●TIME LIMIT〜新居編〜





美鈴ちゃんと姉さんが相談した結果、オレらの家と姉さんの家は隣同士に建てることになった。

着工もほぼ同じ、完成もほぼ同じ、そして入居も同じ日だ――



「千明〜!これからよろしくね!」

「何か大学時代を思い出すね〜!」


美鈴ちゃんと姉さんは手を取り合ってキャーキャー喜び合っていた。

オレと義兄さん(一ノ瀬さん)はほぼ蚊帳の外だ。


「…義兄さん、これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、明人君」


義兄さんは大学病院に勤める外科医だ。

オレが初めてこの人に会った時はまだ医学生だったわけだけど、当時からめちゃくちゃカッコいい人だ。

見た目も、性格も、考え方も。

あの姉さんが好きになる気持ちも分かる。


「よく寝てるね」

「あ、そうですね。結構昼間の方が大人しいです」

抱っこ紐でオレの胸に引っ付いてる3ヶ月になる息子を、義兄さんが覗いて来た。

「でも昼間寝てる分、夜が大変で…。泣き声とか聞こえて煩かったらすみません」

「お互い様だと思うから気にしないで」


義兄さんが姉さんの方を見た。

姉の千明も今妊娠5ヶ月で少しだけお腹が出ている。

来年の3月が予定日らしい。

ということは息子とは同級生になる。

まぁ頭脳明晰過ぎる姉夫婦の子供と、オレらの子供が同じ学校に通う訳がないと思うから、同級生でもあんまり関係ないと思うけど。

……いや、でも、結婚式も合同でして、家まで隣同士に建ててしまう美鈴ちゃんと姉さんだ。

子供の学校ももしかしたら同じにするかも……





その晩はオレの家で4人(+息子)で夕飯を食べることになった。

きっとこういう機会はこれからも山ほどあるんだろうなと思う。

美鈴ちゃんが楽しそうだから別にいいけど。


「明人、棋聖戦も挑戦者に決まったんだって?頑張ってるじゃん」

姉さんがサラダボールから野菜を取り分けながら聞いてきた。

「うん、何とかね」

「年明けから忙しくなるね。第一局はどこ?」

「確か沖縄だったかな…」

「「沖縄?!いいなー!」」と姉さんと美鈴ちゃんがハモる。

「冬の沖縄最高だよね!暖かくて!私も連れてって〜〜」

と美鈴ちゃんがキラキラおねだりしてくる。


か、可愛すぎる……


「別に付いて来るのは問題ないと思うけど……美明飛行機乗れるかな?」

「あ、そっか。無理かも〜」

ガーン、ショックーと項垂れている。


「まぁ千明もどのみちその頃は飛行機危険だもんね。また産まれて子供達が歩けるくらいになったら皆で行こうか」

「そうだね〜」

という話で収まる。




姉さん達が帰った後、オレが息子をお風呂に入れて、美鈴ちゃんは夕飯の後片付けをしていた。

やっぱり一戸建ては浴室も広くて洗いやすい。

まだ21歳だけど、建てて正解だったかもとしみじみ感じた。

(15年ローンだけど…)



一階はLDKと和室。

二階は寝室と将来子供部屋となる洋室が3部屋ある。

3部屋欲しいと設計士に注文したのは美鈴ちゃんだった。

それって……もしかして、もしかしなくても、子供が3人欲しいってことなのかな。



「……」



ちょっと想像して、顔が赤くなった。

一応産後1ヶ月半くらいで夫婦生活は復活したオレら。

今は週イチくらいのペースでしている。

もちろん本当はもっと、オレは毎日だってしたいけど、子育てで寝不足な美鈴ちゃんの負担にはなりたくない。

だから基本オレの方から誘うことはない。

美鈴ちゃんの方から来るのを待ってる感じで、それが週イチなんだ。

そういえば前回してからそろそろ一週間な気がする。

今夜は出来たらいいなぁ…とかムンムンと考えながら、オレは息子のお風呂を入れ終えた。





「明人君、お休み〜」

「うん…お休み」


夜10時。

美鈴ちゃんが息子を抱いて寝室に向かった。

これから授乳しながらそのまま寝かせるつもりらしい。

明日対局を控えてるオレは、今日は別の部屋で寝ることになった。

布団以外まだ何も置いていない寂しい子供部屋の一室。

「はぁ…」と溜め息を吐きながらオレは布団に入った。


昼間は静かな分、夜は夜泣きが酷い息子、美明。

寝室の方から激しい泣き声が聞こえている。

泣いたり大人しくなったりを一時間くらい繰り返した後、ようやく眠ってくれたのか、シーンと静まりかえった。


今頃美鈴ちゃんグッタリしてるんだろうな……

オレの相手まで出来ないよな……と諦めて眠ろうとするけど、眠れない。

一週間分溜め込んでるオレの体は既に熱くなって、兆してきていた。

やっぱり自分で出すしかないか……と下半身に手を伸ばした。

目を閉じて想像するのは、小6の時、初めて自慰をした時からずっと同じ人だ。



……美鈴ちゃん……



結婚して奥さんになったのに、相変わらず自分で処理しなくちゃいけないなんて、虚しくてちょっと泣けてくる。

やっぱり玉砕覚悟でオレの方から求めてみようかな……

ダメだったら、その時は一人でしよう――そう覚悟を決めてオレは起き上がり、寝室に向かうことにした。



カチャ…

少しだけドアを開けて中の様子を伺ってみる。

息子はベビーベッドで寝ている。

美鈴ちゃんはベッドで雑誌を読んでいた。

何の雑誌だろう?


「美鈴ちゃん……」

「え…っ?明人君、まだ寝てなかったの?明日リーグ戦でしょ?」

「うん…ちょっと」

オレはベッドに上がり、美鈴ちゃんの側に近づいた。

「オレ…」

言いかけて、ふと彼女が読んでいた雑誌が目に入る。

囲碁雑誌だった。


……しかもオレの特集ページ……


「これ…」

「うん…棋士の明人君あんまり知らないから、ちょっとは勉強しなきゃと思って…」

「美鈴ちゃん…」

「今度の棋聖戦もすごく期待されてるんだね。私、実はすごい人と結婚しちゃったのかもって、ちょっとビックリしちゃった…」

「オレはオレだよ……昔から何も変わってないよ」

「そうかな…」

「昔から美鈴ちゃんが好きで好きで堪らなくて、いつも美鈴ちゃんのことばかり考えてる」

「え……」

彼女がちょっとだけ頬を赤めてきた。

「今だって、明日重要な対局があるから寝なくちゃいけないのに……美鈴ちゃんのこと考えてたら全然寝付けなくて…来ちゃったし」

彼女の手を取って握った。

ドキドキしながらも、恐る恐るオレは今の気持ちを伝えることにした。


「寝不足な美鈴ちゃんの負担にはなりたくないから今まで我慢してたけど…。オレ……本当はもっともっと美鈴ちゃんを抱きたい」

「明人君…」

「週イチなんて少な過ぎる」

「……うん。私もそう思ってた…」



――え?



「実は私…結構性欲強いんだよね。でも私が本気で求めたら、きっと明人君引いちゃうから……週イチで必死に我慢してた」

「引くわけないだろ?!こっちは毎日でもしたいんだから!」

「明人君……」

「お互いもう我慢するのは止めよう…」

「うん…賛成――」


直ぐ様お互い無我夢中でキスをして、口内を貪り合った。

邪魔なパジャマを脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になって。

そしてお互いが満足するまで何度も何度も愛し合うのだった。




以降、オレらはまるで日課のように毎日毎晩激しく絡み合うことになる。

もちろん生理が復活次第、すぐに二人目が出来てしまうのは言うまでもない話だ――








―END―








以上、家を隣同士に建てた姉弟でした〜。
結婚直後、明人から家計管理を任された美鈴は、まずは支出の見直しから始めます。
一番に気になったのはもちろん明人の部屋の家賃。

「20万てあり得ないって!賃貸にそんだけ払い続けるの勿体ないよ!もう家建てちゃおう!」
「う、うん…分かった」


そんな感じで21歳という若さでマイホームを建てることになった明人君。
でも全て美鈴ちゃんが仕切ってくれるので楽々です。

「明人君の希望はある?」
「特に…。碁を打つ和室が欲しいとは思うけど」
「和室ね、分かった」


あと、寝室は一緒がいいなぁ…と。
完成した図面を見せてもらうと、ちゃんと寝室は一緒になっててホッと一安心です。
美鈴は昔からエッチ大好きな女の子なので、もちろんこれからは夫の明人君ともいっぱいする気満々です。
寝室を分けるなんて発想はありません〜。
でもさすがに女の方から求めすぎるのもなぁ…と週イチで我慢してきたわけです(笑)
明人君と話し合った結果、毎晩のように出来るようになって、美鈴も満足です♪
(でも明人もまぁまぁ仕事が忙しいので、結局は週3くらいらしいですw)

ちなみに15年ローンを組んだ明人君ですが、結局わずか5年で完済します〜。
美鈴ちゃんのやりくりも中々のものですが、やっぱり明人君がタイトルを取り始めたことが大きいですねw