●THORN PRINCESS 30●
「アキラ〜?大丈夫か〜?」
「うん。よいしょ…っと」
9月上旬――僕らはついに一緒に住み始めることにした。
これからヒカルと過ごすこのマンションは4LDKのメゾネットタイプ。
室内に螺旋階段があるのは可愛いんだけど……荷物を二階に運ぶのは正直言って一苦労だ。
「ふぅ。これで一応荷物は全部入ったかな?」
「そうだな。後は合間をみてぼちぼち片付けるか」
この夏に本因坊・碁聖共に防衛に成功したヒカルは、相変わらず目まぐるしくスケジュールに追われている。
僕の方も今月からは正式に復帰。
例のことでは同情されたり…自業自得だと言われたり…最初はまるで腫れ物扱いだったけど―――ヒカルが守ってくれて、今は周りの目も噂も落ち着いてる。
――ヒカルと結婚して良かった――
僕は最近しみじみそう思う。
「んー、やっぱり服だけは今日中に片付けちまうか。場所取るし」
「そうだね」
クローゼットのある二階の寝室のドアを開けると、買ったばかりの大きなダブルベッドが目に飛び込んできた。
服類を横に置いて、即座に横になってみる――
「ベッド好き…」
「そういやオマエ、実家じゃずっと布団だったもんな」
「うん。畳に布団も好きだけど……やっぱり寝るにはベッドが一番だよ」
「ふーん」
ベッドの上からヒカルに来て来てと手招きしてみたけど、気付かない振りをして…黙々と服をクローゼットに片付け始めてしまった。
「片付けは後でも出来るのに…」
ボソッとぼやいて…僕も片付け始めた。
ヒカルと結婚して良かった。
良かったんだけど……セックスの面では少し不満がある。
なぜならこの3ヶ月間……あのことがあって以来……僕らは一度も体の関係を持ってないんだ…――
「……はぁ」
お風呂の中で何度も溜め息を吐いてしまう。
今夜は出来るのかな…と。
乱交のお陰で無駄に身についた僕の性技は……あの夫の前では無意味同然。
無駄に強くなったこの性欲は……邪魔なだけ。
セックスに怯えるヒカルの気持ちも分からないでもないけど、もうあれから3ヶ月も経ってるんだよ?
僕の体はもうとっくに元に戻ってる。
それなのに…――
カチャ…
お風呂を出て寝室に戻ると、先に入ったヒカルはベッドで詰め碁集を熟読していた。
僕も彼の隣りに潜り込み…本を覗きこんだ―。
「あれ?永夏?」
「うん。韓国の詰め碁集を秀英が送ってくれたんだ」
「ふぅん…」
「………アキラ何してんの?」
「言わなくても分かるだろ?」
僕が彼のパジャマのボタンをはずし始めると……ヒカルは困ったように眉を傾けてきた。
「やめろよ…」
手首を軽く掴まれ…拒まれる。
「どうして?キミ…もう僕に興味がないの?」
「あるに…決まってんじゃん」
「じゃあどうして抱いてくれないんだ?もう3ヶ月も…してない」
「………ごめん」
涙を潤ましながら訴えても……ヒカルは目を逸らして…体を反対側に向けてしまった。
「キミなんてもう知らない!僕が浮気しても知らないから!」
「え…」
動揺して一瞬だけ振り返ってくれたけど……またすぐ申し訳なさそうな顔をして…反対側に向いてしまった。
ますます涙が溢れて……流れ落ちる。
「…ヒカルの馬鹿…」
「…ごめんな。怖いんだ……オマエを抱くと…いつもとんでもないことになるから…」
「何度も言っただろう?!あれはセックスのせいじゃなかったって!」
「そうだけど……でも100%そうだって…言い切れないし」
「じゃあ何か?!もう一生しないつもりか?!」
「………」
黙ってしまったヒカルにキレて――僕は彼を無理やり組み敷いた―。
「ちょ…っ、…アキ…ラ」
「キミは僕に…夫に愛されない寂しい女になれって言うんだ…?」
「んなわけねーじゃん!愛してるよ!めちゃくちゃ…これ以上ないってぐらい」
「じゃあそれを態度で示してくれ」
「でも…」
それでも拒否するヒカルの下半身に手を伸ばす――
「やめ…っ―」
「ふぅん…。勃たないわけじゃあないみたいだな」
ヒカルの顔がカッと赤くなった―。
「悪い…かよ。そうだよ…毎晩こんな感じだよ。オマエのこと考えるだけで反応するし…横で寝られて熟睡出来た例しもねぇよ」
「悪いなんて言ってないだろう?むしろ…嬉しいよ。僕が言いたいのは、こんなになってるのに…どうして我慢するんだ?ってことだ」
「………」
「自分に試練を与えることがあの子への償いだとでも思ってるのか?」
「それは…」
「あの子は僕らの子だ。僕らがこの先子供を作る行為をしなかったら……産まれるものも産まれない。100%…ね」
「………」
「あの子が生まれるチャンスを作ってあげることが…本当の償いなんじゃないのか?」
「アキラ…」
涙を流して訴える僕を……ヒカルが下からぎゅっと抱き締めてくれる――
「僕はいつか…あの子を…ちゃんと産んであげたい…」
「うん…そうだな」
「キミと…家庭を築きたいんだ…」
「オレもだよ…。ごめんな…怖かったんだ…。オマエを抱くと…いつも理性がすぐどっかに行っちまって……めちゃくちゃにしちまうから…」
「理性がある方が嫌だよ…。適当に…抱かれてるみたいで…」
僕の方も上からぎゅっと彼に抱き付いて――肩に顔を埋めた―。
「僕は…キミと結婚してよかったって思ってる。キミにもそう思って欲しい…」
「思ってるよ。忘れた?プロポーズしたのはオレだぜ…?」
「うん…」
「好きだよ…アキラ。愛してる…」
「うん…」
「抱いてもいい…?」
「さっさと抱け」
「はーい♪」
肩に埋めていた顔を引き剥がされて……温かい唇を口付けられた。
何度も…何度も…愛おしむように――
そして僕らは3ヶ月ぶりに再び結ばれることになる。
もちろんもうしばらくは子供は作れそうにないけど……でも、いつかは作ろうね。
そして今度こそちゃんと産んで……二人で力を合わせて一人前に育ててあげようね。
これから一生をかけて…一緒にいい家庭を築いて行こう――
―END―
以上、茨姫でした〜。お疲れ様でした。
11月に書き始めたはずなのに既に2月…。
完結までに3ヶ月以上かかってしまいました…。
最後の10話は一気に書いたのでただ今バテ気味です(=_=)
こんなに毎日更新したの…TIME LIMIT以来かもしれませぬ…。
えー…内容につきましては取りあえずごめんなさい(土下座)
何が書きたかったのかと言いますと……
『慣れてるアキラに手ほどきしてもらうハタチになっても童貞ヒカル』
の組み合わせです。
ハタチですよ!二十歳!20歳!
うちのヒカルでは考えられませんよ皆さん!
(ちなみに改めて電卓で計算したところ、うちのヒカルの初体験年齢平均は16.2歳でした 笑)
えー…慣れてるアキラ…の設定を作るにはどうしても軽いアキラにしなくてはいけなくなりまして、根が真面目なアキラを軽くするには余ほどのことがない限り…ということで女棋士のあれこれが入ってきまして、でもうちのヒカアキはくっつくとすぐに妊娠してしまうので自然とそういう流れの方にも向いていき…あ、でもアキラにヒカルの子供を産みたくないと言わせるのも面白いかも…とか思ってしまい、だけどやっぱり結婚まで話を進め丸く収めたつもりだったのに…今度はどんどんアキラが専業主婦の方向に進んでいってしまい、止めなければ…と思ったのですが子供が生まれるとダラダラ長くなってしまうこと確実だったので…結果的には子供は諦めてもらい…何とか棋士に復帰させ、なおかつヒカアキをラブラブにしたかったので……こんなややこしい話になってしまった訳です。(最初にプロット作っとけ)
軽い感じで書き始めたのに…ものすごく重たい話になってしまって自分でもビックリです。ごめんなさい。
でも何とかまとまってくれてよかったです。
一つ一つを見ていきますと、まず女流棋士問題。
アキラの場合、もちろん女ということの問題もありますが、それよりもヒカルに抜かれたことが一番の問題でした。
男アキラなら長い囲碁人生の中で、ヒカルより上のままでずっと突き進んでいくことも可能かもしれませんが、アキラ子の場合どうしてもどこかで抜かれるのは運命…なんですね。
特にヒカルは急成長するタイプなので、それが10代で訪れるのは必須になってしまうかと…。
悔しくて悲しくて自分が情けなくて……ボロボロになった彼女の現実逃避が乱交でした。
そんなアキラを救ってやれなかったヒカル。
口を挟んだのはいいけど、アキラにしてみれば『誰のせいでこうなったと思ってるんだ!』とヒカルへの当て付けでますます酷くなって…気がついた時には中毒に。
ヒカアキは二人ともが意地っ張りなので、第三者が仲介に入らないと絶対に収まりません。
それで登場させたカウンセラーの先生。
カウンセラーですが、女医です。
(裏設定で、この総合病院の院長の娘…ということで病院内をあっちこっち好き勝手動き回ってたり)
今回はカウンセリングをしてるというよりは、ヒカアキを正しい道に導いてくれるお姉さん的存在で。
あと明子さんや緒方さんも仲介に参戦。
ヒカアキは周りに恵まれてるな〜…とどうでもいいことをしみじみ思ってしまいました(笑)
死産については……謝るしか出来ませんね、はい。
最初は仕返しのつもりで産むはずだった子供ですが、それでもヒカルを受け入れはじめて…24週お腹で育てて…いつの間にか自分の命より大事な存在になってたのに亡くなってしまって…、その時の悲しみは言葉では言い表せないほど辛いものだったと思います。
なるべく重たくならないように…引きずらないように…ということで、子供に少しだけ夢に出てきてもらいました。
何だかとってもファンタジーな世界ですが、ヒカ碁自体がそもそも幽霊との話なのでまぁいいか…と。
本当は死産の後、二人が離婚する展開や…そもそもヒカルの子供じゃなかった!という展開も考えてましたが……やっぱりこの終わり方が一番スッキリするよね!ということで、ひとまず完結です。
全30話、最後まで呆れずに(いや、呆れられてたかな?)読んで下さってありがとうございました!
また懲りずにこんなドロドロ話を書くかもしれませんが、その時も笑ってお付き合い下さると嬉しいですvv