●TIME LIMIT〜初デート編〜●
16歳から20歳の誕生日まで、僕がキミにあげたプレゼント。
それが『恋人』だ―――
遡るは僕らが15の時の、9月上旬。
全ての始まりはこの日から――
「そういえば進藤君の誕生日っていつなの?」
「えーと…9月20日です」
「あら!もうすぐじゃない。何かお祝いしてあげましょうか?」
「いいです…悪いし」
「こういうのは遠慮なんかするものじゃないのよ〜?そうだ!手作りのケーキ焼いてあげるわね!」
「ありがとうございます…」
進藤の誕生日を聞き出した市河さんが、ご機嫌にカウンターに帰っていった。
「…20日が誕生日だったんだね。僕からも何か…」
「いいよ別に…」
「……」
またしても冷たく拒否されて…思わず僕は俯いてしまった…――
今年の夏の始め――僕は進藤に告白された。
それを断って以来…ずっとこんな気まずい状態が続いてる。
進藤の方に気力がなくなってしまったというか……それまでは対局する度にしていた口ケンカもサッパリなくなった。
果たしてそれがいいことなのか悪いことなのか…。
いや、悪いに決まってる。
だってそんな気の抜けた進藤と対局してもちっとも楽しくないからだ。
打ち甲斐がない。
でも…それじゃあ何か?
あの告白は受けた方が良かったとでも?
僕に全然その気がないのに?
碁の為に彼と付き合えと?
そんなの…冗談じゃない!
……でも
…今の状態はもっと嫌だ…――
「進藤…いい加減機嫌を直してくれないか?」
「別に悪くなんかねぇけど…?」
「嘘だ。だって昔のキミと今のキミは全然違う」
「当たり前じゃん。もうすぐ16になるし…んないつまでもガキのようなケンカばっかやってられねぇよ」
「……そう」
確かに…キミはこの一年でずいぶん変わったよね…。
僕と頻繁に打ち出して…北斗杯を経験して…環境が変わる度にどんどん内面が変化してる。
「…やっぱり何かお祝いしてあげるよ。欲しいものとかある?」
「別にいい…」
「いや、駄目だ。お祝いさせてくれ」
「いいって!」
「どうしてそんなに遠慮するんだ?!」
「オマエ!オレのこと馬鹿にしてんのか?!」
「は…?」
進藤がバンッと机を叩いて立ち上がった。
「『欲しいものとかある?』だって…?ナメてんのかてめぇ…。オレの気持ち知ってるくせに……オレが欲しいものなんか一つしかねぇよ…―」
『お前だ』
そう言われた瞬間…僕は固まってしまった…――
「僕…?」
「ああ」
「それって…彼女になってほしいってこと?」
「そうだな」
「キミ…まだ僕のことが好きなのか?」
「オレだってさっさとこんな気持ち消えてほしいぜ!だけど…っ―」
進藤が苦しそうに額に手を当てて肘をついた。
僕に対するキミの気持ちがここまで深いなんて…知らなかった…。
出来れば…応えてあげたい…。
だけどそんな同情まがいのことをされても…キミは嬉しくないよね…?
辛くなるだけ…だよね…?
それに…そういうのをプレゼントにするのってちょっと違うと思う。
僕はモノじゃない。
でも…同じ類いのものでもその日限定とかなら…誕生日プレゼントらしくないか?
「僕はキミの彼女にはなれない…」
「んなこと…分かってる」
「でも…誕生日の一日だけでよければ別に…」
「…は?」
「いや、その…恋人ごっこじゃないけど…一日ぐらいならキミの気持ちに応えてもいいかな…なんて」
「……」
「ご、ごめん。キミをフっておいて何めちゃくちゃなこと…」
進藤の方に視線を向けると、茫然とこっちを見つめていた。
やっぱり…嫌かな?
そんな期間限定みたいなこと…。
でも…今の僕にはそれしか思い浮かばないんだ…――
「…塔矢」
「え?」
「それって…一日丸々オレと付き合ってくれるってこと…?」
「うん…」
「碁無しでもいい?」
「そりゃあ…もちろん。キミが望むデートスタイルで構わないよ」
「…朝まででも?」
「朝?うん…キミがそうしたいなら」
コクンと頷くと、進藤は少し顔を赤めて…久々に僕に笑顔を向けてくれた。
「すげぇ嬉しい…」
「そんなに喜んでもらえると…僕も嬉しいよ」
「じゃあ…さ、20日の朝にオマエん家まで迎えに行くから。一緒に遊びに行こうぜ」
「分かった。何時頃?」
「んー…9時ぐらいでも大丈夫か?」
「うん」
「じゃあそれで」
「分かった」
彼の誕生日に一緒に過ごすことを約束した僕ら。
運命の第一ラウンドがまもなく始まる――
○●○●○
自惚れと言われるかもしれないけど、僕は結構モテる方だと思う。
進藤を含め今までに告白された数は既に2ケタになってる気がするし…。
……でも、それを承諾したことは一度もないし、僕から告白したこともない。
つまり僕は今まで男性と付き合ったことがないんだ。
もっとぶっちゃけちゃうと……デートなんてしたことがない。
「どうしよう…」
何がどうしよう…かと言うと、まずは着ていく服が分からない。
髪型は?
メイクは?
アクセサリーは?
何もかもがどこまで張り切ればいいのか分からない未知の世界だ。
確かに相手は進藤…。
しかも本当の恋人ではなくて、偽り……たった一日だけの恋人だ。
そんなに気合いを入れる必要もないようにも思うけど…、…でも!むしろ一日限定だからこそきちんとした恋人を演じてあげたい。
一応名目は彼へのバースデー・プレゼントだしね。
…そうだな。
テーマはずばり
『最近付き合い始めた彼氏との初デートに気合いの入った彼女』
これにしよう。
あ、でも進藤のことだから…意外にいつも碁を打つ感じのラフな格好で来るかも?
そもそもどこに行くつもりなんだろうか…。
場所によっては服装を変えなきゃいけないし…ちゃんと聞いておけばよかった。
それに碁はナシとか言ってたけど、僕らが碁以外で何かをするなんて想像も出来ないんだが…。
あと何より気になるのが、彼のあの一言。
『朝まででも?』
一体どういう意味なんだろう…。
朝まで遊びまくるってことかな…?
ど、どこで?
夜中はさすがにどのお店も娯楽施設も閉まってるような気がするんだが…。
24時間開いてる所と言えば……コンビニ?ファミレス?カラオケ?漫画喫茶?ゲームセンター?
……どれも微妙……
だいたい僕は一日中起きてるなんて御免だ!
ああ…でも、彼のデートスタイルで構わないって言ってしまった…。
僕の得た情報によると、進藤は僕にフラれた後、院生の女の子と付き合い出したらしい。
もう別れたみたいだが……でもその短期間の中でも何回かデートぐらいもちろんしたんだろうな。
進藤のデートスタイル。
一体どういう感じのものなのかものすごく興味深い。
何だか異様に楽しみになってきたぞ!
○●○●○
ピンポーン
ピンポーン
「はーい」
約束の9月20日、午前9時。
ガラッと勢いよく玄関のドアを開けると、いつも通りのオシャレな格好をした進藤が立っていた。
「おはよ、塔矢」
「おはよう…」
僕の格好を見た進藤は少し目を細めてニッコリ笑ってくれた。
「スカートなんだな。初めて見た」
「うん…。変かな?似合わない?」
「まさか。すげぇ可愛いよ」
「………」
何か……進藤がいつもと違う。
可愛い、とか…初めて言われた気がする。
ちょっと嬉しいかも…―。
「じゃあ行こうか、進藤」
「んー…ちょっと待って」
「え?」
進藤に体を押されて玄関の中に押し戻された。
まるで外からの視線を遮るようにドアも閉められる。
「進藤…?出かけるんじゃないのか?」
「その前にちょっと確認。塔矢…今日マジでオレの彼女になってくれるんだよな?」
「うん…。そのつもりだけど…?」
「オレのデートスタイルで構わないって…言ったよな?」
「うん…」
進藤が僕の体を壁に押しつけて――顔をほんの数センチ前まで近付けてきた。
「…キス、してもいい?」
「は?え…?」
「いいよな?」
「でも…僕、したことないんだけど…」
「ふぅん…。じゃあオレが初だな」
「え…?……ん…っ―」
有無を言わさずに彼の顔が更に近付いてきて――そのまま唇が重なった―。
何が起きてるのかも理解出来ないまま口を塞がれて…目を見開いたまま茫然と立ち尽くしてしまう。
「ん…っ、んん…――」
何度も僕の唇の感触をつかむように……啄まれていく―。
息苦しくて…柔らかくて…どうにかなりそうなくらい頭がぼーっとしてきて……―。
僕…今…キスしてるんだ…?
しかも進藤と……。
その唇が離れる瞬間にチュッと音がして……生々しさを感じた―。
「…ぁ…はぁ…は…ぁ…―」
「塔矢…―」
荒れた呼吸をする傍ら、進藤が僕の頬に続けて何度もキスしてくる―。
「進…藤…、キミって…彼女にキスするのか…?」
「当たり前じゃん」
「初めてのデートの時から…?」
「うん、するかもな。…つーかオマエとは今日しかないわけだし、んな悠長なこと言ってられねぇよ」
「……」
「じゃ、行こうぜ」
「…うん」
再びドアを開けて家から連れ出された。
進藤に握られてる手と反対側の手で……唇に触れてみる。
まだほんのり残る彼の感触…。
初めてだったのに……ファーストキスだったのに…。
こんなにもあっさり…――
「……はぁ」
「ん?塔矢どうかした?」
溜め息を吐くと、進藤が僕の顔を覗いてきた。
「別に…。ただキミがキスしてくるなんて…予想外だっただけだよ…」
「えー?だって恋人なんだろ?するのがフツーじゃん」
「……」
僕の中でのコンセプトは『初デートの恋人』だったのに…、どうやら進藤の中では『既に付き合って何ヶ月も経ってる恋人』らしい。
別にいいけど…ね。
「つーかさ、キスぐらいでブツブツ言ってたら今日一日乗り切れないぜ?」
「は?」
「朝まで付き合ってくれるんだろ?ヤりまくろうな♪」
「……何を?」
「え〜、決まってんじゃーん」
進藤の口が顔に近付いてきて、耳元で囁かれる――
『セックス』
途端に僕は足を止め…目を見開いて突っ立ってしまった―。
「ふざけるな…」
「オレのデートスタイルでいいんだろ?」
「キミはデートでそんなことをいつもしてるのか?!」
「うん」
「僕らはまだ15だぞ?!」
「オレは16だぜ?」
「たいして変わらない!早過ぎだ!」
「早くねーよ。オレらの歳だと付き合い始めたら一ヶ月やそこらでヤるのが普通だし!何もない方が異常!」
「……」
そうなのか…?
いや、そんなの絶対にキミだけだ!
だって僕らは普通に学校に行ってたらまだ高校生だぞ?!
キス……は分かる。
だがその先をこの歳でするのは不純異性交際だ!
本当にキミはそんな付き合いかたをしてるのか??
「…キミ、前に院生の子と…付き合っていたな?」
「ああ」
「その子とも……してた…のか?」
「当たり前じゃん」
「何回くらい…?」
「は?いや、そんなの数えてねぇし…。でもデートの度にしてたから結構…」
進藤が指で数え出した。
ちょっ、ちょっと待て!
3ヶ月やそこらしか付き合ってないのに何で2ケタ?!
「目まいがしてきた…」
「そりゃ大変。んじゃどっかで休憩していく〜?」
その意味深な言い方から、どういう意味なのかすぐに僕も理解して、慌てて歩き出した。
「平気だ!ほら、早く行くぞ!」
「……ちっ」
微かに進藤が舌打ちした音が聞こえた。
猛スピードで歩きながら、僕は混乱した頭の中を整理し出す。
つまり…僕は今日ファーストキスどころか貞操まで失うということか?
どうして進藤にそこまであげなくちゃいけないんだ?!
何であんなことを言ってしまったんだろう…。
くそっ!
出来ることなら時間が戻ってほしい!!
○●○●○
「お、これ塔矢に似合いそう」
「嫌だよそんなフリフリ…」
――出発して約5時間。
進藤は僕が普段行く機会のない恵比寿やら表参道やらオシャレな街に連れて行ってくれた。
初めて一切碁の話をしない僕ら。
ただ単に一緒に散歩して、ショップを覗いて、少し疲れたらカフェで一休みして――のんびり過ごした。
だけど僕の心の中は全くもってのんびりなんかしていない。
ずっとこの後のことを考えてドキドキしてる。
このまま時が止まってほしい…。
いや、むしろ一気に明日になってほしい。
セックスなんて…もっと大人になってからするものだ!
15やそこらの僕達がすることじゃない!
…と思うけど……もう引き返せない。
僕は約束は絶対に守るタチだ。
だから……――
「これ可愛くね?」
「………」
次に進藤が僕を連れて入ったのは若者向けのアクセサリー・ショップ。
確かに売っているものはどれも可愛い……が、何だか目がチカチカする。
「左手出して?」
「え…?うん…」
言われた通り少し左手を進藤の方に出すと―――薬指に指輪をハメられた。
「ちょっとブカいか…。オマエ指細いな」
「そう…?」
続けてもうワンサイズ小さい指輪をハメてくれる。
「うん、ピッタリ。これ買おうぜ♪」
「え?いいよ別に…。僕は指や首に何かしてると落ち着かないんだ」
「じゃあ今日だけ我慢してよ。オレはさ、彼女には指輪しておいてほしいんだ。男除けにもなるし」
「ふーん…。まぁ別にいいけど…ね」
「じゃあ買ってくるな」
「……」
お店を出た後に再び左手を出すように要求され――薬指にそっとハメてくれた―。
「指輪なんて初めて…」
「マジ?じゃあこれもオレが一番乗りだな♪」
嬉しそうにそのまま指にキスしてくる―。
「…今日は塔矢の初めてを全部頂くな」
「………」
進藤が腕時計で時間を確かめて――真面目な顔をして…ついにそれを口にした――
「そろそろ行くか…」
どこに?…なんて怖くて聞けない。
出来ることなら今すぐ逃げたい。
行きたくない。
だけどそれを見越したように……手をキツく握られてしまった。
すごく…熱い。
僕の手も緊張で熱くなってる気がするけど…、彼の手もかなり熱い気がする…。
進藤も緊張してるのかな…?
本命の僕に初めて触れるから…?
○●○●○
「2206だって」
「……そう」
フロントから戻ってきた進藤が、部屋番号を教えてくれた。
「進藤、このホテルに…泊まるのか?」
「え?うん…そうだけど…、何か不満?」
「不満って言うか……」
泊まること自体が不満だ…。
いい加減覚悟を決めたいけど、逃げれるものならやっぱり逃げたい…。
はぁ…。
チンッ
22階まで来ると、外の車や電車の煩さは全く聞こえない。
シン…―と静まり返った中廊下。
照明は少し落としてあって、電球の橙色が時間を感じさせない雰囲気を作り出している。
「オマエはラブホとか入るのも嫌がりそうだからさ、ここを予約しておいたんだ」
「そ、そう…」
確かにそんないかがわしい場所で抱かれるのは御免だ。
だけど別にちゃんとしたホテルだからいいってわけでもない。
うう…、やっぱり嫌だ〜〜!
カチャ…
カードキーを抜いて青いランプが点灯した後――進藤はすぐにドアを開けた。
30平米ちょっとあると思われるダブルルーム。
部屋のデザインがモダンな感じで、すごく僕好みだ。
少し嬉しくなったけど、すぐにこれから起きる現実を思い出して…また気分がどんよりした。
このベッドで今夜…僕は彼に…?
「…塔矢、先にシャワー浴びる?」
「は?え…?も、もう…?」
ベッド横の時計を見るとまだ4時過ぎだ。
「ごめん…。夜まで待ってやりたいけど…無理そう…」
「え…?」
何が無理なのかよく分からないけど、今はとにかく進藤から離れたかったので、僕は言われた通り先にシャワーを浴びることにした。
バスルームを開けるとまたしても僕好みの洗面台。
独立してるバスタブとシャワー室。
そしてドアを挟んでのトイレ。
もし進藤がいなかったら僕は大燥ぎしてホテルライフを満喫してるところだろう。
だけど…現実はそう甘くない。
はぁ…と溜め息を吐いて、僕は気分がブルーのまま服を脱ぎ始めた。
あんなに悩んだ服。
あんなに悩んだ髪型、メイク、アクセサリー。
全部…意味がなかった。
だって彼が本当に求めてたのは……僕の産まれたままの姿だったんだから―。
この胸も触られるんだろうか…。
嫌だ…。
お尻も触られるのかな…?
嫌だ…。
そしてこの部分も…。
ものすごく嫌だ…――
再び溜め息を吐いてシャワー室から出ると、僕は重要なことに気付いた。
……何を着ればいいんだ……?
元着ていた服?
この棚にあるバスローブ?
それとも浴衣?
一番無難なのは浴衣だけど……しまった。
ここにはない。
ベッドの上にもなかったから、たぶんテレビ横の引き出しの中か、ドアの横のクローゼットの中か…。
ど、どうしよう…。
進藤に持ってきてもらうわけにもいかないし…
このバスタオル一枚のまま取りに出るのも…
えぇい!
もうバスローブでいいや!
カチャ…
恐る恐るバスルームを出て行くと、進藤は窓の外をぼーっと眺めていた。
「進…藤…?」
と声をかけると僕の存在を思い出したかのように…こっちに振り返ってきた―。
「あ…、もう出たのか?」
「…うん」
「じゃあ…オレもひと浴びしてくる」
「…ああ」
僕と目も合わせないで、そのままバスルームに直行してしまった。
そしてバタンとドアが閉まった瞬間に――僕の耳に悪魔の囁き声が聞こえた気がした。
『逃げるなら今だ』
って―。
何年か前のドラマで見たことがある。
援交してる女の子が、ホテルまでは大人しく付いて行って、男の人がシャワーを浴びてるうちにお金だけ盗んで逃げるってやつ…。
同じようにすれば僕だって貞操は守れる!
……だけど…脚が動かない…。
だってこれはドラマとは違う。
援交じゃない。
相手だって名前も知らない一夜限り人のじゃない。
これは彼への誕生日プレゼントなんだ。
進藤への…。
僕が誰よりも気にかけてる、たった一人のライバルへの…。
一生…囲碁を続ける限り向かい合っていかなくちゃならない相手…なんだ。
きっと今逃げたら…前よりもっと気まずくなる…。
それだけは嫌だ!
前の明るいキミに戻って欲しい…!
カチャ…
10分後――進藤の方もバスルームから出てきた。
初めてみる彼のバスローブ姿に思わず顔が赤くになる。
浴衣は何度か見たことあるけど…、その時とは雰囲気がまるで違う…。
カッコいいと言うか…大人っぽいと言うか……直視出来ずに下を向いてしまった―。
これからどうなるんだろう…。
いきなり始めるのかな…?
せっ…セックスを…?
まだ5時にもなってないのに?
彼の足が一歩一歩こっちに近付いて来る。
嫌だ!
来ないで!
待って!
まだ心の準備が――!
……え……?
進藤の足はベッドに座ってる僕の前をそのまま通りすぎ――彼はソファに腰掛けてしまった。
思わず顔を上げてしまう。
「進藤…?」
「………」
うつろな目で…ジッと僕の体を見つめて来る。
僕と視線だけは合わさずに…頭から爪先まで…物欲しそうに…―。
そしてぎゅっと…苦しそうに目を閉じた―。
「進藤…?」
「……ごめん」
「え…?」
目を微かに開けた進藤が…ゆっくりと僕の目と視線を合わせてきた―。
「やっぱりこんなの…間違ってるよな…」
「え…?」
「ごめん塔矢…もういいよ。ありがとう…」
「は…?」
「もう帰っていいから…」
「え…?どうしたんだ…?突然…」
「いいからっ!さっさと帰ってくれっ!!」
「………」
いきなり冷たくされて、理不尽さに僕は立ち上がった。
「何なんだキミは!意味が分からない!」
「………」
「もう知らない!本当に帰るからな!」
着ていた服を掴んで、再び着替える為にバスルームに入った。
怒りに任せてバタンっと大きな音をたてて――
全く!
何なんだ一体!
僕をこんな所にまで引っ張ってきておいて!
シャワーまで浴びせておいて!
それなのに
『やっぱりこんなの間違ってるよな』
だって?!
僕が決めたプレゼントにケチをつける気か?!
だいたい僕は普通のデートだけのつもりだったんだ!
キスだとかセックスだとか、そこまで勝手に話を飛躍させたのはキミの方だぞ!!
もういい!
キミが帰っていいっていうなら本当に帰るからな!!
言っておくけどこんなチャンスもう二度とないからな!
せいぜいキミはこれから好きでもない女の子を抱き続ければいいよ!
ふんっ!
バンッ
再び怒りに任せてドアを開けると――進藤はデスクに突っ伏していた―。
……泣いてるのか…?
「進藤…じゃあ僕帰るから…」
「……」
「じゃあね!お誕生日おめでとう!」
「……」
一直線にドアまで向かっていった。
ドアノブを掴んで…チラッと後ろを振り返る。
すると進藤が涙目でこっちを見ていたので思わず目が合ってしまい、慌てて顔をドアに戻した―。
カチャ…
僕を逃がしてくれるドアが開いた―。
ここを出て…ドアを閉めてしまえば…僕の貞操は守れる。
だけど……僕と進藤の関係は何も変わらない…。
気まずいまま…。
…いや、たぶん明日からはもっと悪くなるだろう…。
もしかしたら碁会所で打つという最後の繋がりも…消えてしまうかも…―
そんなの…嫌だ…。
貞操を失うことよりもっと…嫌だ…――
バタン…
「塔矢…?」
ドアを閉めて…再び進藤の元に帰ってきた僕を……彼は茫然と見つめて来る。
「帰らないのか…?」
「………」
黙ったまま…ただ頷く。
「帰れよ…。でないとオレ……オマエに…」
「人をこんな所まで引っ張ってきておいて、何を今更…」
「オマエ初めてなんだろ…?こんな好きでもない男とするもんじゃねぇよ…」
「キミだって…好きでもない女の子を初めに抱いたんだろう?同じじゃないか…」
「オレだって…出来ればオマエを一番初めに抱きたかった…―」
進藤が遠慮気味にそっと僕の腕を掴んできた…―
「じゃあ今抱いたら…僕はキミの何番目の女なんだ…?」
「二番目…」
「それならまだ許容範囲な気がする…」
「いいのか…?本当に…?」
「いいも悪いもキミへのバースデー・プレゼントだし…。僕はキミが一番喜んでくれるものをあげたい…」
そっと掴まれていた腕がキツくなる。
椅子から立ち上がってジッと僕の顔を見つめてくる。
身長があまり変わらない僕らは目線も同じ。
だけど彼の方が大人。
どんどん熱を帯びてくる瞳を持ってる。
キミの頭の中では僕はどんな姿?
何をしてる?
進藤…。
今日だけはその想像通りにしてくれて構わない。
もう僕は逃げも隠れもしない。
キミにこの体をあげる――
○●○●○
進藤の顔が徐々に近付いてきて――僕達は二度目のキスをした―。
「――ん……―」
一度目と同じように優しく何度も啄まれて…彼の唇の感触や温かさを直に感じ取っていく―。
目を瞑ると一層唇に神経が集中して、息をすることも出来なくて…頭がぼんやりしてくる…―
「―…はぁ…は…ぁ」
「…塔矢…―」
唇を離した後、進藤は僕の体をキツく抱き締めてきた。
まるでお互いの緊張をほぐすかのように取ってくれる…この抱擁の時間…。
次第に僕の心も落ち着いてきて…僕の方からも彼の背中に手を回した―。
きっと傍から見たら、僕らは完璧恋人同士に見えるだろう―。
それくらい僕らはお互いの体を密着させて――抱き締め合った。
……不思議……
全然嫌じゃない…。
むしろ彼の感触は心地いい―。
「塔矢…好きだ…」
進藤の口から彼の真実の気持ちが溢れ出た。
「好き…だ……好き…」
苦しそうに何度も僕の耳元で囁いてくる―。
「…いつから?」
口が勝手にした質問に、進藤は体の力を少し緩めて…僕の目を見てその問いに答えてくれた。
「オマエに見捨てられた時から…」
え…?
何を言ってるんだ…?
僕がキミを見捨てるわけないじゃないか…。
……だけど、多分あの時のことを言ってるのだと思う。
中学1年の時の夏の終わり――saiに負けた次の日。
僕がもう二度とキミの前に現れないと言ったあの時のことを――
あの時から僕らの立場が逆転したんだよね。
今まで僕がキミを追いかけてたのに、あの日からキミが僕を追いかけるようになった。
僕はキミに抜かれないよう必死だったんだよ?
知ってた?
でも……そうなのか。
そんな昔から…キミは僕のことを思ってくれてたのか。
ありがとう…。
それだけしか言えないけど、今だけは…キミの気持ちに応えてあげるね。
3年間の想いを今夜ぶつけてくれて構わないから――
「塔矢……」
進藤に促されて――ベッドに座らされる。
僕の頬に音を立てて軽くキスをした後、彼は窓に移動した。
カーテンを両サイドから閉めて――部屋を薄暗くしてくれる。
この位の暗さなら、目が慣れてもあまり見えないし…恥ずかしくないかも…。
と喜んだのも束の間、ベッド脇のルームライトを点けられてしまった。
廊下より少し薄い橙色。
確かにムードは出そうな照明だけど……正直恥ずかしい。
真っ暗の方がいい。
「あの…、進藤…」
「ん…?」
「出来れば…その…もっと暗く…」
進藤が僕の横に座って――肩に手を回してきた。
頬にも再びキスをされる―。
「ごめん…、これ以上は暗く出来ない。オマエをよく見たいし…」
「僕は……見られたくないんだけど…」
「オレは見たい」
「でも…」
僕の承諾を得ないまま、進藤は体に体重を乗せてきて――僕は彼の下に組み敷かれた―。
「…んっ…ん…―」
キスされながら…体を少し持ち上げて、ベッドの中央に移動させられていく―。
「――んっ」
口の中に何かが入ってくるのが分かって、思わず目を見開いてしまった―。
何…?
舌…?
口内を探られて…歯をなぞられ…僕の舌に絡んでくる―。
まるで進藤の口の中に吸われるように…僕の舌が導かれる―。
彼の唾液が僕の中に落ちてきて…混ざって…口の隙間から零れ落ちてく―。
「ん…っ、ぁ…ふ―」
今までとは比べ物にならないくらい激しくて深いキスに…頭がおかしくなってしまいそうだ…―
気持ちいいのか…悪いのか…、それすらよく分からない…―
「―ん…っ、ぁ…」
ようやく口を離されると、唾液の糸が目で見えるほど引いているのが分かった…。
「塔矢…―」
続けて今度は首にキスしてくる―。
喉の方から段々と左にずれていって…唇で摘まれたかと思うと――舌で舐められる。
「…ぁ……」
こそばゆくて…思わず笑ってしまいそうだ…―。
だけど彼の手が服の上から胸に触れた途端――その余裕は消えた。
来た…、ついに来た…。
この時が…―。
初めて他人に胸を触られて…その部分が異様に熱くなる…。
そして服の隙間から手を滑りこまされ……ブラの上から触れてきた。
「塔矢、ちょっとごめん…」
そう言うと彼は僕の着ている服を一気に脱がし始めた―。
どんどん捲られて…腕を通されて…脱がした服を床に落としていく―。
ブラの肩ひももずらされて…背中に回った手は手慣れた手つきでホックを外してきた。
直に露になった胸に彼の手が触れてきて…揉まれていく―。
「…ぁ、…進…藤―」
彼の口が首筋から鎖骨…鎖骨から胸へと、唇と舌を滑らせながらどんどん降りてきて……ついに胸を弄り出した。
手で寄せて、その膨らんだ胸に進藤の口がしゃぶりついてくる―。
先端を指で転がして摘んで弄び――まるで赤ちゃんのように吸ってくる彼。
歯で甘噛みされるとビクッと肩が反応してしまう。
「も…、やだ…っ」
しつこく舐めて吸ってくる彼の髪を引っ張ると、今度は更に下に進んできた―。
お腹にキスをしながらも、手は既にどんどん先に進んで……スカートを少し捲って――太股のあたりから徐々に手をずらしてくる。
目的の場所はただ一つ――アソコだろう…。
「――んっ」
下着の上からあの部分を触られて、気持ち悪さと…こそばゆさと…恥ずかしさが一気に込み上げてきた―。
いや…。
やだ…。
やめて…―
スカートも下着も脱がされて――全裸を曝される羞恥に耐えられず、体を捻って隠そうと試みる。
けれど直ぐさま戻されて、更に脚を左右に大きく開かれてしまう―。
「ちょっ、やだ…進藤―」
「塔矢…」
僕の声なんかお構いなしに、お腹から太股まで…いたる所にキスしてくる彼。
指で直接秘部を触られて――擦られて――くちゅくちゅとイヤらしい音が僕の耳にまで届いた。
「―…ぁ……」
麻痺していくように…感覚が分からなくなっていく僕の大事な部分。
誰かに触られるのは初めて。
自分でもこんな触り方…したことない。
「―ひゃ…っ」
彼の口がその部分に近付いてきて――舐められてしまった。
指で更に広げて、前から秘部までをくまなく舌で弄ってくる。
その柔らかさと熱さが何とも言えない気持ち悪さで…進藤の髪をぎゅっと掴んだ。
もう……嫌だ…――。
「……塔矢?」
「…ぅ…――」
「大丈夫か…?」
進藤のその確認の声に、僕は乱暴に頭を大きく振った。
全然大丈夫じゃない。
もう嫌だ…!
「……ごめんな」
口では謝ってくれるものの、彼の手は僕の下半身から離れようとせず――ついには指を中に入れてきた―。
「や…っ、ぁ…――」
優しく、広げるように先を動かして…、掻き回しながら…どんどん奥に入ってくる。
ゆっくり進んでくれるから…痛くはない。
だけど未知の世界への恐怖で腰が引ける。
いつも碁石を持ってる彼の指。
何度も見たことあるから、太さとか長さとかも知ってる…。
だけど指の後は…?
彼はこの後…自分のアレを同じ場所に入れるつもりなんだろう…?
その行為をセックスって言うんだろう…?
だけど僕はそんなもの…見たことも聞いたこともないから…想像も出来ない。
だから怖い。
僕ら女の胸にも大小があるみたいに、男の人のアレも個人差があるのだろうか…。
大きかったり…小さかったり…普通だったり…。
普通がどの程度なのか知らないけど、進藤のは小さければいいのに…と願ってしまう。
小さければ…痛さも減るだろうし…。
まだ成長期だから成熟してない可能性も十分にある。
「――っ…」
そうこう考えてるうちに、指の数が増やされてしまった―。
微かな痛みと、ジン…とした熱さを感じる…。
涙目で恐る恐る視線を下に向けると――僕の表情を伺っていたと思われる進藤と…目が合ってしまった。
慌てて頭ごと横に向けて視線を逸らす―。
「…塔矢」
彼が足下から這い上がって……顔を近付けてきて、頬にキスしてきた―。
その為に一度指を抜かれた下半身は…解放感に溢れている。
キスしながらも胸を揉んでくる左手。
僕に触れている彼の体からはバスローブの柔らかさを感じた。
「……不公平だ…」
「…え?」
僕がぼそっと呟いた言葉に彼は目を見開け、体をわずかに起こした。
「何が…?」
「…僕が素っ裸なのに…キミがバスローブを着てるのは…不公平だ」
「…ああ、そうだな」
じゃあ…と直ぐさま脱ぎ出した彼の姿を直視出来ず、思わず目を瞑ってしまった。
「これでいい?」
と耳元で囁いてきたので、ゆっくり目を開けると――いきなり彼の胸が目に入ってきた。
無性に恥ずかしくなってまた目を閉じる。
「…塔矢?」
「やっぱり着ててくれ…」
「は?何で…?」
「いいからっ!」
だけど進藤は裸のまま――僕を上から抱き締めてきた―。
彼の温かさを直に感じて…体中が熱くなる―。
そして僕の下腹あたりに何やら当たってる固いもの…。
それが彼のアレだと気付くのに時間はかからなかった。
「塔矢…」
進藤が僕の顔や首に何度も愛しそうに口付けてくる―。
だけど僕は下半身が気になって気になって…それどころじゃない。
進藤が抱き締め直して動く度にそれも動いて…ずれていく…。
太股の間に入ってきて、僕のアソコにも擦れた瞬間――僕は驚いて目を見開いた―。
「や…っ…」
体を押して離そうとするものの、進藤は僕の意図を読んでるかのように――更に擦りつけてきた―。
「進…藤…っ」
「塔矢…、挿れてもいい…?」
「…え?」
どこに置いてあったのか、いつの間にか手にしてたゴムの袋を歯で開けて――片手で器用に付けていく。
その時初めて目にした彼のものに驚いて――僕は一瞬声を失ってしまった。
ぜ…全然小さくない。
どうしよう。
そんなに太くて長いものを入れられて……痛くないはずがない。
「…塔矢…」
進藤が僕の脚を再び左右に大きく開けてきて――入口に押し当ててきた。
「待っ……――ぁ…っ――」
少し先を挿れられただけでも痛さはかなりのもので――ぎゅっと歯を食いしばる。
涙がどんどん溢れ出て…視界が滲んでいった―。
「…痛…っ…、進…―」
「ん…、あと少し…」
声から進藤の方も苦しそうなのが分かった。
目を閉じて、下半身の感覚だけで探って…奥に進めていかれる。
「…ぁ……塔…矢――」
「進……藤…」
お互い無我夢中で縋りつき――抱き締めあった。
僕は痛みを紛らわす為に、そして進藤は僕を…愛しむように―。
「ん…っ…、ん…―」
抱き締めると自然に近付くお互いの唇。
意味もなく重ねて――舌を絡めあった。
上も下も彼に触れてる部分全てが熱い…。
「んっ…ぁ…はぁ…―は…ぁ…―」
口が離れて…目を開けると――進藤の汗ばんだ顔が視界に入ってきた。
今にも再び唇が付きそうな距離で、荒れた呼吸を整えながら…見つめあう。
「塔矢…、オレ今…すげぇ幸せ…」
僕の垂れた涙をそっと舐めてきた。
「ずっと…こうしていたいかも…」
「そう…?僕は早く抜いて欲しいよ…」
「痛い…?」
「いや…、今はそんなに痛くないけど…」
「んじゃもうちょっとだけ…」
更に腕の力を強めてぎゅっと抱き締められた―。
その瞬間に繋がってる部分にも更に押し込められて――僕の中にある彼の存在を再確認させられる…。
本当に今、この進藤とセックスをしてるのかと思うと……胸がぎゅっと締め付けられる。
自分のしていることへの衝撃と後悔と、彼が喜んでくれてることへの満足感が一度にきて……おかしくなりそうだ。
でも、全然嫌じゃないのが不思議…。
さっきまであんなに嫌だと思っていたのに、いざしてみると…嫌だと思うどころか、むしろ心地いい…―。
セックスへの恐怖も今はなくなってる…。
「塔矢…好きだ…」
「……うん」
「好きだよ…」
「……うん」
「大好き…」
「……うん」
何度も好きだと耳元で囁いてくれるキミ。
ただ頷くことしか出来ないけど……僕の心の中は嬉しさでいっぱいになる―。
「な、塔矢…」
「……ん?」
「一緒に天国に行こっか…」
「…は?」
意味が分からず目をきょとんとさせてると、進藤は体を起こして――少し僕の中から引き抜いた。
「……ぁ…」
内部が少し擦れて――その不思議な気持ちよさに自然と甘い声が漏れる。
「…進藤…?」
僕の膝頭を掴んで再び大きく股を開けた後、彼は体重をかけるように一気にまた中へと押し込んできた―。
「あっ…、進…っ…ぁ…―」
「塔矢…っ―」
「やっ…、ぁ…あ…、っん――」
何度も何度も戻されては突き上げられて、激しく体を揺さぶってくる―。
もう自分の体がどうにかなってしまいそうなぐらい煽られて――絶頂へと導かれるのが分かる。
「ぁ…塔…矢、塔矢…―」
繰り返し名前を連呼されて、進藤の気持ちが痛いほど伝わってくる―。
彼の僕に対する3年間の想いが偽りじゃないことを思い知らされていく―。
「あっ、ぁん…―ぁ…――」
だんだん頭が真っ白になって何も考えられなくなって――
「あぁ…っ…――」
ドクンと一瞬信じられないくらいの快感が襲ってきた―。
「はぁ…は…ぁ…―」
「すげ…気持ちいい…」
僕が荒れた呼吸をする一方、進藤も気持ち良さそうに息を吐いて…その快感に浸っていた―。
「――ぁっ…」
一気に全部引き抜かれて、彼の存在がなくなった喪失感じるのと同時に、じんわりとした熱が広がってくるのを感じた―。
その熱さが何とも言えない満足感を引き起こしてくる…。
「んっ…―」
再び重ねてきた唇…。
もう何回目だか分からないキスは優しく何度も僕の唇啄んできた―。
「塔矢…このプレゼント最高だな…」
「………」
満足そうに僕の顔中にもキスを落としてくる―。
「僕はここまであげるつもりはなかったんだけどね…」
はぁ…と大きな溜め息を吐いてしまった。
「でも気持ち良かっただろ?」
「まぁ…ね」
正直に頷いてみせると、進藤は機嫌よくニッコリ笑って、僕の上から体を退けた―。
「もう6時かー。何かメシでも食いに行く?」
「元気だなキミは…。僕はしばらく動きたくないよ…」
「疲れた?」
「うん…」
「そっか…。んじゃルームサービスにする?それかオレがその辺のファーストフードをテイクアウトしてきてもいいけど…」
「ファーストフードなんか食べたくない…。ボーイが部屋に入るのも嫌だ…」
「我が儘なやつだなー。じゃあ何も食べない気かよ?」
「別に…それでも構わない」
「ええ?!それはオレが困る。まだまだ夜は長いのに、何か食わないと体力保たないぜ」
進藤のその言葉にぎょっとした。
慌てて体を起こす―。
「し、進藤…。それって…もう一度するってこと…か?」
「はは、何言ってんだよオマエ」
進藤が僕の肩に手を回して、耳元で囁いてきた―。
「一度どころのわけないじゃん。今夜は寝かすつもりないからな♪」
「………」
絶句して言葉を失ってしまった僕。
だけど進藤はコンビニで調達した食料をたいらげた後――本当に第2ラウンドをスタートさせた。
バカみたいに何度も何度も求めてくる進藤。
バカみたいに何度も何度もそれを受け止め続ける僕。
気がつけば外は真っ暗になっていて……再び気がついた時には外は薄明るくなっていた――
○●○●○
「あーあ…、一晩って早過ぎだよなー…」
「こんなに長かった夜は初めてだよ…」
――朝9時。
結局一睡もさせてくれなかった進藤を睨みながら、僕は黙々と着替え始めた。
進藤の方はまだ浴衣のままベッドでゴロゴロしている。
「オレまだ全然足りねぇ…」
「あれだけしておいてよく言うよ…」
「な、オマエ今日は午後の指導碁だけなんだろ?終わったらもう一回しねぇ?」
「残念、今日はもう21日だよ。僕がキミの恋人になるのは昨日だけだ」
「え〜〜」
「『え〜』じゃない!そういう約束だっただろう?」
進藤が拗ねたように口をぷぅっと膨らました。
「…じゃあさ、来年も…このプレゼントくれる?」
「来年の今頃には、キミも他に好きな子が出来てるんじゃないのか?」
「どうだろな…。そりゃ出来てたら…いいけど…」
「………」
「でも来年もオマエのことが好きだったら……くれる?」
「………いいよ」
そう言うとたちまち笑顔になった進藤は、僕に近寄って来て…頬に軽くキスしてきた。
「絶対だからな?約束な?」
「…うん」
――その後4年間続いたこのバースデー・プレゼント。
きっと進藤があんなことを言い出さなかったら…もっともっと続いてた気がする。
『オマエとの子供が欲しい』
そこまで僕が好きなのか?!と驚いたっけ…。
でも産んであげたのは、慈悲じゃない。
僕も心の中では…本当はキミのことが好きだったからだよ。
でもその気持ちに気付くのは…まだまだ先の話なんだけどね――
―END―