●TANABATA●
「アキラちゃん、今年もこれいる?」
仕事から戻ると、玄関のドアに手をかけたところで、お隣りのおばさんに声をかけられた。
彼女の手にはほどよい大きさの笹の枝が数本。
ああ…そういえば明日は七夕だったな、と思い出した。
「ありがとうございます。じゃあ小さいのを一本下さい」
「これでいい?今年の願い事も叶うといいわね」
「…はい」
部屋に戻った僕は、とりあえず折り紙で笹の飾り付けを始めた。
そして画用紙を長方形に切って、短冊の準備。
「何にしようかな…」
と、今年も考え始めた。
ちなみに去年の願い事は
『碁聖奪取』
ちょうど本戦を勝ち抜いて、挑戦者になれたところだったから結局それにした。
じゃあ今年は『碁聖防衛』?
…ちょっとイマイチ。
じゃあ『目指せ二冠』!
…かなり微妙。
アイツに見られたら、可愛くない女だって思われそうだ。
「………」
本当は、ずっとずっとずっと前から書きたい願い事がある。
あるんだけど……恥ずかしいから絶対に書けない。
きっと一生書けない。
本当に叶ってほしい心からの願いは、文字にすること自体…怖いから。
結局今年も、どうでもいい願い事を書いた――
「おっ邪魔〜」
7月7日――七夕当日。
進藤が僕の家に打ちにやって来た。
靴を脱ぐなりキョロキョロ何かを探している。
「なぁ、アレどこ?」
「アレって?」
「アレだよアレ。オマエん家、七夕はいつも飾ってんじゃん」
「…笹のこと?」
「そ。オレの短冊も掛けていいだろ?」
じゃーんと鞄から取り出して、彼の短冊を僕に見せてくれた。
『あと一勝!』
と書かれてあった。
「…いよいよ明後日だね」
「おぅ!勝っても負けてもこれで最後だし。絶対に勝って、倉田さんから本因坊奪ってやる」
「……」
「オマエ去年、碁聖奪取って短冊に書いて、成就してただろ?なーんかオマエん家の笹って御利益ありそうなんだよな〜。だからさ、早く掛けさせて♪」
「……」
仕方なく、笹の置いてある自分の部屋に案内した。
「で、オマエはどんな願い事書いたんだよ?」
「…どうでもいいことだよ」
「はは。彼氏欲しい〜とかか?」
「…え……?」
実際に書いた、僕のどうでもいい願い事。
『ダイエット −3kg』
「本当…どうでもいいことだな。つーかこれ叶ったらやばくね?ただでさえ骨と皮のくせに」
「いいんだよ。七夕なんて所詮気休めだろう?」
「…オレはそうは思わないけど」
進藤が『あと一勝!』の短冊を飾った。
僕の短冊と違って、彼の本気が伝わってくる。
僕だって僕だって僕だって……本当は―――
「まだ紙余ってる?」
「え?…うん」
画用紙とハサミを渡すと、進藤は短冊の大きさに切り出した。
そしてペンを添えて僕に差し出してくる。
「書けよ、オマエの本当の願い事」
「え…?」
「本当は書きたいんだろ?叶うぜ、絶対」
「……」
「書かないなら、オレが書いちゃうからな」
「僕の願い事を…?」
「おぅ!」
「僕の気持ちなんて全然分かってないくせに…」
「分かってないのはオマエの方だろ」
「え…?」
進藤がスラスラ書き上げた僕の願い事。
それは紛れも無く、僕がずっとずっとずっと書きたかった願いだった。
『進藤と付き合いたい』
「ビンゴ、だろ?」
「なん…で」
「だってさっき、オレがオマエのどうでもいい願い事、彼氏がほしいかって冗談で言ったら、図星って顔してただろ?」
「だからって…」
「つーかオレもさ、同じだから」
「……?」
進藤がズボンのポケットから、もう一つ短冊を取り出した。
読んでみると……
「オレの本当の願い事はこっち。ま、本因坊戦も同じくらい大事だけど、七夕で願うような事じゃないし」
「……」
「七夕って恋人達の日なんだろ?んじゃ、そっち系の願い事しなきゃな」
「進藤…」
「でもオレは恋人ってだけじゃ満足しないからな!ずっとオマエと一緒にいたいから!」
「…うん」
「で?オマエの返事は?イエス?ノー?」
「…イエス」
「へへ♪やっぱオマエん家の笹ってすげー御利益だな♪もう叶ったし♪」
進藤に抱きしめられた衝動で、彼の短冊が床に落ちた。
僕がずっとずっとずっと書きたかった
『進藤と付き合いたい』
の更に上を行った
『塔矢と結婚したい』
と書かれていた。
その晩――天の川が見えそうな満天の星空のもとで、僕らは一晩中愛を確かめ合ってみた。
―END―
以上、2010年度七夕話でした〜。
熱々のベタベタな話になってしまいました。すみません。
ちなみにアキラさんのダイエットは危険だと思います。
アキラさんの身長は170近くあるのに、体重は40キロ台だと勝手に思い込んでるので(笑)モデル並み〜
ちなみにヒカルは170台前半の60キロ前後がいいなぁ…(笑)アキラさんがヒールの高い靴を履くと同じぐらいか抜かされてるのv