●RIVER 1●
「もう一局打つ?」
「もちろん」
夕飯を終えた僕らは再び打ち始める。
次に終局して検討も終えると、12時を過ぎていた。
しまった、彼女とはいえ流石に長居しすぎた。
「じゃあ帰るよ」
「え?もう終電ないぜ?」
「タクシーで帰るから問題ないよ」
じゃあ今日はありがとう。楽しかった、と言って帰ろうとしたら
「泊まっていったら?」
「え?でも…」
「彼女が彼氏の家に泊まるのも普通だから」
だから塔矢んちからも別に連絡ないだろ?と。
携帯を確認すると、確かに家から着信はない。
そうか、泊まるのが普通だから僕がこんな時間になっても帰ってこなくても、両親は特
「じゃあ…、泊まるよ。着替えも何もないけど」
「オレのを貸してやるから」
「進藤の服?」
「うん。予備の新品のパジャマもあるから」
「そう…」
とりあえずお風呂に入るよう促されたので、先にお風呂をいただく
進藤は意外にもスキンケアもちゃんとしてるのか、洗顔フォームも
歯ブラシもタイトル戦でホテルに泊まった時に貰って来たのがある
僕と入れ替えで進藤もお風呂に入って。
そして僕らはパジャマ姿で一つしかないベッドの上に上がった。
「まさか一緒に寝るのか?」
「当たり前だって。だって…」
「彼氏と彼女だから?」
「うん」
…本当だろうか?
このまま一緒にベッドに横たわってしまったら、僕は進藤に襲われ
「オレとするの……嫌?」
「嫌というか……早過ぎないか?」
僕達今日が初デートなんだけど……
「別に早くないって!オレら学生じゃないんだし、ハタチ超えてる
「そういうもの…?」
「うん」
「そう…」
まぁ…確かに僕達は成人してるもんな。
緒方さんなんて付き合ってなくても女の人と一夜を共にすることが
「じゃあ……いいよ」
「ホント?やった…!」
同意すると、即座に進藤は僕を押し倒して来た。
後はもう…されるがままだ。
初めてだったからもちろん痛かったけど、進藤が
「塔矢…、好きだ」
大好きだ。
愛してる。
結婚しよう。
と恥ずかしい台詞をたくさん囁いてきたので、とても恥ずかしかっ
そうか、進藤はそんなに僕のことが好きなのか…。
じゃあ別にいいか…、と一晩中彼を受け入れ続けた。
(でも流石に長すぎないか?こんなもん?眠いんだけど)
「おはよう塔矢」
「…おはよう」
翌朝。
進藤ににこにこ挨拶される。
おはようと言うほど寝てないが。
「今日塔矢先生、家にいる?」
「いるんじゃないか?何で?」
「挨拶しようと思って」
「挨拶?」
僕と付き合い始めたという報告の挨拶か?
そんなもの必要だろうか?と思ったけれど、進藤は父の許可がほし
親の許可も取って堂々と付き合いたいんだろう。
何故かスーツを来た進藤と一緒に家へ帰る。
「お帰りなさい、アキラさん。進藤さんも、いらっしゃい」
娘が朝帰りしたというのに、母の態度は普通だった。
やっぱり彼氏がいたら泊まるのは普通のことらしい。
「進藤さん、主人は主人の部屋よ」
「は、はい…」
進藤がめちゃくちゃ緊張している。
思わずクスリと笑ってしまった。
「大丈夫だよ」
と手を握ってあげる。
父は進藤のことを昔から気に入っている。
だからきっと交際も反対しないと思うよ、と。
だけど――
「アキラさんをオレに下さい」
父の部屋で放った進藤の台詞は、僕が思ってたのと全然違っていた
んん?今、なんて言った?
僕の聞き間違い?
父も難しい顔をして
「アキラをよろしく頼む」
と返事をしていた。
んん?このやり取り…、何かが変な気がする。
「アキラさんもお嫁に行っちゃうのね…、寂しくなるわ」
と母が涙ぐんでいた。
んん?僕がいつお嫁に行くという話に?
進藤を玄関まで送っていきながら、僕は彼に尋ねる。
「進藤…、僕たちって付き合い始めたばかりだよね?」
「そうだな」
「それが何故、結婚する話になってるんだろうか?」
「ダメ?」
「ダメというか……プロポーズもされてないし…」
「え?したじゃん昨日」
確かに昨夜シてる最中に囁かれたような気もするけど……
「ほぼ意識飛んでたしな…」
「そうか…、じゃあ」
進藤に左手を取られる。
薬指の付け根にチュッとキスされる。
「結婚しよう…、塔矢」
「……」
改めて言われるととても恥ずかしい。
でも、ちょっと嬉しい気もした。
進藤となら、夫婦になっても上手くやっていけそうな気がしないで
「分かった…、いいよ」
「よし。じゃ、今から指輪でも買いに行こうぜ!」
「うん…」
こうしてあっという間に結婚した僕たち。
一緒に住み始めた後、僕は進藤の部屋でとある女性週刊誌を見つけ
ご丁寧に付箋が付けてあるそのページを開けると、僕のインタビュ
まだ囲碁しか興味のなかった15歳の僕が答えた、とんでもない結婚願望。
『囲碁に集中したいので、もう付き合ったら即結婚でいいです。2
―END―
以上、流されまくりのアキラさんのお話でした〜。
でも実はヒカルはアキラの結婚願望を実行しただけなのです。
15歳の時にこの記事を読んだヒカル(もちろん既に塔矢ラブv)。
(20歳で付き合うのはいいとして、結婚かぁ…。塔矢と結婚するならタイトルの一つや二つ持ってないとやっぱりダメだよなぁ…)
ということで、それから5年間めちゃくちゃ囲碁に集中します。どんどん強くなるヒカルにアキラも大満足です。
ちなみにこのヒカルは既に本因坊と天元を持っています。アキラは名人。
もちろんこの記事は明子さんと行洋先生もチェック済です。
だからヒカルと付き合い始めたとアキラが話した時、明子さんはめちゃくちゃ喜び、行洋先生はヒカルが婿か〜と思ったのでした。
もちろん結婚する進藤さんとのデートなんだから、帰って来なくても仕方ないわね、と。
もちろんアキラはこの記事のことなんてさっぱり忘れてて、何か急すぎないか?まぁ進藤だからいいか〜と流されてるのでした★