●RING●





最近塔矢の指が気になる。



左手の薬指にはめられた高そうなダイヤの指輪。

塔矢は自分で指輪なんか買う女じゃない。

しかも薬指ってことは……やっぱコイツにもそういう相手が出来たってことなのか。

面白くない。

イライラする。

と同時にものすごく焦ってる自分に気付いた。

やばい。

塔矢を取られる。

いや、もう取られてる?

いやいや、取られたからってなんだっていうんだ。

別に塔矢と打てなくなるわけじゃない。

塔矢だっていい歳した女なんだし。

ごく普通にその指輪の相手と結婚して…子供産んで…家庭を築く。

ただそれだけのこと………なんだけど、それが面白くない。


くそっ…誰だよ。

誰に貰ったんだよ、その指輪。

オレじゃダメなのかよ…!




「寒いね。雪が降りそう」

「そうだな…」


碁会所を出て、ようやく二人きりになれた。

駅に向かって塔矢より少し前を歩き―――振り返る。


「…塔矢」

「なに?」

「その指輪……」

「指輪?」


ああこれ?と左手を上げてオレに見せてくる。


「貰ったんだ」

「……誰に?」

「お母さんに」


お…お母さん??


「明子さん…?」

「うん。恋にきく魔法の指輪なんだって」

「……」

「この指輪をね、薬指にはめて意中の人の前でチラつかせると、もし相手が自分に気があるのなら絶対にプロポーズしてくれるんだって」

「魔法もなにも…フツーだって。ただの心理作戦じゃん」

「そうかもね。でもお母さんが成功した指輪だから縁起がよさそうだったから」


つまり……塔矢先生はそれに引っ掛かったってわけか。

でもってオレも―――


「オマエにとって…オレって意中の人?」

「うん。どう?プロポーズしてくれる気になった?」

「悔しいけど…なった」

「よかった」


すっげーハメられた気分。

でも、塔矢にそういう相手がいないって分かって安心した。

というか、コイツはもうオレのもの。


早速キスをして、冷えた彼女の体も抱きしめた―――







―END―






以上、指輪話でした〜。
20数年前に行洋パパも引っかかったらしいです(笑)
アキラも娘が生まれたらあげるのかな?