●STAR FESTIVAL●



近所で開催される小さな七夕祭り。

出店もあるし、花火も上がるし、今年はちょっと行ってみる気になった。

付き合い始めたばかりの彼女―――塔矢をデートに誘う口実に。








「浴衣だ…」

「母が勝手に用意したんだよ。歩きずらくて困る」


待ち合わせ場所に現れた塔矢の姿を見て、思わず目を見開いて見取れてしまった。

初めて見る浴衣姿。

ちょっと不機嫌に、でも照れ臭そうに口を折り曲げている。


「正月の振袖も良かったけど、浴衣も似合うな〜オマエ」

「お世辞はいいよ。早く行こう」

「あ…うん」


勝手にさっさと前を歩き出した。

手…とか、繋ぎたいけど結構ガードが固い。

一歩近付くと一歩離れるって感じ。

一応彼氏なのに、いや…彼氏だから警戒されてる?



「思ったより夜店出てるなー。何か食べたいのあるか?」

「……別に」

「…そっか。んじゃオレが食いたいやつ買うぞ」


綿飴とかタコ焼きとかベビーカステラとかリンゴ飴とか、手当たり次第に買って塔矢に渡していった。

不思議そうに大人しく口付けていってる。


「もしかして祭りとか初めてか?」

「そんなことない…けど、あんまり慣れてる方でもない」

「ふーん。金魚すくいとかしたことある?」

「…ない」

「してみる?」

「い…いいよ。キミがしてるの見てる」

「オッケ。塔矢にプレゼントするな」


言った手前一匹も取れなかったら情けないので、妙に力が入った。

でも一枚目は金魚一匹で撃沈。

二枚目は3匹。

三枚目で出目金をゲットした。


「一匹でよかったのに…」

「いいの!金魚も一匹だと淋しいだろ?」

「そうだね」


クス…と今日初めて笑ってくれた。

その笑顔に見取れたのとほぼ同時に、ドン――と夜空に大きな音が響いた。


「やべ、花火始まっちゃった」

「綺麗だね」

「…土手まで行く?」

「ううん。ここでいい」


小さな町祭りだから、ほんの数発で終わっちまう花火。

大きくて…綺麗で…はかなくて、まるでコイツみたい…と塔矢の顔をチラッと盗み見た。

自然と手が出て―――彼女の右手を掴んだ。

驚いたようにこっちに顔を向けてくる。


「い、いいだろ?手ぐらい…」

「……うん。いいけど…」

「じゃ…キスは?」

「………駄目」

「ちぇっ…」


真っ赤になってしまった塔矢を、せめてもと肩を抱きよせて――再び空を見上げた。

もうすぐ終わる花火。

でもこれから始まる夏。

この夏が終わる頃にはオレらの関係が縮まってますように―――と祈りを込めた七夕の夜だった。
























「送ってくれてありがとう」


進藤が掬ってくれた金魚達を片手に、七夕祭りから帰ってきた。

ほぼ初めてと言っていい彼とのデート。

手を繋いで肩も抱かれて、恋愛事に免疫のない僕の心臓は、今にも飛び出しそうでドキドキが納まらなかった。


「じゃあまた月曜な。芹澤先生の研究会で…」

「うん」

「じゃあ……」


と言いつつなかなか動かない彼。


「…進藤?」

「……」

「どうかした?帰らないのか?」

「……んー」

「何?」


大丈夫?と顔を覗き込んだ瞬間―――進藤の手が僕の頬に触れた。


「進……」

「やっぱり……いい?」

「…え?」


ゆっくりと角度を付けながら近付いてくる顔。

これってキス…―――と思った時には唇が触れていた。


「――ん…っ」


優しくて柔らかくて温くて…息苦しくて――

嬉しい反面、家に母がいるのに…と冷静に困ってる僕がいた。



「―……は…ぁ」


離れて目をあけると、嬉しそうに微笑んでる彼の顔がまだ近くにあった。


「進藤…」

「へへ。じゃあな、お休み」


今度は素早く立ち去った彼の姿が見えなくなっても、しばらく玄関前で立ちすくんで顔を冷やした。

キス…しちゃった。

見上げると満天の星。

織姫と彦星に見られてるようで少し恥ずかしかった―――












―END―











以上、七夕話でした〜。
ベタベタな内容ですみません。ピュア過ぎるよ君たち…。
書いてる方が恥ずかしくなってくる。
たぶん北斗杯直後に告白して〜初めての夏って感じでしょうか?
こういう未発達な二人も好きですv