●REVENGE おまけ5●





その日の放課後は、一週間ぶりだったということもあってお互い止まらなかった。

でも激しいエッチの後は疲れてどうしても眠気が襲ってくる。

二人で仲良くうっかり眠ってしまって――起きたら外が真っ暗で、私の顔は真っ青になった。



「きゃーっ!!寝ちゃった!!」

「8時?!進藤先生に殺される…!」


お互い慌てて服を来て一緒に部屋を飛び出した。

駅まで走って、ちょうど運よく到着した電車に飛び乗った。

ちなみにこういう日は京田さんは家まで私を送り届けてくれる。

私だけが叱られるのではなく、彼も一緒に怒られてくれるのだ。






「た、ただいまー…」


恐る恐る家に帰ると、ダイニングにお母さんがいた。


「お帰り。遅かったね」

「ご、ごめんなさい……京田さんちで一局打ってたらこんな時間に」

京田さんも「すみません…以後気を付けます」と一緒に謝ってくれる。

でも恐らくお母さんには嘘だとバレてると思う。

はぁ…と思いっきり溜め息を吐かれた。


「ほどほどにね」

と。


「う、うん……お父さんは?」

「京都。今日から碁聖の解説でね。留守だから良かったものの…」

「ご、ごめんなさい…」

「夕飯は?」

「あ……食べてないや」

「じゃあ準備するからちょっと待ってて。京田さんもよかったら」

「あ…すみません。ありがとうございます…」





二人して夕飯を食べていると、お兄ちゃんが二階から降りてきた。


「あれ?京田さん、いらっしゃい。こんな時間に彩と仲良く夕飯ですか?」


ゴボゴホと京田さんが噎せ出した。

そんな彼の前にお兄ちゃんが座った。

珍しく家の中でもメガネをかけてるお兄ちゃん。

伊達だと私から聞いたから、京田さんがちょっと興味深そうに見ていた。


「明日から碁聖戦始まりますね。京田さん昨日までイベントで窪田さんと一緒だったんですよね?窪田さんの様子どんな感じでした?」

「うーん…公開対局も圧勝してたし調子は悪くなさそうだったけど、でもやっぱりどことなく緊張してたかな。窪田さんの今の実力だともういつタイトル取ってもおかしくないと思うんだけど…」

「そうですよね」


窪田八段はこの4年間でかれこれ10回近くは挑戦者になっている。

でも今まで一度も奪取出来ていないのだ。

初挑戦で奪取したお兄ちゃんと比べられて、少し行き詰まってるという話もチラホラ聞く。

でも私から見て、窪田八段とお兄ちゃんの実力はほぼ互角だと思う。

じゃあ二人の違いは一体何なんだろう?

お兄ちゃんはどうして奪取出来たんだろう……


「僕も十段戦の時はだいぶ緊張しましたけど…」

「あ、進藤君でもそうなんだ?」

「食欲も出なくて5sは軽く痩せましたね」

「へぇ…」

「夜もあんまり眠れなかったし……正直ちょっと辛かったです」


私と京田さんは顔を見合わせた。

意外だったから。

お兄ちゃんが弱音を吐く姿なんて普段見ないからだ。


でも――精菜には見せてるんだろうな、と思う。

お兄ちゃんは精菜の前では昔から飾らないからだ。

もしかしたらお兄ちゃんが十段取れたのは精菜のお陰?

ということは、窪田八段に足りないのは……恋人?


「窪田八段て恋人いないのかなぁ?」


私がボソリと呟くと、二人が驚いたように私を見てきた。


「窪田さんに恋人がいない時なんてないだろ」

とお兄ちゃんが苦笑する。

「確か今はどっかの局の女子アナと付き合ってたと思うよ」

と京田さんが教えてくれる。


女子アナが恋人かぁ……さすが窪田八段だ。

確かにすごいけど、でも……その人は今の窪田八段を本当の意味で支えてあげてるんだろうか……

きっとあげれてないんだろうな。

でも、私は違う。


「京田さん。京田さんがもし挑戦者になったら、私がしっかり支えてあげるからね!」

「え…っ?」

「遠慮なく何でも言ってね!」

「わ、分かった…」

何かすごいプレッシャーなんだけど…と京田さんが苦笑いしていた。



「さてと」


お兄ちゃんが椅子から立ち上がる。

そしてどこからか出してきたマスクを装着した。


「ちょっとコンビニ行ってくる」

と玄関に向かった。


「「行ってらっしゃい…」」

と二人でハモりながら、お兄ちゃんも大変だなぁと思うのだった。

(だからメガネしてたのか…)



お父さんは京都。

お母さんはお風呂。

お兄ちゃんはコンビニ。


私はこの家の中で初めて、彼にこっそりキスをした――








―END―







以上、一週間ぶりの逢瀬の後、うっかり寝落ちしちゃった二人のお話でした〜。
ヒカルが留守でセーフ!

途中何故か窪田さんの話に。
窪田さんはご存知、結局この碁聖戦で初タイトルを手にすることになります。
ちなみに京田さんが初タイトルを手にするのはまだ結構先で、6年後です。
彩と結婚した後ですね。
またいつかその時の話も書きたいな〜なんて。

ちなみに佐為は伊達メガネはいくつか持ってるんですが、精菜との初デートで買ったメガネが今でも一番のお気に入りだそうですよ。
ちなみにヒカアキも佐為も彩も皆視力は2.0でめちゃめちゃいいのですよ☆