなチャンスもうないかもって…」

「明人君はまだハタチだから……ただ女の人に興味があっただけでしょ?それならそれでいいのよ?いい練習になった?」

「そんなんじゃない!美鈴ちゃんだからオレ…。本気なんだ…、だから……付けなかったし…」

「え……?」


そういえば……さっき起きた時、やけに垂れてきてた…。

やだっ、避妊してないの?!

結構…やばい日だったのに……


「ごめん…、でもオレ…本当に本気だから。出来たって別に構わない」

「構わないって…、何言ってるのよ…まだハタチのくせに」

「ハタチだから何だって言うんだよ!父さんだって、ハタチで姉さんを育て始めた!親の承諾がなくても結婚だって出来る歳だ!」

「私は8つも上なのよ?明人君のこと、おばさんのお腹にいた頃から知ってるのよ?」

「だから?オレらが付き合ったり結婚することに、誰が反対するって言うんだよ?」

「それは……」



誰だろう…。

千明はたぶん…驚くことはあっても反対はしない。

おじさんとおばさんもたぶん大丈夫。

うちの親はむしろ大歓迎だろう。


…あれ?私だけ?


いやいや、そもそも私は明人君が相手だと嫌なのか?

初恋の人にそっくりで…、若くてカッコよくて可愛くて…めちゃくちゃ私好みの容姿だ。

年収も今まで私が付き合ってきたどの男より…断然いい。

おまけにこんなに熱烈な告白…してもらったことない。



「…世の中には、私なんかよりもっと若くて素敵な女の子がいっぱいいるのよ…?知ってる?」

「知ってるよ。オレ…結構モテるもん。でも、オレは美鈴ちゃんがいい。美鈴ちゃんはオレの初恋で……ずっと憧れだったんだ」

「私が…初恋?」

「うん」



ああ……もう駄目だと思った。

さすがおじさんの息子だよぉ…一途なとことかそっくり。

こういう人、大好き!


ああ……本当にいいのかなぁ?私で…。

早まってない?



「私…男運ないの。いっつも二股かけられて浮気されて…」

「皆見る目ないね。でも仕方ないよ、美鈴ちゃんの運命の相手はオレだもん。今までの男は美鈴ちゃんも本気じゃなかった、でしょ?」

「う…ん、そうかも…」

「オレと付き合おうよ。オレなら絶対に美鈴ちゃんを幸せに出来るし」

「自信満々だね…」

「うん、だって大好きだから」




結局……明人君と付き合うことになってしまった。




千明に恐る恐る話すと、

「へー上手くいったんだ〜」

と意外な返答。



え?え?



「あの日、美鈴失恋したって言ってたでしょ?すぐにあの後、明人にチャンスかもよーって電話したのよね。明人が美鈴のこと昔から気にしてたの知ってたし」

「うそ…じゃああれ、偶然会ったんじゃなかったの?」

「うん。私が明人に美鈴の場所教えたのよ」

「なによぉ…もう」

「明人じゃ不満?姉の私が言うのもなんだけど、アイツ結構いい奴よ?」

「…不満なわけないじゃない…」

「よかった。ま、容姿の面ではまずクリアーよね。美鈴が憧れてたお父さんにそっくりに成長しちゃったからね〜」

「うん…超好み」

「あはは」



おまけに一ヶ月後に妊娠まで発覚し、私は夢にまで見た結婚への道を、明人君と歩み始めることになる。

ちなみに9歳も年下の弟の方が先に結婚しちゃうってことで、千明もちょっと焦ったみたい。

一ノ瀬君に自分からプロポーズしちゃったらしい。

進藤家の人って何で皆こんなにカッコイイんだろう…。



もうすぐ私も、その一員になります―――






―END―