●TALL or SHORT●


「好みのタイプとかはある?」

「えー、取りあえず自分より背が低い子かな」

「あはは、なるほどねー。ちなみに進藤君、今何センチなの?」

「165です。あんまり高くないんですよー。まだ伸びてますけど」


棋院近くの喫茶店に入ると、偶然取材されている途中の進藤がいた。

しているのは確か何とかいう有名な女性週刊誌の記者だ。

僕も前に一度彼女から取材を受けたことがあるから覚えている。


――にしても


『自分より背が低い子』


か…。


ちょっと…いや、かなりショックかもしれない…。

だって僕の身長は167センチだから―。

進藤の好みには当てはまらない…。


一気に食事の気分じゃなくなり、ウエイトレスに断って僕はその喫茶店を後にした―。


これって失恋になるのかな…?

別に進藤に彼女が出来たわけでも、告白して断られたわけでもないけど…。

でも、きっと告白したら

「オレ、自分よりデカい女って嫌なんだ」

って断られるんだろうな…。

そう思うと涙が溢れてくる―。

何でこんなに大きくなっちゃったんだろう…。

平均と比べても10センチ近く高い。

すれ違う小柄な女の子を見る度に羨ましく思う。

きっと…進藤はあれぐらいの女の子が好きなんだ…。

150センチ代の…平均ぐらいか、それ以下の…。



「あらアキラさん、お帰りなさい。早かったのね。今日は囲碁サロンには寄らなかったの?」

「うん…」

僕を産んでくれた母…。

確か162センチって言ってたっけ。

そして父は180センチ近い…。

完璧な遺伝…だな。

せめて母ぐらいだと、進藤の好みに入ったのに―。


その日は失意のまま布団の中に潜り込んだ。

そういえば進藤と打つ約束してたんだっけ…。

いいや、あんな奴―。

キミなんて、小柄な女流の誰かと打てばいい―。

こんなタイプじゃない大女と打つことない!

囲碁と身長は全く関係ないのに、僕は意味不明な理由をつけて、今日は進藤との約束を破ることにした。

連絡なんてしてやるもんか!

僕が傷ついた分、キミも傷つけばいいさ!



〜♪〜〜♪〜
〜〜♪〜〜♪


しばらくすると着信の音が聞こえた。

携帯の表示を見ると……進藤からだ。

「……」

ピッ

「……はい」

『塔矢?!今どこ?!何時だと思ってんだよ!』

「……」

『オレもう1時間もオマエんとこの碁会所で待ってんだぜ?!』

「…今日は行かない」

『はぁ??何で!何か用事でも入ったのか?そういう時は事前にメールぐらい送れよな!』

「……」

『おい!聞いてんのか?!』

「……」

『塔矢?』

「…うるさい」

『え?』

「うるさい!チビッ!!」

『チ…―』

ピッ


うるさい!うるさい!!うるさい!!!

キミなんて大嫌いだ!!


思ってもないことを心の中で叫びながら、僕は一晩中泣きまくった。



――翌朝

浮腫んだ目で棋院に行くと、進藤がロビーで仁王立ちして待ち構えていた。

「おい!塔矢!!何なんだよ昨日の電話は!」

手を引っ張られて、人目につかない階段ホールに連れて行かれる。

「チビって言ったよな?!オレのことチビって―」

「…だから?本当のことじゃないか」

「本当のことでも言うなよな!人が気にしてることを―」

「へぇ…気にしてるんだ」

「当たり前だろ!」

怒っている進藤を見下ろした。


――そう

見下ろしてやったんだ。


昨日の当てつけで、僕は今日自分が持ってる中で一番ヒールが高い靴をわざわざ履いて来た。

たぶん今の僕は175センチ近くあるだろう。

「くそっ!絶対今年中に抜いてやる!」

僕を見上げていた進藤が悔しそうに目をそらした。

「…塔矢、今何センチ?」

「167だけど?」

「てことはあと2センチか…。つまり…―」

一人ぶつぶつ計算している。

「言っておくけど!僕は今日ほどではないにしても、たいていヒールの高い靴を履いてるからな。2センチ伸びたぐらいじゃまだ並ばないぞ」

「分かってるさ!」

進藤が階段を一段上がった。

「これくらいになったらいいんだよな」

段差の18センチをプラスされて、183センチになった進藤が僕を見下ろしてきた。

はっ!

馬鹿ばかしい!

今からそんなに伸びるわけないじゃないか!


「…オマエはさ、やっぱり付き合うなら背の高い奴の方がいい?」


そんなのどうだっていいよ!

僕はキミがいい!

でも悔しいから絶対に言わない!


「当然だろ?自分より背の低い彼氏なんて御免だ!」

「…だよな」

進藤がはぁ…と大きな溜め息をついた。


……何で?


「オレさ、これでも毎年5センチずつぐらいは伸びてんだぜ?」

「だから?」

「だからさー、単純計算であと2年もすれば175になってるワケ」

「…伸びれば、ね」

「絶対伸ばす。そしたらオマエとも8センチ差だし」

「……?」


何が言いたいんだ?進藤は―。


「175のオレなら彼氏にしても恥ずかしくないよな…?」

「うん……?」

「あと2年待っててくれる…?」

「……」


つまり…

それって…


「進藤…、これって……告白?」

「うん…―」

ハッキリそう言われてたちまち顔が赤面した。

「キ、キミは、背の低い子が、好きなんじゃ…ないのか?!」

「そりゃ男のプライドにかけて、彼女よりも低いなんて嫌だ。でもオレはオマエが好きだから……意地でも伸ばす!絶対!だから伸びたら付き合ってくれる…?」

「……嫌」

僕の言葉に進藤がショックを受けて、階段に座りこんでしまった。

「か、勘違いしないでくれ!僕は2年も待つのが嫌だと言ったんだ」

「え…?」

「出来れば…その、今すぐ…付き合いたい…」

進藤が大きく目を見開いた。

「でもオマエ……背の低い彼氏なんて御免だってさっき―」

「あ、あれは……キミが背の低い子が好みなんていうから……当てつけ」

「なんだよ…もー」

進藤が嬉しそうに苦笑し出したので、僕も笑ってしまった。


最初から僕らの間で、身長なんて問題じゃなかったのにね―。


「な、キスしてもいい?」

「いいけど…階段からは降りてくれ。ありのままのキミにされる方が嬉しい―」

「じゃあオマエもそのミュール脱げよ?」

「うん―」

階段から降りて――裸足になって――いつものほとんど変わらない視線に戻った僕らは…とびきり甘いキスをした―。



出会った頃は10センチ近く僕より低かった進藤。

今現在2センチ差の進藤。

そして2年後――僕より10センチ高い進藤もすぐ近くにいる―。








―END―









以上、身長話でした〜。
165はチビじゃないと思います(笑)
そして167の女の子も「大女」ではないと思います(笑)
でもやっぱり全体的に女の子の方が成長は早いので、辛いですねヒカルくん。
ちなみにこの話は15歳の夏ぐらいだと勝手に決めてるので、まだまだ男の子は伸びる時期だと思います。
ヒカルは特に遅咲きっぽいので、ようやくアキラに近づいてきた??みたいな。
理想の身長差は15センチぐらいでしょうか?
5センチのヒールを履いても、まだ10センチ差がありますから!
さすがにヒカルは180は超えないと思うので、目指せ175!ですね!
そしたらアキラと8センチ差だ!
しかーし、アキラもまだ伸びるような…(笑)
が、頑張れヒカル!