●SUMMER VACATION 〜SOUL〜 8●
「このマンションです」
電話の翌日――さっそく赤井川先輩と待ち合わせて、進藤の車で緒方さんのマンションにやってきた。
「赤井川さんって何歳なんですか?」
「27よ。進藤君は?」
「来月22になります」
「塔矢さんと同い年なのね」
移動中進藤がペラペラしゃべってくれていたからか、昨日よりは落ち着いている先輩。
緒方さんと上手くいけばいいけど…。
ピンポーン
ベルを鳴らすと、すぐにガチャッとドアが開いた。
緒方さん…いつもより険しい顔。
先輩とは目も合わせず、「上がってくれ」と僕達を中に招いた。
リビングに二人が向かいあって座り、僕は先輩の横に。
進藤は熱帯魚が気になるのか、水槽の前でジッと中を見つめていた。
「さて…と」
緒方さんが一瞬タバコに手を伸ばそうとしたけど、すぐに手を引っ込めていた。
一応気遣いはしてあげるらしい。
「で?オレはいくら払えばいいんだ?」
「え…?」
緒方さんのその言葉に、先輩の表情が歪んだ。
僕も耳を疑った。
最低だ……
「堕ろすんだろう?」
「…堕ろすつもりはないわ」
「はは…冗談だろう?言っておくが、俺は結婚なんて御免だからな」
「…別に構わないわ。たまに父親として子供に会ってくれるなら…」
「まぁ、子供自体は嫌いではないから、それでいいなら勝手に産めばいい。だが、キミの親がそれで納得するとは思えないがな」
「…そうでしょうね」
赤井川先輩はもともと良家出身のお嬢様だ。
本当は働かなくてもいい立場の人。
でも、親の反対を押しきって今の仕事に就いたらしい。
今度も同じように押し切るのだろうか…。
「緒方先生、もういい歳なんだから結婚すればいいのに〜」
ようやく水槽から離れた進藤が、緒方さんの隣に座った。
「進藤、いい歳って…俺はまだ40にもなっていない!」
「オレはまだ21だけど塔矢と結婚したいですよー?ていうか、するつもりだし。な?塔矢」
「え?あ…うん」
いきなり僕に振られて、返事が吃ってしまった。
「緒方先生、赤井川さんのどこが不満なんですか〜?歳だって先生より一回り近く下で若いし、美人だし、スッチーだし。オレはいいと思うんだけどなぁ」
「彼女に問題はない。結婚という名の束縛が嫌なだけだ」
「子供が出来たのに、そんな我が儘許されると思ってるんですか?」
「進藤…言ってくれるな」
「だって先生ずるいもん。オレなんか欲しくても全然出来ないのに」
全然って、まだキミとそういう関係になって二ヶ月も経ってないんですけど……
「先生、どうやったら子供って出来ると思います?」
「…俺はお前に保健体育の授業をすればいいのか?」
「違いますって。塔矢はタイミングだって言うんだけど…」
「そうだな。ま、アキラ君相手なら特に根気強く頑張らないと出来ないかもな」
「どういう意味ですか?それ…」
「昔塔矢先生からも同じ質問をされたことがあるってことだ」
え……?
CONTINUE!