●SCHOOL 2●
パチッ パチッ パチッ…
15分打ち続けて、50手まで進む。
確かに女流枠とはいえ、プロ試験を受けるだけのことはある。
かなり打てる。
でも――彩には到底敵わない。
院生順位で言えば15位前後だろうか。
でも現在の院生15位以内にいる女子はたった3人だ。
そのうち精菜が抜けて、彩も順調に抜けるとなると、残りは1人。
その一人には合同予選の時に対局したけれど、この内海さんとはいい勝負じゃないだろうか。
「囲碁を始めてどのくらい?」
「えっと…5年くらいかな?小2の時におじいちゃんに教わったから…」
「内海さんのおじいさんって…」
「一応元プロです。もう20年前に引退したけど…」
「じゃあ部活がない日は、そのおじいさんと打って勉強してる訳か」
「…ううん。おじいちゃん、1年前に亡くなったから…」
「あ…ごめん」
「ううん…」
海王囲碁部は確かに部員も多いしレベルも高い。
でもやはり部活動の域なんだ。
ここで打っても上達はたかが知れている。
「…今のままじゃ彩には到底及ばないよ。本気で来年合格を狙うなら、一日でも早く院生になった方がいい」
「やっぱ…そうだよね」
じゃあやっぱり1月期の院生試験受けてみようかな…と彼女が呟く。
そして真っ赤な顔になって、碁盤から顔を上げてきた。
「進藤君…もしよかったら、たまに私とも…打ってくれないかな?」
彼女の緊張がこっちまで伝わってくる。
「…申し訳ないけど、それは出来ないよ」
「え……」
「何よ、ちょっと冷たくない?たまに打つくらいいいじゃない」
別宮さんが横やりしてくる。
「彼女でもないのに特別扱いは出来ない」
「……!」
「じゃ、もういいよな」
僕は席を立って出口に向かった。
廊下に出てドアを閉めると、泣く声が聞こえた。
「も〜アンタなんであんな失礼な奴が好きなの?」
「だって…」
「早くプロになって見返してやりなよね!」
「うん…」
静かに僕はその場を後にした。
荷物を取りに教室に戻ると、西条がまだいた。
棋譜並べをしながら待っていてくれたらしい。
「何や、早かったやん」
「結局途中までしか打たなかったからな…」
「囲碁部の副部長さん、何の用だったん?」
「大した用じゃないよ…」
「やっぱ告られたんやろ?」
「……違う、けど。同じようなものかな…」
「棋院では有名な話やのに、学校じゃ誰も知らんのやなぁ。ごっつい彼女おるって」
「……」
「進藤見てたらあんまりモテるんも考えもんやな。しんどいわ」
「僕は精菜にさえ好かれたらそれでいいのにな…」
ハハッと西条が笑ってくる。
「ホンマ父親と一緒やな」
「え?」
「だって進藤本因坊も昔からモテモテやけど、名人一筋やもんな。さすが親子や、一緒やん」
「……そうかもね」
僕は携帯を取り出して、大事な恋人にメールを打った。
『今日会える?ちょっとだけ精菜んち寄ってもいい?』
すぐに返ってきた返信メール。
『今佐為の家にいるよ〜!彩と読書中です♪』
(彩と読書?絶対マンガだろ…)
僕は西条に断って、急いで家に帰ることにした――
―END―
以上、学校での佐為のお話でした〜。
プロ試験を受かってテレビで顔バレして学校ではそりゃもう大騒ぎなのです。
もちろん元々囲碁部が有名な海王中ですから、タイトルホルダー二人の子供がいるらしいってことは入学当初から騒がれていたかと思います。
でも囲碁に興味のない人にはどうでもいい話で。
でも今回顔バレして興味がなかったはずの人たちにも興味を持たせてしまったのです。
どんだけイケメンやねん…。
小学校の頃からさんざん告られている佐為は、もう「告白」というものに脅え気味です。
女子とはきっと話したくもないんでしょう。
1人にならない為に西条君にベッタリなのです〜。
ちなみに佐為も西条も囲碁部には一度も指導碁とか行ってません。薄情な奴らですな。
佐為が特別扱いするのはもちろん精菜だけですよvv