●すまない進藤…キミとは付き合えない…●
男ってどうやって結婚を決めるんだろう。
伊角さんはデキ婚だ。子供が決め手になったんだろう。
和谷は付き合っていた師匠のお嬢さんが大学を卒業するのを待って。
越智はお見合いだ。数回目に会った時が結婚式という見事な時代錯誤ぶりだ。
じゃあ――オレは?
この前、今付き合っている彼女に聞かれた。
『私との結婚、考えてくれてる?』と。
合コンで仲良くなって、告られて付き合い始めて…もう2年。
女も20代後半に入ると、目に見えて焦ってきてるのが分かる。
結婚に繋がらない交際なんて時間の無駄。
私との結婚を考えてくれてる?考えてないのなら今から考えて。考えられないのなら今すぐ言って、別れるから。
返事が出来なかった。
確かに相手がそんなに望んでるのなら別に結婚してもいいよ。
2年も付き合ったんだ、情ぐらいはある。
好きだ、惚れてる、愛してる…という感情とは程遠いけど。
でもどうせこの先何年生きてもそんな相手には到底巡り会えない気がするから。
今の彼女で手を打って、結婚して、子供でも作って家庭を持つのもいいかもしれない。
誤解がないよう言っておくけど!
オレだって恋ぐらいしたことあるからな!
人を好きになったこともない寂しい男ってわけじゃねーからな!
仕方ねーじゃん!
オレの初恋で、もしかしたら同時に人生で最後の恋だったかもしれない『塔矢アキラ』には…フラれちゃったんだから…。
好きだ。
付き合ってほしい。
オレがそう彼女に告白したのは、オレらがまだハタチになったばかりの頃だった。
アイツは驚いたように一瞬目を見開いて、そしてすぐに悲しそうな顔をして返事をくれた。
『すまない進藤…キミとは付き合えない…』と――
オレの人生終わった気がした。
これから何を楽しみにどうやって生きていけばいいのか全く分からなくなった。
今まで通いつめてたアイツんちの碁会所にもそれからは行けなくなった。
棋院で会っても今までのように簡単に話しかけれなくなった。
オレの気持ちはどうやら周りにはバレバレだったみたいで、仲間は落ち込むオレを気分転換に色々連れ出してくれた。
合コンもその一つ。
知らなかったー、オレって結構こういう場所じゃモテるんだな。タイトルホルダーってだけでチヤホヤされる。
女なんて選り取りみどりじゃん!
そうだよな、女は塔矢だけじゃないもんな!
よし、手始めに今告白してきたこの子と付き合ってみよう♪
オレの20代前半。思い返すと楽しかったなぁ。
可愛い女の子達といっぱい遊べて、経験もいっぱい積めた。
楽しかったはずなのに……何だか心はずっと穴の空いたままだ。
あの時からずっと。
一生空けたままオレは生きていくんだろうか……
「……よっ。久しぶり」
「進藤?!」
ガタリと、オレの存在に気付いた塔矢が慌てて立ち上がった。
オレは今日、約6年ぶりにコイツの碁会所を訪れた。
受付には相変わらず市河さんがいて、常連客の面子も変わってなくて、そして塔矢のこの特等席も変わっていなかった。
あのハタチの頃よりずいぶん長くなった髪が美しい。
相変わらず綺麗だなぁ…可愛いなぁ…といつもにも増して見とれた。
「もう二度と来てくれないのかと思ってたよ…」
「オレもね。来るつもりなかったんだけど…なんとなく足が向いて」
緊張する。
こんなにオレが緊張する女はきっと塔矢だけだ。
まだまだ全然気持ちが健在な証拠。
嫌になる。
「最近調子いいみたいだな…」
「お陰さまで。でもキミもそうだろう?本因坊はもうすっかりキミの代名詞だしね」
「まぁな…」
手持ちぶさたに碁笥の蓋を開けたり閉めたり。
くだらない近況を言い合う。
「一局打つ?」
それだけはゴメン。
絶対集中出来ない。
「それより、オマエに相談があるんだ…」
「僕に?なんだい?」
「実は……」
オレ……
結婚しようかどうか迷ってるんだけど……
……どう思う?
「――え?」
「だからさ!今付き合ってる奴が結婚したがってるからさ、オレも応えてやりたいんだけど……どうしようかなって」
「へぇ…」
「へぇってなんだよ!真面目に聞けよ!オレマジで悩んでるんだからな!」
「悩んでるんだ?彼女を奥さんに決めてしまって本当にいいのか?」
「そう!」
「悩むくらいならやめておけば?結婚ってそういうものじゃないだろう?」
カッとなるのが分かった。
ああそうだよ。
オマエに言われなくても分かってる。
オマエにだけは言われたくなかった。
「じゃあ…オレは誰と結婚すればいいんだよ…。この先誰と付き合っても結局はまた悩み――」
「本当はキミの中でもう答えは出てるんだろう?誰と結婚したいかなんて」
誰と結婚したいか?
そりゃ理想だけなら答えはとっくに、10年も前から出てる。
「オマエと――」
オマエと結婚したかった。
オマエが彼女だったら、オレは悩んだりしない。
せいぜい日取りとか、新婚旅行の行き先に悩むぐらいだ。
オマエだったら……
「――いいよ」
「……え?」
「結婚してもいいよ。今なら」
「――ええ??だってオマエ、オレとは付き合えないってあの時…」
「確かに言ったね。キミとは付き合えない――今は、って」
「は?!今は??なにそれ!んなこと言ったか??」
「言ったよ!すまない進藤、キミとは付き合えない、今は。今は囲碁のことしか考えられないんだ。――確かに僕はそう言ったよ!キミは後半脱け殻で聞いてなかったみたいだけどね!」
「なっ――」
なんてことだ。
確かにそう言われれば、オレはあの時断られたショックで半分意識が飛んでいた。
まさか、んな続きがあったなんて知らなかった!
「一生の不覚…」
「本当だよ、僕のことを好きだとか抜かしたくせに、その後他の女の子をとっかえひっかえしてるキミを見てて、死ね!そして地獄に落ちろ!と僕が何度心の中で毒気付いたことか」
「ご、ごめん…」
「おまけに好きでもない女との結婚に悩んでるだと?ふざけるな!まさか孕ましたんじゃないだろうな?!」
「まさか!んなヘマはしてません!誓って!」
「ふぅん…」
あーどうしよう。
怒られてるのに顔が笑って仕方がない。
つまりあれだよな。
あの頃は囲碁しか考えられなかった。
でも今は囲碁以外のことも考える余裕が出来てるってことなんだよな?
つまりオレのことも…。
で、結婚してもいいってぐらいなんだから…
「塔矢、オレのこと好きなんだよな?結婚を迷わないくらい」
「好きだよ。ずっと」
神様―――!!!
「塔矢!!オレもずっと好きだった!!めっちゃ惚れてる!!愛してる!!結婚して!!今すぐ区役所行こう!!」
その後オレらは市河さんに煩いと囲碁サロンを追い出された。
愛の語らいを続けるのに向かった先はもちろんオレの部屋。
今夜は絶対帰さないからな!覚悟しておけよ!
―END―
いかがでしたでしょうか〜?人の話は最後まで聞きましょうねヒカル君、ってことで。以上リアルタイム26歳なふたりでしたv
補足としましては〜ヒカル君は本因坊のタイトルをとったらアキラさんに告白しようとずっと決めてたのです。
でも女の子アキラさんはきっとヒカル君よりタイトルをとるのが遅いと思うんですよねー。
自分もタイトルとるまでは恋愛禁止!とアキラさんも決めてたんだと思います。
だからこんな回りくどいことに(笑)遠回りするのがヒカアキラ子なのですv