●STALLION●


〜ヒカル視点〜



「子供が欲しいんだ」



仕事上は同僚でライバル。

私生活では単なる友人の一人にすぎない塔矢に、相談があると彼女の家に呼び出された。

子供が欲しい?

これが相談なのか?


「えーと…じゃあ結婚すれば?見合い話いっぱい来てるんだろ?」

「結婚はしたくない」

「なんで?」

「男が嫌いだから」

「…オマエってレズ?」

「違う。単に男が嫌いなだけ」

「……」


これが男性社会で生きてきて、周りの敵は全て男だった彼女が出した結論らしい。

オレも一応男。

嫌われてるんだと思ったら…ちょっとショックだった。


「結婚は絶対に嫌だ。でも子供は欲しいんだ」

「ふーん…オマエ子供好きだもんな」

「うん。二人は欲しいな。男の子と女の子をひとりずつ。年の差は2才ぐらいで」

「旦那はいらないくせにずいぶん素敵な家族計画だなオイ」

「うん。だから、協力してくれ」

「………は?」


えーとえーとえーと………

思わず自分の耳を疑った。

協力って……協力って……

つまりこの場合…種馬になれってことか?

なんでオレが??


「オレだって一応オマエの嫌いな男だぞ?」

「大丈夫。一時間ぐらいなら我慢出来る」


一時間で終わらせろと??


「子供にも碁を教えたいんだ。その面ではキミの遺伝子ってすごく魅力的だから、キミに決めた」


なに勝手に決めてくれちゃってんだよ!


「言っとくけど、オレ勉強は全然出来ないぜ?」

「知ってる。大丈夫、そこは自分の遺伝子でカバーするから」

「……」

「いいだろう?進藤。お願い」


色っぽい上目遣いで懇願され、クラッときた。

コイツ…絶対自分の容姿の良さ知ってる。

オレがオマエに甘いのも知ってる。

小悪魔だ。


「拒否したら、二度とキミとは公式戦以外で打たないから」


違う、悪魔だ…!

怖ぇえ〜〜










―――1時間後


塔矢はオレの腕の中で満足そうに眠っていた。

男嫌いのコイツは当たり前だけど処女だった。

塔矢の初めてを貰えたなんて、ありえないぐらいすげーことじゃん!

今フリーだから、全然後ろめたいことないし!

体もスッキリして一石二鳥!


……と自分で自分を慰めてみた。

うう…絶対コイツ今日危険日だったんだ。

結婚させてくれないくせに、子供だけ欲しいなんて無茶苦茶だ。

オレ…こう見えて小心者だもん。

もし子供が出来たら…絶対もう他の女となんか結婚出来ない。


くそっ。

こうなったら、どれだけ時間がかかっても絶対にオマエと結婚してやるからな!!






********************


〜アキラ視点〜



「おめでとうございます」



進藤の協力で新しい命を得た僕。

両親の理解も何とか得られ、僕は楽しみにその日を待っていた。


「嬉しそうねアキラさん」

「はい、すごく」


あっという間の臨月。

いつ生まれても不思議じゃないお腹を、母も楽しみそうに撫でてくれた。


「ねぇ…アキラさん。やっぱり結婚する気はないの?」

「ありません」

「でもあんなに毎日通ってくれてるのに…。進藤さんが不憫だわ」

「………」


種馬に進藤を選んだのは間違いだったかもしれない、と最近思い出してきた。

僕が相手を秘密にしていたのに、彼は自ら両親に自分が父親だと名乗り出てきた。

しかも結婚の意志があるとか言い出すし。

産休に入ってからは毎日のように様子を見にやってくる始末。

正直…鬱陶しい。

キミは種だけ提供してくれればいいんだ!


「なぁ、オレのこと嫌いなのか?」

「嫌い」

「どこが?言ってくれればオレ直すよ」

「男だから嫌いなんだ」

「でも先生や芦原さんみたいに例外の男だっているんだろ?オレも例外にならない?」

「ならない」

「ちぇっ…」


残念そうに舌打ちしてきた。

…でも本当は進藤も例外だと最近思い出してきた。

その証拠に、進藤が横にいると安心する。

妊婦になると気持ちが変わるって本当だったんだな。

守ってくれる存在の人には女は好意的になる。

…絶対に言ってやらないけど。


「男の子なんだろ?男嫌いのくせに育てられるのか?」

「自分の子供は別だから平気だ」

「ふーん…オレの出る幕なしってことか」


とかなんとか言ってたくせに、いざ生まれると前にも増して進藤は通ってくるようになった。

オフの日はずっと入り浸ってるし。

「パパだよ〜」

とか子供に話しかける始末。


「やめてくれ!信じたらどうするんだ!」

「いいじゃん、本当のことなんだし」

「そうかもしれないけど…内緒にしたいんだ」

「もう無理だと思うけどなぁ」

「え…?」


なぜ無理なんだ?とその時は疑問に思ったけど、その謎は僕が棋士に復帰するとすぐに解けた。







「ご出産おめでとうございます、塔矢先生。進藤先生似ですか?」

「は…?」


事務の人のこの第一声には耳を疑った。

知らない間に週刊碁にも子供のことが載っていて、当然のように父親が進藤だと書かれてあったことにはもう目眩がした。


「信じられない…こんなこと言い触らすなんて」

「別に言い触らしたわけじゃないんだけどさ〜、ちょっと和谷達に言ったら勝手に広まったっていうか…」

「馬鹿じゃないのか!?キミだって困るだろう??これじゃあもう普通に他の子と恋愛なんか出来ないぞ?!」

「うん、出来ない。だから責任とって塔矢がオレと結婚してよ」

「………」

「二人目も欲しいんだろ?今度はタダじゃやらねーからな」

「…卑怯だ。じゃあ僕も打たない」

「嘘。本当はオマエが一番オレと打ちたいくせに。だからオレが子供に会いに行っても追い返さなかったんだろ?ついでに打てるから」

「……っ」


図星だった。

進藤と打ちたい。

進藤の棋力には誰よりも惚れてる自信がある。

自分の子供の遺伝子に組み込みたいぐらいに。

もちろん次の子にも―――



「…男なんて嫌い。いつも女を見下してる」

「オレがいつオマエのこと見下したんだよ?むしろずっと見上げてきた」

「…男の所有物にはならないから。一生碁を…仕事を続けるからな」

「うん、オマエに辞められたらオレが困る」


徐々に近付いてきた進藤に、抱きしめられて…キスされた。

拒否するどころか心地好いと思ってしまった僕は、大人しく観念するしかなかった。


嫌い嫌い嫌い。

男は敵。

大嫌い。


でも進藤は…別。

好きかもしれない……



一ヶ月後―――僕は純白のドレスを身に纏うこととなった―――







―END―







以上、種馬話でした〜。
こういう話って書くのがすごく楽しいです(笑)アキラさんは絶対にヒカルの遺伝子を子供に入れたいはず…!
結婚したくない理由は女性棋士のあれこれを書くと長くなるので、単に男嫌いなだけにしちゃいました。
この二人、結婚後はすごくいちゃいちゃすると思います。
すぐに二人目出来ちゃいますね…きっと。