TIME LIMIT〜学歴編〜 おまけ

一ノ瀬君と須本君の出会い(一ノ瀬視点)





「私達は本学教育の趣旨を体して自立の精神を重んじ、学術を極めるとともに、自ら人格の陶冶に努め、社会の期待に沿うことを誓います。

令和843日 令和8年度 九州大学入学生総代 医学部 須本大樹」



伝統のアカデミックガウンを身に着け、壇上で誓詞を朗読する新入生代表――つまり首席合格者。

オレが初めて須本の姿を目にしたのは、大学入学初日。

入学式でのこの総代挨拶だった。



「なぁ、アイツって渋幕の須本大樹だろ?何で九大に?」

「普通に東大行くと思ってたよな」

横に座ってた同じ医学部の奴らがヒソヒソ話す声が耳に入ってきた


(須本大樹…?)


その名前には聞き覚えがあった。

2の秋頃だっただろうか、進藤が携帯でネットニュースをオレに見せてきたんだ。






「へー。一ノ瀬見て、これ」

「何?」

「税理士試験で最年少合格者が出たって」

「へぇ…、千葉の高校2年生ってことはオレらと同い年か」


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歳で税理士試験に合格はあり得ないくらい凄い。

何が凄いって、オレら高校生が受験資格を得ようと思ったら、まず日商簿記1級に合格しなければならないからだ。

それは独学で合格しようと思ったら、普通は1000時間以上の勉強量が必要になってくる難関試験。

その上税理士試験に合格には更に3000時間以上必要と言われている。

大学受験を第一に置いてるオレには、とてもじゃないけど真似できない芸当だ。


「この彼、どこの大学行くんだろうね」

「まぁ…、普通に東大だろうな」






あのネットニュースには顔写真は載ってなくて。

どんなガリ勉君かと思ってたけど……


(めちゃくちゃイケメンだな…)


まさかこんなところで顔を拝めると思ってなかったので驚いた。

しかも同じ医学部。

ぶっちゃけ、この大学を首席合格出来るような奴は、本来なら東大京大だって余裕で受かるレベルのはずだ。

九州出身なら九大にこだわる奴もいそうだけど、須本は千葉出身だ


(何でここ受けたんだろ…)




 




翌月曜日、オレは医学部のガイダンスに参加する為に、病院キャンパスにやってきた。

その時オレの横に偶然座って来たのが――なんと須本だった。


「隣、いい?」

「…どうぞ」


九大医学部は半分が九州の有名高校出身者で占められている。

おそらくオレらみたいに関東からの進学者はごく僅かだろう。

オレは小さい頃にお世話になった先生を追いかけてこの大学に来たけど、須本はどうしてここを受験しようと思ったんだろう?


チラリと横目で様子を伺うと、スマホでLINEをしていた。

おそらく相手は……彼女だろう。


『もう会いたくなってる』

とかいう文字が一瞬見えたからだ。


(須本も遠恋なのかな?)


そういうオレももちろん進藤と遠距離恋愛だ。

まだ付き合いだして1ヶ月。

普通なら一番盛り上がってる時期だと思うのに。


オレも進藤とのLINEを開いて、やりとり履歴を見てみた。

最終メッセージは昨日の晩。

『おやすみ』

のスタンプをお互い送り合ったのが最後だった。



「それ、彼女?」


須本に話しかけられる。

「あ…、うん」

「もしかして大学入って遠恋?」

「うん…」

「俺も。お互い辛いよな」

「だよな。6年なんて気が遠くなりそうだよ…」

「だよなぁ…。あ、俺、須本。須本大樹」

「一ノ瀬だよ。一ノ瀬凌。よろしく」

「よろしく」



この会話がきっかけで、オレらは妙に親近感を感じたのか、以降よく一緒にいるようになる。

一浪二浪が当たり前の医学部で、二人とも現役合格で同い年だったこともあるのかもしれない。

関東出身で、恋人と遠距離恋愛してるところも同じだった。



「須本はいつから彼女と付き合ってるんだよ?」

「高17月かな」

「へー…長いな」

「一ノ瀬は?」

「先月。卒業式の日からだから」

「えっ、それで遠恋ってキツくない?」

「うん…まぁな」


デートなんて図書館で数回しただけ。

体を合わせたのだって1回だけだ。

もう2年以上付き合ってる須本はもちろん彼女とは今まで数え切れないくらいデートして……やることもやってきたんだろう。

オレだって、出来ることならもっと早く進藤に告りたかった。

受験勉強を何より優先してしまった高校生活が悔やまれる。


(でも須本は両立出来てたんだよな…、凄すぎる)

(それどころか税理士試験まで合格してるって…、一体どんな頭してるんだよ)



「須本って…、新入生総代だったよな?」

「え?うん」

「てことは首席合格なんだよな?共通テストの自己採点、何点だった?」

「それ、聞いちゃう?」


須本が少し言い辛そうにしながらも、小声で教えてくれる。



990点」



「……は?」



はあああああああ???!!!



「現代文で10点分ミスったんだよなぁ」と……

「ちょ、ちょっと待て。じゃあ国語以外は満点だったってことかよ?」

「え?うん」


うん…って。


(ますます謎過ぎるだろ)

(その点数で何で九大なんだ…)



「須本…、オマエ何でわざわざ九州まで来たんだよ?」

「え?そりゃもちろん、一人暮らしがしたかったから」



……はい?


(まさかのそんな理由…??)



「物理的に実家から離れたくて。でもマズった、遠恋がこんなにキツいとは思わなかった…」

「…はは」


(いやいや、普通に想像つくだろ……遠恋がキツいとか)



果たして本当に頭がいいのか悪いのか分からない、須本は不思議な奴だった。

でもとりあえず性格はめちゃくちゃよくて。

一緒にいて居心地がよかったコイツとの大学生活が、こうして幕を明けたのだった――


 

 

 


END



 

 


以上、一ノ瀬君と須本君の出会いのお話でした〜。リアルタイム2026年の4月のお話です。
まぁ共通テスト1000点満点中990点取っちゃう天才須本君ならもちろん首席合格だろうし、新入生代表の挨拶くらいしてそうですよねってことで〜。
櫻井君みたいに「何で東大じゃないんだ…」と思ってた人たちは、他にも大勢いたみたいです(笑)