●THORN PRINCESS〜過去編〜 2●



「塔矢、今日…ヒマ?打たない?」

「ごめん。先約があるんだ」

「そっか…」


それからも…オレが何度誘っても…塔矢が打ってくれることはなかった。

手合いが終わると彼女はすぐに棋院を後にし――彼氏の元へと急ぐ。

そして朝まで帰らない。

時には自分の家へ招待し……朝まで一緒にいる。


塔矢のことを考えれば考えるだけ胸が苦しくなって…吐き気がする。

イライラする。


それと同時に――


「碁聖の挑戦権獲得おめでとう。二冠も目前だね」

「………」


――本因坊が負けるわけがない――


口には出さないけど…皆の目がそう言ってて……もう気が狂いそうになった。

塔矢と打てれば…、ううん…一緒に居るだけでオレの心は落ち着くのに……彼女の側にはいつも他の男の存在があって………もうどうしたらいいのか分かんねぇ…――


次第にオレと塔矢の距離が開いていって……もう諦めようかなって思い始めたその時だった。




「……あれ?」



塔矢の横にいる男が毎回違うことに気付いたのは――



…どういうことだ…?







「塔矢プロ、この後空いてませんか?お勧めのバーがあるんですよ」

「はい、喜んで」



「………」


碁のイベントで偶然この会話を耳にしたオレは――塔矢とその男を付けてみることにした。

相手は正真正銘今日初めて会った男。

そいつの誘いを軽々と受ける塔矢。

レストランやらバーやら梯子した後……ホテルへと向かう。

驚いたのは男より…むしろ塔矢の方が積極的に見えたってことだ。

男が誘ってる…というよりは……塔矢がホテルに誘ってる…。

そして一夜のみの関係を持って……朝が来たらお去らば。



……何だよこれ……







「塔矢っ!!」

「……進藤」

男と別れて家へと帰ろうとした…彼女の腕を掴んだ。


「どういうことだよ…」

「…何が?」

「オマエ…彼氏は?」

「彼氏?何それ」

「……さっきの男は何なんだよ…」

「付けてたのか?ストーカー」

「質問に答えろよ…」

「うるさいなぁ…」


掴んでた手をバッと剥がされ、塔矢はタクシーを掴まえるために右手を上げた。


「塔矢っ!!」


直ぐさま停まったタクシーのドアが開いた後――彼女はオレの方に振り返って…気持ち悪いぐらいの笑みを向けてきた―。


「さっきの男の名前なんかもう忘れちゃった。誘って来たからちょっと遊んだだけだ」

「遊んだだけ…って…オマエ何やって…」


バンッ


「塔っ…―」



それからも止まることのなかった、止めることの出来なかった…ただストレスを発散する為だけに行われた…彼女のめちゃくちゃな性生活…。


…こんなの…絶対にまちがってる…


どうすればいい?

どうすればやめさせれる?

どうやったら彼女を更生させれるんだ?

オレに何が出来る?

何をすればいい?



一人じゃどうすることも出来ない自分の非力さが情けない…。


それでも塔矢…オレは忠告だけは止めないからな。


いつか…オマエが心を開いてくれることを信じて――











―END―













以上、茨姫・過去編でした〜。
この後茨姫本編に続くわけです。
もう既に泥沼です…ね(汗)
信じてるだけで救えるなら苦労しませんよ、ヒカル君(笑)