●TELEPHONE●


ヒカルは今日、遠征でいない。

子供達も寝かし終わった。

久々に自分だけの時間を持てた僕は、珍しくテレビを見ることにした。

普段はニュースぐらいしか見ないんだけど…結構色んな番組をしてるんだな。

お笑い番組・音楽番組・クイズ番組・ドキュメンタリー番組・スポーツ番組…と適当にチャンネルを変えていくと、突然指が止まった。

左上に「奥様の本音」とかいうものすごく気になる見出しが書かれていたからだ。

何なんだろう…としばらくジッと見ていると、どうやら生活や夫に対する不満をぶつける番組らしいと理解した。

出ている女性も新婚から結婚2年・3年・4年…と30年をすぎる人まで。

子供がいる人いない人、いてもその年齢はバラバラ。

専業主婦の人もいれば仕事をしている人、パート・アルバイトの人もいる。

内容も生活費や養育費などシビアな問題から、家事分担、子育て、そして夜の生活のことまで。

夜9時を過ぎる番組だとこんなことも普通に言っちゃうんだ…と少し感心してしまった。

たいていは新婚の甘々の奥さんに対して、皆が活を入れる状態でそのお題は終了するんだけど……


僕は一体どれに入るんだろう…。


僕と同じ結婚して2年という人は3人いたけど、1人はまだ子供がいなくて、もう1人は年齢が30を超えていた。

そして最後の1人は20過ぎと年齢は近かったけど、専業主婦だったし…どれもちょっと僕とは立場が違うような…。


中でも特に気になったのが、子供を産むと旦那がもう自分を女として見てくれない!という問題での討論だった。

空気として認知されるというか、子供の母親として認知されるというか…とにかくセックスはおろか、キスの回数も減るらしいのだ。

新婚で子供もいない奥さんは毎日がドキドキの連続で、性生活も激しいらしい。

でも2年3年と経つにつれてどんどん状況が悪化して、5年も経てばもう夜の営みは月に1度とか、それよりもっとなくなるらしいのだ。

子供のいない夫婦はそんなに極端ではないみたいなんだけど…。


ふーん…世の中そういうもんなんだ。

じゃあ僕らは今でこそ週に1、2回はしてるけど、あと数年もすればしなくなるのか。

うん、それもいいかも。

ヒカルの余計な雑念が消えて、碁だけに集中するってことだろう?


でもその後この番組は浮気がどうとかいう話で討論しだした。

あれ…?

もしかして夜のやつがなくなるのは、夫が枯れるのではなくて、他で浮気し出すからなのか?

したい気持ちがなくなるのではなくて、妻に対してのその気持ちがなくなる、と―。


「……」


ヒカルも浮気とかするんだろうか…。

この番組によると男は誰でも浮気願望を持ってるとか。

どんなに素敵な奥さんがいても、魅力的な女性には惹かれるし、触ってみたい抱いてみたいと思うものらしいのだ。

…嫌だな。

ヒカルが他の人とするなんて、考えただけでもムカムカする。

僕たちは職業柄どちらかが出かけていることが極端に多い。

それは言い換えれば浮気し放題!なんだ。

今日も、碁聖の防衛戦で博多に行っているヒカル…。

もうとっくに対局は終わってる時間だ。

今何してるんだろう…。

まさか女性と一緒にいたりしないよな?!




プルルルル
プルルルル


気になって携帯に電話をかけてみた。


……出ない。

どうしてだ?!

なぜ出ない?!

やっぱりやましいことをしてるからか?!


プルルッ

『もしもーし、アキラ?』

「ヒカルっ?!」

30回ぐらいコールした後ようやく出た。


遅い…。

怪しい…。


『どうしたんだ?オマエが電話してくるなんて珍しいじゃん』

「……」

『何かあったのか?』

「いや…その、今…何してた?」

『今?風呂入ってたんだよ。着信が聞こえたからさ、慌てて出てきた』


お風呂?

慌てて?


「キミ…今一人?」

『は?今更なに言ってんだオマエ。嫌だぜ、タイトル戦で誰かと同じ部屋なんて。集中できねぇよ。まぁ…オマエだと大歓迎だけど―』

「……」


はっ!

なに赤くなってるんだ!

しっかりしろ僕!


「そ、そういう意味じゃなくて…」

『じゃあどういう意味?』

「……テレビつけて?8チャン」

『え?テレビ?ついてるけど…ちょっと待ってな、こっちじゃチャンネルが違うんだよ。えーと8チャンだとフジ系だから…』

電話の向こうでヒカルが新聞を広げている音が聞こえた。


『つけたぜー…って、何これ。オマエ何見てんだよ』

「色々勉強になったよ。ヒカルも見ておけばいい」

『って言われても…何だこれ?夫の浮気を許す派、許さない派ぁ??!浮気って何?!』

「許さないが90%らしいよ」

『えーと…許す派の理由は…自分もしてるからぁ??代償に物欲を申し出れるからぁ??別れたくないので見て見ぬふりぃ??』

「許さない方は慰謝料取って離婚という意見が大多数だ」

『……で?オマエは…?どっちなんだよ…』

「当然離婚だ!もう二度とキミとは仕事以外では話さない!子供達も僕が引き取って二度と会わせないからな!覚えておけよ?!」

『……はい』

ヒカルが昔の苦い記憶を思い出してか、妙に声が静まりだした。


『…それを言う為に電話してきたんだ…?』

「そうだよ!悪い?浮気なんてするなよ?」

『うん、しなーい』

急にヒカルの声が明るくなった。

へへっと笑ってきだす。

『心配してくれたんだ…?』

「キミ……喜んでる?」

『うん、オレってもしかしてすげー愛されてる?って気分だし』

「……」

『あー、今すぐそっちに飛んで帰って抱き締めたいー。まだ最終便あるかな?』

「ふん!キミっていっつもそんなこと言ってるけど、僕は知ってるんだぞ?!」

『何を〜?』

「あと2、3年もすればキミは僕に興味がなくなるんだ!」

『へーそうなんだ』

「そして僕とセックスするどころか、抱き締めたりキスすることもなくなるんだ!」

『ふーん』

「ふーんって…反論しないのか?!」

『えー、だってオマエそれって言い換えればさ、興味持ってほしい!抱き締めてほしい!キスしたい!セックスしたい!って言ってるようなもんだぜ?』

「なっ…」

『可愛いなアキラちゃんはホントにー』

「……」

『ちなみに、心配しなくてもそんな日は来ないからな』

「え…?」

『だってオレ今さ、めちゃくちゃ我慢してんだぜ?これ以上減らすなんて考えられねぇ』

「我慢?あんなにしてるのに?」

『あんなにって…週に多くて2回じゃん。オレ本当は毎日でもしたいもん』

「え…」

『ほら!オマエ今困っただろ?!だからしねーんだよ!ギリギリのとこで我慢してんの!』

「……テレビで言ってたのと違う…」

『はは、当然じゃん。オレまだ10代だぜ?若けーの!毎日でも溜まんの!』

「……」

『だからさ〜、オマエがヤらせてくれなかったらオレ、浮気しちゃうかも〜』

「キミって卑怯だ…」

『へへ、卑怯で結構。取引な?浮気しない代わりにちゃんと相手してくれよ?』


それって僕にメリットがないような気もするんだけど……仕方ない。


「…分かったよ」

『愛してるぜ、アキラ』

電話の向こうでちゅっとキスしてきた。

『じゃ、早速テレフォンエッチしよっか〜』

「ふざけるなっ!」

ブチッ



その後メールに『ゴメン。愛してる』と入ってきた。

はぁ…。

寝室に戻って、佐為の寝顔を覗いた。

「佐為…、お前はあんな男に成長したらダメだよ?」

本当に最低だ。

僕を抱くことしか考えてないあの絶倫野郎…。


でも…

それでも…

失いたくない大切な人だ…。

浮気なんてしてほしくない…。

僕だけを見ていてほしい…。


ずっと…


ずっと…


キミと一緒に――













―END―











以上、FEMALEシリーズ番外編でした。
ありそうでなさそうな番組…ですね(笑)
ポイントはアキラはそれをヒカルにも見せる!ってところで。
でもヒカアキはいつまで経ってもラブラブだと思います。
将来子供達が中学校とか行き出しても、朝から晩までラブラブチューチューしてると思う。
しかも子供の目の前で。
アキラは子供の前は嫌がりそうですが、ヒカルが無理やり…ふいをついて。
ヒカルのアキラ愛は留まることを知らないのです!