●SOCIAL PARTY●
「佐為、ちょっといいかな?」
父の研究会で実家に行った時、休憩時間に珍しく母に呼ばれた。
「何?」
「来月の15日って空いてないだろうか?」
「15日?」
鞄から手帳を取り出し、スケジュールを確認する。
名人戦と天元戦ダブルタイトル戦中で移動スケジュールが入り乱れ
「空いてるよ」
と回答すると、母は申し訳なさそうに
「急で悪いんだけど、代役をお願い出来ないだろうか?」
と一通の封筒を差し出して来た。
まるで結婚式の招待状のような、しっかりとした上質な厚手の紙で
表の名前は『塔矢明子 様』。
そして裏の差出人は『村上章二』と書かれていた。
(これは…困ったな……)
祖母・塔矢明子の実家、三条家は横の繋がりを重んじる旧家だ。
上流階級のパーティー的なものにもかなりの頻度で招待されていて
だけど祖父が入院中の今は、母が代役を務めることが多かった。
「僕は女流本因坊の防衛戦と被ってしまっていて…」
「…欠席するわけにはいかないんだよね?」
「村上さんからの招待だからね」
村上章二――もとい村上コーポレーションの会長の家は代々三条家
母が名人位を保持していた時、何期か特別協賛もしてもらっていて
母は三条の家から誰も出席しないのは申し訳ないと思ってるみたい
「ちょっと…考えてみる」
封筒を受け取って、そのままダイニングテーブルの椅子に腰掛けた
別に参加自体は問題ない。
政治家に挨拶するのも、どこかの偉い社長に挨拶するのも、立場上
(問題は今は同伴者がいないってことだな…)
通常なら妻の精菜を連れて行けばいいが、なんせ彼女は2月に出産
さすがに乳児連れで参加出来る場所ではない。
それなら同じ三条の血を引く彩を連れて行けばいいのだろうけど、
「一人で参加するわけにはいかないし…」
「どうかした?」
僕がコーヒーに口付けながら唸ってると、前に座っていた京田さん
母から渡されたその招待状を京田さんにも見せてみた。
「ふーん、村上さんの誕生日パーティーの招待状かぁ」
「京田さん…村上会長知ってるんですか?」
「うん。俺の祖父母の家のお隣さんだから」
――え?
招待状の住所を見ると、確かに会場は広尾で、京田さんちとも目と
「何回か行ったことあるよ。なかなかの顔ぶれだよね、こういうパ
「今年は参加しないんですか?」
「予定はないけど……何?進藤君、一緒に行ってほしいの?」
「ぜひ」
「いいよ。祖父母の家に来てる招待状回してもらうよ」
「ありがとうございます…!!」
京田さんが一緒に行ってくれるなら百人力だ。
僕は早速母に参加OKの返事をした。
当日。
京田さんの祖父母の家で着替えてから僕らは隣の会場へ向かうこと
なぜならこのパーティーのドレスコードはフォーマル。
タキシード必須だからだ。
「進藤君は何着ても似合うね」
「いえ…流石にタキシードは結婚式以来なので緊張します」
「タイトル戦の就位式は袴だもんな。あれも正装だから、あれでも
「確実に浮きますけどね…」
「はは」
京田さんと話ながら一緒に隣の会場へと向かう。
仲のいい人だけを招待した私的な誕生日パーティーだとは聞いてい
これはもはや日経連か経団連のパーティーではないかと思ってしま
「進藤名人、先日はうちのCMに出てくれてありがとう!」
と声をかけられる。
京田さんが小声で僕が出演した大手家電メーカーの代表取締役社長だと
当然だけど撮影現場にトップは来ないのだ。
「いえ、こちらこそありがとうございました。妻も撮影が楽しかっ
「そうかそうか」
他にも少し歩く度に挨拶されたが、京田さんが常に何者かを教えて
(というか京田さん凄すぎだろ…)
もちろん――主催者もだ
「昭彦君!久しぶりだね!今日は来てくれてありがとう」
「ご無沙汰してます、村上会長」
「そちらのハンサムは?」
「塔矢明子さんのお孫さんですよ」
「進藤佐為です。お誕生日おめでとうございます、会長」
「ああ!ということはアキラ君の!よく来てくれたね。楽しんでいってくれ」
村上会長への挨拶を終えると、ようやく解禁された僕の元へ
「進藤名人、こんなところでお会いできるなんて光栄です」
「一緒に写真撮っていただけませんか?」
「握手してくださりませんか?」
と年頃の女性陣に囲まれる。
仕方なくしばらく応対していると、
「あれ?どんな有名人が来てるんかと思たら進藤やん」
と見知った声に僕は直ぐ様顔を上げた。
「西条…!」
「こんなとこで会うん珍しいなぁ」
西条の奥さん(金森さん)は祖母の家と同じく旧家出身だ。
その繋がりで西条も結婚後こういうパーティーに参加するようにな
もちろん金森さんも3月に出産したばかりだけど、今日は実家に子
「向こうに越智先生もおったで。何や棋士多いなぁ」
「そうだね…なんだか安心したよ」
立食パーティーのお誕生日会。
僕は京田さんや西条のおかげで思った以上に楽しむことが出来た。
佐菜がもう少し大きくなったら、今度は精菜とも来てもいいかもし
「京田さんも彩連れて来ますか?」
「はは…彩ちゃん華やかなパーティー好きだから喜ぶかもね。特
「遠慮なく食べまくりそうですよね」
弟弟子だったけど、僕の本当の義弟になった京田さん。
今日更に彼への好感度と信頼度が上がったことは言うまでもない話だ――
―END―
以上、佐為の上流階級パーティーへ初潜入話でした〜。(どんなタイトル)
現在四冠の佐為です。ヒカルから本因坊取った後。精菜とCMに出た後あたりの話です。
結婚しててもそりゃもう女性陣に囲まれまくりです。「進藤名人がタキシード着てる!!」と何人もがあまりのカッコよさに倒れたとかw
タイトル戦とかでまあまあ経済界のトップと会う機会もある佐為ですが、さすがにこういうパーティーは別世界だったんですよね。就位式のパーティーとは全然違います。
そして京田さんのヤバさがまた滲み出てる話になってしまいましたね…。
京田さんのお母さんはお嬢さまだからね。実家は大豪邸ですよ。佐為、着替えに今回初めて行ってビックリですよ。(タキシードも貸してくれた)
そりゃ京田さんと彩の新居に億ションくらいプレゼントされるはずだと思ったことでしょう。
祖父母に連れられて何度もこういうパーティーに出たことのある京田さんはそりゃ場慣れしてるのです。たまに自分の父親(大企業取締役)も来てますしね。
西条も結婚後奈央に連行されています。そういう集まりに西条が参加してるということは以前どこかで書いたと思うんですが、佐為とバッタリ会ったら面白いだろうな〜と今回の話を書いてみたのでした。
とりあえず佐為の中の京田さんの信頼度が爆上がりだね★チャンチャン