TIME LIMIT〜バイト編〜 おまけ〜明菜視点〜





「そろそろ財布買い替えようかな…」



大樹さんがボソリと言ったセリフを、私は聞き逃さなかった。

大樹さんがお風呂に入ってる間に、彼の使ってる財布をGoogleレンズにかけて調べてみる。


(うわ、このブランドの財布って7万もするんだ)



来月32歳の誕生日を迎える大樹さん。

去年の誕生日は二人でたくさん撮った写真を使って、手作りのフォトアルバムをプレゼントした私。

もちろんそれも物凄く喜んでくれたけど、今年は実用的なものをあげたい。

つまり同じような財布をあげたいのだけど……先立つものがない。


(うーん…、どうしよう…)


今は大樹さんから家族カードを渡されてる私。

自由に使っていいよとは言われてるけど、さすがに大樹さんへの誕プレを彼のカードで買うのは何か違う気がする。

もちろん両親から貰った貯金もあるけど、それで買うのも何か違う気がするのだ。


(ここはやっぱりバイトするべきだよね!)


幸い今は春休みで時間が有り余ってる私。

彼を驚かせたいから、黙ってこっそりバイトしよう。

大樹さんが仕事に行ってる間だけ働けば、まずバレないはず。

そう思った私は、惣田さんみたいに家の近所のチェーンカフェで働くことにした。



「いらっしゃいませ〜」


初めてのバイトは物凄く楽しかった。

バイト仲間は私と歳がそう変わらない若い女の子ばかりで、それも楽しい要因だったと思う。

でも彼女達と私とでは、大きく違う点が一つあった。


「須本さんって彼氏いるの?」

「え…?!」


バイト中、一緒にシフトに入ってた女の子が聞いてきた。

ど、どうしよう…、彼氏はいないけど夫はいるっていうか……

でも私の歳で夫がいるってやっぱり変だよね?

根掘り葉掘り聞かれても嫌だし、ここは

「いるよ〜」

と答えておいた。


「そうなんだ。同い年?」

「ううん…年上」

「へー!大学の先輩?」

「う、うん…そんな感じ」

「私も2こ上の先輩と付き合ってるんだ」

でももうすぐ就活が始まるみたいで、忙しいってあんまり会えないの…、と落ち込んでいた。


「須本さんは彼氏にちゃんと会えてる?」

「う、うん…(毎日。というか一緒に住んでる)」

「そうなんだ、いいなぁ…。でも須本さん、結構な日数バイト入ってるよね?」

「うん…、週5で入れてもらってる。彼氏の誕プレに間に合うように」

「彼氏の為にバイトしてるんだ!めっちゃ好きなんだね〜彼のこと

「うん…大好き」


めちゃくちゃ好きだ。

交際半年で結婚しちゃうくらい大好き。


だから大好きな彼に喜んでもらいたい一心でバイトに励んだ。



だから……彼がバイト先に現れた時は真っ青になった……



(終わった……バレた……)



しかも大樹さんの表情はめちゃくちゃ静かに怒っていた。

きっとバイトしてたこと自体に怒ってるんじゃないと思う。

私が黙って始めて、彼に一言も言わなかったことに対して怒ってるんだろう……

(しかも百合子と会うとか嘘までついちゃった…)


おまけに店長に

「彼氏への誕プレ買いたいんだよね?」

と大樹さんに聞こえるように言われてしまう。

誕プレのことがバレてしまったと真っ赤になってしまった私とは裏腹に、大樹さんの顔は真っ青だ。

(あ、ヤバい…、もしかしたら私に他に彼氏がいると勘違いしてるのかもしれない)

今まで恋人に浮気されて別れを告げられてきた彼にとって、この勘違いは一大事だ。


「違うの!違うから大樹さん!」


直ぐ様訂正する為に私はカウンターを出て彼の元に急いだのだった――


 

 

 

 

 

 

 

 



「え?本当?続けてくれるの?」

「はい、夫がOKしてくれたので」


大樹さんにバレた翌日、私は店長に春休み後も続ける意向を示した

めちゃくちゃ喜んでくれた。


「でもビックリしたよ。昨日の彼、彼氏じゃなくて旦那さんだったんだね」

「すみません…、この歳で結婚してるの何か恥ずかしくて…」

「何で?私はいいと思うよ。結婚したいと思えるくらいの相手に、私なんて出会ったことないからね」

「私も夫に出会わなかったら、きっと全然違う人生だったと思います」


とりあえず入れる大学に入って。

目的もなくダラダラ女子大生生活送って。

そして告ってきた特に好きでもない男と付き合う――もし大樹さんに出会わなければ、私はそんな感じのつまらない人生を送っていただろう。


(出会えて本当によかった…)


 

 

 

 

 



翌月10日が初めてのお給料日だった私。

前に惣田さんが「もう感動ものだったよ〜」と言っていた意味が分かった気がした。

働いてお金を稼ぐことがこんなに大変で、でもこんなにもやりがいのあることなんだって、初めて実感したからだ。


(毎日お仕事頑張ってくれてる大樹さんに、もっともっと感謝しないとね…)


予定通り、彼への誕プレを購入した私。

私が初めて貰ったお給料で買ったこの財布を、大樹さんが長く大事に使ってくれたらいいなぁと思ったのだった――

 

 

 

 

 

 

 


END

 

 

 


以上、バイト編の明菜視点でした〜。
もう須本君は一生捨てれないと思われますな(笑)

にしても明菜はGoogleレンズ好きですね(笑)
明菜が一人でブランドショップに入れると思えないので、きっと一ノ瀬君あたりに付いてきて貰ったと思われます。
ついでに自分の財布も買う一ノ瀬君です。プラス、子供服売り場に行って、綾ちゃんの服も買ってそうですな。