●SHINDOH FAMILY●





「わーん、超ちっちゃい〜超かわいい〜!精菜お姉ちゃんツンツンしていい?」

「どうぞ?」

「わーい」


僕は今日、家族で生まれたばかりの姪を見に病院までやってきた。

妹がその赤ん坊の豆粒みたいな小さな指をツンツンツンツンしていた――









僕の名前は進藤奏(かなた)。

海王小学校の5年生、10歳だ。

もちろん将来は家族と同じプロ棋士になるつもりで、今年から院生になった。

今日は僕の家族紹介をしてみたいと思う。



★まずは父、進藤ヒカル。41歳。

若手が台頭してくる中、相変わらず現在も本因坊のタイトルを保持しているトップ棋士の一人だ。

好きなものは『囲碁』と『アキラ』。

18の時に結婚してもう23年にもなるのに、相変わらず母が大好き過ぎる父。

母がオフなものなら、朝から晩まで引っ付いていて、見ているこっちが暑苦しい。

でも母はもう慣れてるのか、あしらい方も手慣れたものだ。


父は門下も開いているが、相変わらず門下生は兄二人しかいない。

世間的には『囲碁界一入門が難しい門下』だと言われているが、僕には

「いつでも入れてやるからな!」

と言っている。

家族は特別らしい。

というかもう家族しか入れるつもりがないらしい。

でも僕は実は既に塔矢門下なのだ。

僕に囲碁の楽しさを教えてくれたのは祖父だし、小学校に入るまでずっと祖父母の家で暮らしていた僕は、ぶっちゃけ父よりも祖父を慕っている。

僕の師匠は永遠に祖父だ、例え近い将来亡くなったとしても。



★母、塔矢アキラ(本名、進藤アキラ)。41歳。

現在は女流タイトルのみの保持だが、過去には名人、王座、碁聖、天元、十段も取ったことのある囲碁界の女王だ。

母は17歳の時に父と結婚し、佐為兄さんを出産した。

あの真面目な母の唯一の汚点である。

母がせめてハタチを過ぎるまで待てなかったのかと真底思うけど、あの父の態度を見る限りでは…待てなかったんだろうな。

父的には「アキラを他の奴に取られたくなかったから」らしいが、母が父以外の人を選ぶなんて考えられないと思う。

そのくらい母は父しか見ていない。

今でも。

そしてきっとこれからも。



★兄、進藤佐為。23歳。

現在は三冠で、名人、王座、十段を保持している。

史上最年少タイトルホルダー、最年少名人など、とりあえず色んな記録を塗り替えてきた兄。

弟の僕から見ても顔がカッコよすぎる兄は、入段前から騒がれるほどで、プロになってからは囲碁界の広告塔として尽力してきた。

広報部と常に攻防してるらしいんだけど、ついに根負けして両親みたいにテレビCMに出てしまった。

(しかも航空会社の。普通にすげぇ)

お陰で更に人気が爆発したんだけど、去年12年間交際してきた精菜姉さんと結婚したことからだいぶそれもマシになってきて、ようやく普通の生活が送れるようになったらしい。

(でも相変わらず外出時はマスクが手放せないらしい)



★義姉、進藤精菜(旧姓、緒方精菜)。21歳。

僕と同じ塔矢門下の一人、緒方先生の一人娘だ。

女流棋聖のタイトルも取ったことのある元プロ棋士で、結婚と同時に引退した。

今後は子育てをしながら兄のサポートに集中するらしい。


3日前に義姉は無事女の子を出産した。

兄も棋戦が忙しい中でもちゃんと立ち合えてよかったと喜んでいた。

美男美女過ぎる兄夫婦なわけだけど、生まれたばかりのこの姪っ子もきっとすごく美人になるんだろうな。


ちなみにさっきまで緒方先生夫妻も見に来ていた。

緒方先生にとっても初孫。

僕らもいたから何ともない顔をしていたが、きっと緒方先生は今後孫にデレデレになる予感しかしない。

緒方先生は意外に基本子供好きなんだ。

僕も妹も祖父母の家で暮らしていた時、よく遊んでもらった記憶がある。

もちろんたくさん打ってもくれた。

僕は緒方先生を兄弟子として慕っているのだ。

きっと、母以上に。



★姉、京田彩(旧姓、進藤彩)。21歳。五段。

先月結婚して名字が変わった彩姉さん。

11歳の時に女流枠で入段し、去年五段に昇段し、晴れて正棋士になった。

昭彦兄さんを好きになったのは院生時代で、16歳の時から正式に交際をスタートさせたらしい。

もちろん、義兄はちゃんと父に許可を取った上でだ。


姉は囲碁も好きだがマンガも大好きで、ぶっちゃけちょっとオタクだ。

夏と冬は必ずビッグサイトに行って色々買い込んできてるし、コスプレもするらしい。

義兄ももちろんそのことは知っている。

ちなみに義兄には双子の妹がいるんだけど、片方が姉みたいなオタクらしく、意気投合して最近はよく一緒にイベントに行ってるらしい。



★義兄、京田昭彦。26歳。八段。

七大タイトルでは挑戦者にも何度もなったことのある実力の持ち主だ。

進藤門下の義兄は、師匠の父を誰よりも尊敬してるし、慕っている。


そんな義兄が姉との結婚を父にお願いしに来たのは去年の年末のことだ。

「彩さんと結婚させてください」

と頭を下げた義兄に、父はしばらく長考した後、

「分かった…」

としぶしぶながらもOKした。

弟子になって既に10年。

義兄の人柄や性格、囲碁に対しての姿勢、どれを取っても悪くないからだ。

むしろあの姉には勿体ないくらいだろう。

二人が付き合い始めた時も、ちゃんと順を踏んでたというのも評価される一つの要因だと思う。

5月のGWに挙式を予定してる二人だけど、佐為兄さんみたいにキャンセルにならないことを祈っている。

(まぁ昭彦兄さんなら大丈夫だと思うけど)



★最後に双子の妹、進藤葵(あおい)。10歳。

家族の中で唯一囲碁を打たない、ごく普通の小学生だ。

今の妹の趣味はYouTube配信。

チャンネル名は『本日の進藤家』。

勝手に家族を撮してアップされるので、ぶっちゃけ困っている。

特に父と佐為兄さんが出てくる回は、再生回数がヤバい。

この前父の研究会の様子をアップしていたが、何と1日で10万回を突破していた。

もちろん父と兄の女性ファンも観てると思うが、それよりも観てるのが同業者の碁打ちらしい。

囲碁界一入門が難しいと言われている進藤門下の研究会の様子が見れるのだ、プロアマ問わず囲碁を打つものなら誰もが気になるところだろう。

しかも妹の賢いところは、母に手伝ってもらって、英語字幕を付けているのだ。

お陰で全世界の碁打ちがそれを見たと言っても過言ではないだろう。

(色んな国の言葉でコメントが寄せられていた)








ちなみに今の七大タイトルのホルダーはこんな感じだ。


棋聖……窪田大

名人……進藤佐為

本因坊……進藤ヒカル

王座……進藤佐為

天元……倉田厚

碁聖……窪田大

十段……進藤佐為



そういえば窪田棋聖も去年結婚したばかりだ。

お相手は同じ棋士の内海女流三段(23)。

佐為兄さんの同級生らしい。

5年くらい前に一緒に大盤解説の仕事をした時に意気投合して交際がスタートしたらしい。

内海女流が大学を卒業するのを待って結婚したそうだ。


てことで今囲碁界はかなり結婚ラッシュである。

ということは当然それに伴い出産ラッシュとなるだろう。

10年後あたりにまたプロ試験で『厄年』が来るのは間違いないと思う。

それに巻き込まれないよう、僕はさっさと来年のプロ試験に合格して、一日でも早く皆に追い付けるよう頑張りたいと思う。










―END―












以上、初登場、ヒカアキの次男、双子の兄の奏君による家族紹介でした〜。
奏君はちょっとクールやね。佐為より。佐為はどちらかと言うと真面目なだけなので、クールとはちょっと違います。
奏君ももちろんプロ棋士を目指してます。でも塔矢門下らしいです。ヒカアキは双子を祖父母の家に預け過ぎたねw
ちなみに佐為が高校を卒業して家を出たタイミングで、双子は小1になり、ヒカアキとまた一緒に住み始めてます。

さて、広報部から「これだけは絶対に断れないから!!」と、しぶしぶ航空会社のCMに出てしまった佐為。
オンエア後、防衛戦の為地方に行こうと羽田に行くと、見事に空港が自分の広告だらけで驚愕します。
(やめてくれ…っ!!)←佐為の心の声
佐為の乗る飛行機に立ち合わせたCAさん達は大興奮ですよ!!
お飲み物は〜毛布は〜新聞は〜とムダにやってくるそうですよ?(笑)

最後に。
可哀想すぎる内海さくら嬢に窪田棋聖という最強の伴侶をプレゼントしました(笑)
てことで次の視点リレーはこの二人です!
二人の出会い〜結婚までを追ってみましょう!