●ROOM SHARE 12●





出張になるのがいつも僕と進藤、和谷君と伊角さんと都合よく分かれてるわけではない。

時には進藤と和谷君。

時には和谷君と僕。

時には伊角さんと僕。

誰か一人の時もあれば、全員総出で出かけることになる時もある。

で、今回は―――



「塔矢もう実家に帰ってろよ〜」

「そんなに心配することないよ。最近は上手くやってるつもりだ」

「でもさぁ…」


今回の出張はよりによって進藤と伊角さん。

つまり――僕と和谷君がこの部屋に残ることになるわけだ。


「部屋から一歩も出るなよ」

「無茶言わないでくれ。どうせ僕はオフだから、一日中囲碁サロンで打つことにするよ」

「でも夜は二人きりじゃん。ああ…もう、すっげー心配」

「……」


馬鹿馬鹿しい。

一緒に住み始めてもう三ヶ月になるんだ。

僕も和谷君もだいぶ打ち解けれた気がする。


「喧嘩するなよ?」

「しないよ、子供じゃないんだから」

「浮気するなよ?」

「す、するわけないだろう!」

「ふーん…」



でも心配性の進藤が念のためだと称して、僕をホテルに引っ張っていき、体中にキスマークを付けてきた。

これだけ付けておけば、他の男は見た瞬間に萎える…らしい。


「キミこそ浮気するなよ!」


負けず嫌いな僕も進藤に付け返してやる。

口以外にキスをされたことのなかった進藤はちょっと感動していた。


「…って!オレ今回のイベント会場、温泉なんですけど!どーすんだよこれぇ…」

恥ずかしくて温泉に入れない、一人虚しく部屋風呂は嫌だー!と叫んでくる。

「いいじゃないか。聞かれたら彼女に付けられましたって答えればいい」

「そうだけどぉ…」


でもその彼女が僕だと知っている伊角さんや社と一緒に今回は手伝いに行くらしい。

絶対にからかわれる……と進藤は泣きながら出発したのだった。









「おはよう、市河さん」

「アキラ君!久しぶりね!」

「そんなに来てなかったかな…?」

「来てないわよー。進藤君と同棲を初めてから一度もね」


市河さんの言葉にぎょっとした。

ど、同棲って…。

違うのに!

でも市河さんのみならず、常連のお客さん達にも「アキラ先生、進藤君と同棲し始めたって本当ですか?」とか何とか聞かれてしまった。


「ど、同棲じゃありません!誰がそんなこと…」

「芦原先生が言い触れ回ってましたよ」


芦原さん…!!


とりあえず同棲じゃなくルームシェア、進藤の他にも2人いると念を押しておいた。

はぁー…こんな調子じゃ両親に伝わるのも時間の問題かもしれない。

いや、もう伝わってるのかも?

怖くて実家に帰れない…。




「やぁ、アキラ君。進藤とは仲良くやってるのか?」

「緒方…さん」


こういう会いたくない時に限って、この人には会ってしまう。

無視してさっさと奥の席に行こうとしたら、勝手に付いてきた。


「進藤を落としたんだろう?迫ったりしたのか?進藤も若いな」

「べ、別に、僕らはそんな…」

「そんな関係じゃない?じゃあどうしてこの前二人でパークホテルにいたんだ?恋人同士らしいことをする為じゃないのか?」

「……緒方さんもいらしてたんですか?」

「たまたまな。にしてもルームシェアってのは不便なものだな。自分達の部屋で愛しあえないなんてな」

「………」


確かに…不便だと思う。

進藤と付き合い初めてからこの三ヶ月間、僕らが体を合わせる場所は専らホテルだった。

自分達の部屋ではキスまで。

ホテル代も馬鹿にならならなかった。

進藤が払ってくれてるから詳しい額は知らないけれど、合計すると軽く月10万は超えてると思う。

家賃より多くかかるホテル代って…どうなんだろう。

そのお金を家賃に回せばもっといい部屋に住めそうな気がする…。


「ルームシェアなんてさっさとやめて、噂通り本当に同棲してしまったらどうだ?」

「そんなの…お父さんとお母さんが許してくれるはずがないでしょう?」

「そうか?先生は分からないが、少なくとも明子さんは反対しないと思うがな」

「…どうしてそう思うんです?」

「この前芦原が冗談で明子さんに『アキラ、進藤君と付き合ってるみたいですよ〜。もう二人とも同棲気分なんじゃないかなぁ?』とか言ってたからだ」

「そ、それで?お母さんの反応は?」

「笑ってらしたよ。『あら、じゃあアキラさんは進藤君に貰ってもらいましょう』ってな」

「………」


そ、そうなんだ…。

同棲しても別に反対されないんだ?


「でも…皆で住み始めてまだ三ヶ月ですから、しばらくは無理ですよ。和谷君だって伊角さんだって、いきなりルームシェアを解消されたら困るだろうし…」

「そうでもないと思うがな。聞いたか?あの噂」



噂……?









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