●SELECT CAR●


「お前、車買うのか?」

「うん」


――1月。

ようやく年始めの行事も一通り終わって落ち着いてきた頃、オレは本格的に車を買おうと悩んでいた。


「でもオレ全然分かんないんだよな」

「あー、だからこの様か。すげぇパンフの量だな」

「この前幕張の展示会覗いたらさ、次々渡された」

「ハハ、なるほどな〜」

貰ってきたパンフはトヨタから始まって、ホンダ、日産、マツダ、スズキ、ダイハツ、三菱、スバル…と、日本のメーカーを一通りと外国メーカーも少し。

和谷も興味深そうに見始めている。

「やっぱり最初は中古の方がいいのかな?ぶつけた時ショックじゃん」

「まぁなー。でも進藤、お前家族も乗せるんだろ?なら事故のこと考えたら、多少高くなってもオプション付けまくってさ、頑丈にしてた方がいいんじゃねぇか?」

「それもそうだな…」

「ケチるなケチるな」

確かにいいのを買おうとしたら中古でも結構するし、最初から新車でもいいかもしれない。

安全第一、家族第一だもんな。

でもどれにしたらいいのか全く分かんねぇ!

オレの両親もアキラの両親も車なんて持ってねーし…。

オレの友達も持ってる奴はたまにいるけど、皆軽とかで全然参考になんないんだよなー。

CMとか見る限りでは家族が乗ってるのってたいてい大きい車だし。

オレもああいうのがいいな。

でも初心者のオレに果たして運転出来るのかどうか…。

どっかのショールーム覗いて店員に聞けば色々教えてくれそうだけど、あまりに知らなさすぎたんじゃ最初に覗いた所に押し切られて、言われるままに契約しちまいそうだし…。

やっぱある程度は絞っとかねーと…。

あーあ、誰か車に詳しい奴いねぇかな…。



「進藤、お前車買うんだってな」

「え?」

対局の検討の後、緒方さんが突然言い出した。

「この前、お前の友達が玄関で話してたのを偶然聞いてな」

「あぁ、そうなんですよー。子供が生まれるまでには決めときたいんですけど、オレもアキラもよく分かんなくて…今試行錯誤中です」

はぁ…と溜め息をつくと、緒方さんがハハっと笑ってきた。

「車持ったら雑誌の取材でもたまに聞かれるからな。それなりのに乗っとかないと格好つかんぞ」

「それなりって言われてもな…」

「ま、今のお前ならどんなやつでも買えるだろ」

「でもアキラに7ケタに抑えるよう言われてるんで、そんなに高いのは無理です」

「はは、アキラ君らしいな。で、だいたい候補は絞ったのか?」

「いえ全然。一応ミニバンかSUVがいいかなって思ってるんですけど、トヨタだけでも何種類もあって…」

「なるほど、家族用か」

「はい、緒方さんと違って彼女と乗る用じゃないんで〜」

そう言うと一瞬緒方さんの眉がピクッとなった。

へへ、何だか勝った気分。

緒方さんもいい歳なんだから、さっさと結婚すればいいのに…。

彼女はいっぱいいそうなのにな…。

あ、いっぱいいすぎて一人に絞れないのかも。

オレの車と一緒だな。


「トヨタならエスティマかアルファードあたりが無難だろ。SUVならハリアーが人気だな。3.3ハイブリッドが特にいい」

「……!」

…そうだよ。

緒方さんならあんないい車乗ってるし、何かいい情報持ってるかも!

「やっぱそう思います?でね、出来るだけ頑丈なのがいいんですけど、ホンダとか日産のは強度的にはどうなんですか?」

「安全性を取るなら日本車は駄目だ。欧州車のを真似てるだけだからな。それに対する車造りの歴史が違う」

「へー…欧州車?」

「SUVならドイツ車かスウェーデンのボルボが日本でも出回ってるぞ」

「ドイツって…ベンツとか?」

「そうだな。メルセデスならGクラスかMクラス。ミニバンならRクラスかビアノになるな。トールワゴンのバネオも大きくて人気がある」

「へぇ…」

クラス?

「後はワーゲン、BMW、アウディ、ポルシェ、AMG、オペルが有名だが…」

「何か高級車ばっかり…」

「そんなことないぞ。SUVなら1000万を越すのは滅多にないしな。ワーゲンのゴルフ・トゥーランなら300万前後で手に入るし、トヨタのアルファードを買うよりかは安い」

「マジ?オレ日本車しか調べてなかった。他の会社は?お勧めのとかある?」

「外車はミニバンよりSUVの方が種類は多いんだが、そのワーゲンならトゥアレグ、アウディならオールロード・クワトロ、ポルシェならカイエンがそれになる。あとAMGならGとMだ。お勧めはBMWのX3とX5シリーズだな。座高が高くて運転しやすい」

「オレでも運転出来る?」

「あぁ、車っていうのは車幅さえ分かっていれば、大きい方が全体を見渡せて運転しやすいんだ」

「へー」

「ま、お前は初心者だが、運動神経は良さそうだし、慣れるまでそんなに時間はかからんだろ」

「うん、オレ体育だけは5だった♪」

その後早速緒方さんとショールームを覗きに行き、そこのパンフを一通り貰ってから帰宅した。




「…と、いうわけで、オレこのX5シリーズ買うよ」

「バカか?キミは!」

帰ってくるなりアキラに伝えると、いきなり駄目だしされてしまった。

「バ、バカじゃねーよ!緒方さんも運転しやすいって進めてくれたしさー、値段もちゃんと7ケタだぜ?」

はぁ…と思いっきり溜め息をつかれて、首を横に振られた。

「そういうことじゃなくて、どこの世界にBMWに初心者マークを付けて走ってる奴がいるんだっ!」

「やっぱ…マズい?」

「マズいとか考える以前の問題だ!だいたい何が7ケタだ!限り無く8ケタに近いじゃないか!もっとお金の使い方と自分の腕を考えろ!」

「……はーい」

しゅんとした声で返事をすると、アキラも今度は落ち着いた声で話しだした。

「で?買ったとして、その車はどこに置くんだ?」

「そうなんだよな…。このマンションには駐車場ないし…。近くの借りるか」

「駅前のやつ?結構離れてるね」

「んー…じゃあいっそのこと駐車場付きの一軒家建てちゃおっか!」

「キミって…」

「え?ダメ?子供にとってもマンションよりかは一軒家の方が過ごしやすいと思ったんだけど…」

「まぁ…そりゃね。じゃあお金貯めないと…。車にそんなに遣ってる場合じゃないよ」

「だな。あーあ、また一から考えなおしだぜ」

「……」





「で、結局どうなったんだよ?」

次の日の昼休み、和谷が興味津々に聞いてきた。

「取りあえず今年いっぱいはお金貯めて、来年家を建てることにした」

「マジかよ。そっちの方がビックリなんスけど」

「いいだろ?ハタチでマイホーム・パパ」

「笑えねぇ…」

「はは」

でもアキラとは元々、佐為が小学校に上がるまでを目標にって話しあってたから、オレらにとってはそんな急ではないんだけど…。

「じゃあ車は結局買わねぇのか?」

「ううん、買うよ〜。3シリーズのセダンだけど」

「3?!ってお前結局BM買うの?!本気で?!」

「うん、運転自体に慣れるまで大きい車はお預けだって」

「いや、誰もそんなこと聞いてねーよ。3シリーズって何百万すんだよ」

「5ぐらい。でもアキラが半分出してくれるらしくてさ」

「ありえねぇ…この夫婦」


取りあえず名人戦でバタバタするまでに契約すませてしまおう。

にしても1年てホントに早いよなー。

早くも防衛戦…か。

今年の挑戦者は十段の緒方さんか、王座のアキラか。

来週のプレーオフで全てが決まる。










―END―












以上、車選び話でした〜。
い、いかがでしたでしょうか…(笑うしかない 笑)
忙しい中ようやく免許を取ったヒカル君。
さぁ何に乗る?!
と今回は書きはじめましたー。
そして緒方さんに相談したのが運のつき。
結局はああなりました(うわー…)
書いてる私自身もあんまり日本車には詳しくないため…強度的にもドイツ車に乗ってもらいました。
トヨタなら…まぁ…何とか…ぐらいの知識はあるんですが、その他の会社のはCMで流しまくってるのしか本当に分からなくて…(汗)
かといってドイツ車はドイツ車でも、一番詳しいワーゲンはヒカアキのキャラじゃないし…。
ベンツやアウディは硬すぎ…。
ポルシェはまだ早いだろ…。
でもAMGやオペルは日本ではマイナーな部類…。
で、BMWに(笑)
条件としてはX3、X5より安くて、4ドアなやつ。
1シリーズは小さいし…5、7シリーズは高すぎ。
ということで、一番出回ってて種類も豊富な3シリーズに決定〜!わ〜!
セダンなら初心者のヒカルも乗りやすいよ、きっと!

…て何考えてんだ私…。
何だかもう…ごめんなさい…。

まぁ…どんなにケンカしてもどんなに若くてもどんなに子供っぽくても、二冠は二冠。
夫婦の年収を合わせると9桁になっちゃう彼らですから、乗る車もこんなところでしょう!
ってことで軽く流してください!