●THANK YOU●
今年もまた桜の季節が終わって、街に鯉のぼりが泳ぎ始めてきた。
キミは窓からそれをじっと見つめて、物思いにふけるんだよね。
そしてその後必ず――僕を抱き締めてくる。
「…オマエはどこにも行くな…」
「……」
毎年毎年聞かされるこの台詞。
そして僕も必ず―
「行かないよ…どこにも―」
と答える。
まるでそれは行事のように何年も続いている。
きっと進藤は前に大切な誰かを失ってるんだろう。
ちょうどこの鯉のぼりの時期に―。
それは進藤が入段した直後、休み始めた頃と重なる―。
きっとその誰かを失って、立ち直るまでにあの期間は必要だったんだろう。
戻って来た彼は――まるで別人のように凛々しくなっていた。
「進藤…苦しい…」
「ごめん…もうちょっとだけ―」
更に強く僕を抱き締めてくる。
何分か経つとキミは腕をといて、またケロッと笑顔を見せた。
「…サンキュー」
だけどその目元には微かに濡れた痕があって――いたたまれなくなる。
「…塔矢?」
そっと口付けをすると、彼はすぐに深く吸い付いてきた。
「―…ん…っ、ん…―」
舌を絡めてきて、僕の存在を感じ取るまで貪り続ける。
「っ…は、ぁ…―」
ようやく離された後、僕は彼の肩に顔を埋めた。
「…キミは、いつまでこんなことを続ける気なんだ…?」
「分かんねぇ…」
「キミには…僕がいるじゃないか…」
「お、嫉妬か?」
嬉しそうに笑う進藤の耳を引っ張った。
「真面目に答えろ…」
はぁ…と溜め息をついて、彼は真顔に戻った。
「ごめんな…。オマエも大事だけど、アイツも大事なんだ…」
「……」
「忘れることなんて出来ねぇし、忘れちゃいけないんだ。オレが忘れてしまったら…アイツの存在が本当に消えちまう…」
「……」
「だから、今日だけは勘弁な。明日には元に戻ってるから…」
そう言って僕から体を離した進藤は、碁盤の前に座った。
石を二つとも手前に置いて、いつもの棋譜を並べる。
それは途中までしか進んでなくて――その後また彼は物思いにふける。
涙を零しながら――。
「ごめん…ごめんな…。気付いてやれなくてごめん…。打たせてやれなくてごめん…。お別れ…言えなくて…ごめん…」
ひたすら謝り続ける彼の棋譜を覗き見た。
sai…
「……ありがとう」
この言葉をもって彼の懺悔は終了する。
「塔矢に会わせてくれて…ありがとう…佐為―」
穏やかな顔になった彼を、背中からぎゅっと抱き締めてみた―。
「…まだ言えない…?」
「うん…、もうちょっと…かな」
「そう…」
胸に回された僕の手を進藤が優しく触れてきた―。
ゆっくり振り返って、またキツく抱き締めてくる―。
「塔矢…好きだ…」
「うん…」
「大好きだよ…―」
「…うん」
「愛してる…」
まるで僕にも懺悔するかのように甘い言葉を連発してくる―。
だから僕はこの時期が嫌いじゃなかったりする。
……なんて言ったらキミはどうする?
―END―
以上、恒例(?)の5/5ネタでした〜。
ヒカルはこの日にすごくコンプレックスを持ってるよね。
そして誰かを失うことにも。
アキラまでいなくなったらたぶんヒカルは狂うと思います。
本当の本当の本当に!(力説)