●TIME LIMIT〜出産編〜●
オレと美鈴ちゃんが結婚式を挙げてから5ヶ月後。
碁聖戦真っ最中の8月に息子が誕生した。
産まれたと連絡を受けた時オレは名古屋にいて、ちょうど終局したタイミングだった。
検討も取材もそこそこに、慌てて新幹線に乗って急いで東京に戻った。
「美鈴ちゃん…!!」
「明人君遅い〜。産まれちゃったよ〜」
「立ち会う約束だったのにゴメン!」
「まぁ仕方ないよ、タイトル戦だったんだから。勝った?」
「うん」
「え?本当に?じゃあタイトルホルダー?」
「うん…一応」
「おめでとう!!!」
美鈴ちゃんに抱き付かれてお祝いされて、オレはこの瞬間に初めて自分がタイトルを奪取したことを実感した――
碁聖戦・五番勝負、第四局。
オレは今日――あの父さんから初めてタイトルを奪取した。
めちゃくちゃ嬉しい。
でも同じ日にそれ以上に嬉しいことが起きた。
「明人君も抱いてあげて…」
「う、うん…」
3000グラムしかない小さな小さなこの宝物を、オレは美鈴ちゃんに教えてもらいながらそっと自分の腕で抱っこしてみた。
「可愛いね」
「うん…」
「たぶん明人君似だね」
「そうかな…」
「うん」
再びベビーベッドに戻した後、オレは改めて美鈴ちゃんにお礼を言った。
「美鈴ちゃんお疲れ様。ありがとう…」
「もう死ぬかと思ったよ〜。なかなか全開になってくれなかったし。陣痛始まったの明人君の対局開始時間とほぼ同じだよ?」
産まれた時間も終局時間とほぼ同時。
オレと美鈴ちゃんは同じ時間を一緒に戦っていたらしい。
「大変だったんだな…本当にお疲れ様」
「明人君もね。お疲れ様…頑張ったね」
「ありがとう…」
父さんからやっとやっと奪取出来たタイトル。
オレの力だけじゃきっと無理だった。
結婚して以来、美鈴ちゃんが傍でずっと応援してくれたお陰だ。
これからも美鈴ちゃんと、この産まれたばかりの息子の為に精一杯頑張ろうと思う。
目指すは父さんの持つ本因坊のタイトルの奪取。
彼女が傍にいてくれたら、オレはどこまでもいつまでも頑張れる気がした――
―END―
以上、明人と美鈴の長男の誕生話でした〜。
お昼休憩の時に陣痛が始まったことを初めて知る明人君。
1分1秒でも早く駆け付ける為、午後からめちゃくちゃ真剣に打つ明人君ですw
ちなみにヒカルはその日は名古屋に泊まり、翌朝もゆっくり東京に戻ります。
多少なりとも落ち込んでるものと思われます。
でも孫が生まれたことは純粋に嬉しいので、戻り次第アキラと一緒に顔を見に行くんですよ。