●SOMEONE SPECIAL 2●
どうしてこんなことになってしまったのだろう…――
「…ただいま」
僕が帰宅すると、ドアの音を聞き付けた母が玄関まで迎えにきた。
「お帰りなさいアキラさ……あら?進藤さん?」
「お邪魔しまーす」
僕に続いて遠慮もなくズカズカ上がって来る進藤に、母が目を丸くする。
「お母さんすみません…進藤がどうしても来るって訊かなくて…」
「まぁ!じゃあ上手くいったの?!」
「いえ…その…」
「あら、これからなの?いいわよ、今夜はお父さんも出かけてていないし、頑張りなさい」
「いえ…あの…そうじゃなくて…」
「進藤さん、ゆっくりしていってね。何なら泊まって下さっても結構よ?」
「ありがとうございまーす。そのつもりです」
その言葉に僕はギョッとし、母はじゃあ客間の準備を…とどこかに行ってしまった。
「……進藤、本気で泊まる気か?」
「もっちろん。言っただろ?チョコくれるまで帰らないって」
「じゃあ………もし今僕があげたら、帰ってくれるんだな?」
「え?くれるの?」
「………」
僕は少しためらいながらも覚悟を決めて……鞄からチョコを取り出した。
そして進藤の目の前に突き出す――
「マジ?オレ宛?」
「…一応」
「手作り?芦原さん達にあげたのと同じ?」
「手作りは手作りだけど……」
芦原さん達にあげたのとは全然違うよ。
アレは義理。
コレは……本命。
「サンキュー塔矢♪今食べていい?」
「ダメっ!ダメェッ!!絶対にダメだっっ!!」
「な…なんで?」
「なんでって…」
顔が一気にかあぁっと熱くなった。
なんでって…
なんでって……
だって中には…キミ宛てのメッセージカードも一緒に……
「と、とにかく!絶対にここではダメだ!家に帰ってから、一人で開けてくれっ!でないとあげないからなっ!」
「わ、分かったよ…」
僕の大声に目を丸くしつつも、進藤は嬉しそうにチョコを鞄に入れ出した。
――そう
嬉しそうに、だ!
そんなに僕からのチョコが嬉しいのか??
「……進藤」
「ん?」
「嬉しそう…だな」
「おう!何せオマエから初めてもらったからな!」
「僕から貰えるのが…そんなに嬉しいのか?」
「悪いかよ」
「べ、別に悪くはないけど…」
僕からのチョコが欲しいって言ったり…
嬉しいって言ったり……今日の進藤はちょっと変だ。
どうなんだろ。
これって………期待してもいいのかな?
「じゃあ約束だから、オレ帰るな。サンキュー塔矢」
「う、うん…」
とか言いつつ、進藤の上着の端を掴んでみたり。
「…塔矢?」
「や、やっぱり今…開けてくれ…」
「は?」
「いいから開けてくれ!今すぐ返事が聞きたいんだ!」
「返事?」
「いいから!」
「う…ん」
首を傾げながらも進藤が再び鞄からチョコを取り出し、包みの紐に手を掛けた。
「ま、待って!ここでは開けないでくれ!」
「え?」
「僕の部屋に行こう!」
「…いいけど」
いちいちウルサい奴…と進藤がブツブツ言いながら僕の後を付いて来る。
彼を部屋に招いた後、進藤は部屋の中央に腰を下ろし…僕は彼に向かい合うようにそっと座った。
「んじゃ…開けるからな。もう嫌だとかダメだとか言うなよ?」
「う、うん…」
改めて紐を解いて包みも剥した彼は、箱を開けた途端……固まってしまった。
「進藤…?」
「すげぇ美味しそう…。な、食べてもいい?つか、食べるな!」
「うん…」
チョコを一つ摘んだ彼は、嬉しそうに口へと運んだ。
「うわっ!何これ!美味過ぎっ!」
「そ、そう…。良かった…」
彼の反応にホッとしつつも、僕は上蓋と一緒に置かれているカードが気になって仕方がない。
チョコに夢中でカードに全く気付いてない進藤。
もう!
バレンタインデーはチョコより告白の方がメインなのに!
「し、進藤……これ」
「ん?カード?何が書いてんの?」
「読めば分かるよ」
「ふーん」
仕方なく僕の手から手渡すと、チョコを片手に口をもぐもぐさせながら…彼はそのカードを開けた。
「………」
その中身を一目見た瞬間に――彼の口の動きが止まった。
「……マジ?」
「うん…」
「いつから?」
「かれこれ…3年になるかな」
「3年?!ウソ!だってオレ去年も一昨年もオマエからチョコ貰って…ない」
「うん…去年も一昨年も渡せれなくて……結局自分で食べた」
「そう…だったんだ」
「うん…」
少し考えるように腕を組む進藤。
……困ってる?
やっぱり僕の思い過ごしだったのかな…。
期待した僕がバカだったのかな…――
「…オレもさ、去年も一昨年もオマエから貰えるの…待ってたんだぜ?」
え…?
「本当に…?」
「オマエはちっともくれなかったけどな!義理でさえ!」
「キミがそういう態度だから渡せなかったんだ!義理でもいいからなんて言わないでくれ!」
「……ごめん」
「僕はずっと…ずっと本命を用意してたのに…」
「ごめんな…」
涙を潤ます僕を…進藤がぎゅっと抱き締めてきた―。
初めての彼の温もりに…胸がドキドキ高鳴る――
「…塔矢、バレンタインデーの返事って…ホワイトデーでしなきゃなんねーのかな?」
「言っただろう?僕は今返事が聞きたい…って」
「うん…オレも今言いたい」
耳に優しくキスをしてくれた後、そのまま彼の唇が……僕の口へと移動した…――
「――…ん…っ」
まるでチョコのように甘いキスに……僕の体はチョコのように溶けてしまいそうになる…――
「塔矢、これがオレの返事だから…。オレもずっとオマエが好きだった…」
「……本当に?」
「今日はエイプリルフールじゃねぇんだぜ?嘘なんか吐くかよ」
「だって…――」
嘘みたい…と言う前に、僕の口は再び彼の口で塞がれた。
今度は少し大人な…深いキス。
何度も何度も絶え間なくキスをしてくる彼に…まるで僕の方が甘いチョコレートをたくさん貰ったみたいだ…。
それじゃあホワイトデーに…僕からもお返ししないとね。
キミは何が欲しいのかな…?
―END―
以上、ヒカアキラ子バレンタイン話でした〜★
いやー…気付いたらもう3月で、このままいくとホワイトデーになってしまいそうだったので、慌てて途中になってた2話目を仕上げました。
うおー、久々に若々しい二人を書いた気がするのはなぜ??
最近ドロドロの切ない系ばかり書いてたからなぁ…(笑)
さてさて、最後の最後でヒカルは何が欲しいのかな〜?とか考えてるアキラちゃん(18)。
そんなの……ねぇ?
一つしかないよね?
うちのヒカルが欲しいものだもんねー?
皆さんはもうお分かりですよねー?(笑)ほほほ
……ということで、ホワイトデー編に続きます!ヒカル視点?