●SMOKING●
「お煙草お吸いになりますか?」
「はい」
「かしこまりました。喫煙席へご案内いたします」
分煙のあるレストランへ来ると、ヒカルは必ずタバコを吸える方を選ぶ。
となると、一緒に来ている僕もついていかざるを得ない。
はぁ…と彼に分からないぐらいの小さな溜め息を
吐いた―――
僕の夫・進藤ヒカルは二十歳になったのと同時にタバコを始めた。
(本当はもっと前かららしいが公に吸い始めたのは二十歳を過ぎてからだ)
最近は吸える場所が限定されてたり、自販機で専用のカードが必要だったり、面倒だとグチグチ言ってくる。
実は僕も、彼に頼まれた時用にカードを作ってたりする。
「タバコなんか何で吸うんだ?まずいのに」
「んー、気持ちが落ち着くんだよな。無心になれるっていうか」
「ふーん…」
「もう中毒なのかもな。吸えないとイラッとする時もあるし」
「………」
フーッと煙を吐き出したので、僕はとっさに呼吸を止めた。
碁会所という場所で育ったも同然の僕は、結構煙に慣れてる方だと思う。
集中してると臭いも全く気にならない。
でも、最近なんだか鼻が敏感なんだ。
敏感というか、さっきみたいにとっさに体をかばってしまう。
たぶん…生理が遅れてるからだ。
つまり、妊娠してるかもしれないということだ。
「ヒカル、僕…この後行きたい所があるんだ」
「いいぜ。どこ?」
「……薬局」
ヒカルのフォークとナイフの動きが止まる。
「どこか悪いのか?」
心配そうに眉を傾けてきた。
「ちょっと…」
「………」
検査薬を買って、ちゃんと調べよう。
もし本当に妊娠してた場合、早く知った方がいろいろ準備が出来るし、子供の為にもなる。
ヒカルにも、せめて僕の前では吸わないでって言えるし…。
「えっ?!」
薬局に着いて、僕が手にしたものを見てヒカルが声を上げた。
「オマエ、子供出来たのか!?」
「ちょっと…月のものが遅れてるんだ。心配だから調べてみようかと思って…」
「………」
ヒカルが僕から検査薬を取り上げた。
そのまま元の場所に戻す。
「ヒカル…?」
「こんなもの使うより病院言った方が早いじゃん。今から行こうぜ」
僕の手をギュッと握って、出口に引っ張っていった。
車で向かう途中、運転しながらヒカルが
「出来てたらいいな〜」
と上機嫌で言ってきた。
「嬉しいの?」
「当たり前だろー。子供すっげー欲しかったし」
笑顔でそう言われると、何だかすごく安心出来た。
本当に出来てたらいいな…。
「おめでとうございます。8週目に入ってますよ」
「いらっしゃいませー。お二人様ですね?おタバコは」
「あ……吸わないです」
あれ以来、ヒカルは禁煙席を選んでくれる。
僕の前ではもちろん、家でも吸ってないみたい。
「タバコ、止めたの?」
「はは…さすがにそれは無理。でも安心しろよ。オマエの前では絶対に吸わないから」
「ありがとう」
嬉しいな。
そんなキミが大好きだ―――
―END―
以上、タバコ話でした〜。
私が勤めるレストランも喫煙・禁煙と席が分かれています。
妊婦連れ・小さな子供連れのお客さんは絶対に禁煙を希望されます。
ずっと書きたいな〜と思っていたネタ。
書けて嬉しいです(^▽^)