●REVENGE おまけ3●





今年も始まった本因坊戦・挑戦手合。

ホルダーであるヒカルと挑戦者である僕は、第一局の対局地である大阪に来ていた。

大盤解説を担当する社と前夜祭の後、3人で外に食事に出たわけなんだけど……



「はあああぁぁーー……」

「……進藤さっきからどしたん?」


大袈裟な溜め息を吐きまくるヒカルに、社が問いかける。

でも返答は

「別に……」

としか言わない。

社は仕方なく僕に聞いてきた。


「なぁ、進藤どしたん?調子悪いん?」

「気にしないで。彩に彼氏が出来て落ち込んでるだけだから」

「え?!彩ちゃん彼氏出来たん?!てか、もうそんな年?!」

「彩ももう16だからね」

「16かぁ〜。ほなしゃーないわなぁ。彩ちゃんめっちゃ可愛いし」


ヒカルが社をギロッと睨んだ。


「で?で?塔矢、彩ちゃんは誰と付き合い始めたん?学校のクラスメート?まさか棋士?」

「京田さんだよ」

「京田…って、京田七段?え?アイツって進藤の弟子ちゃうん?」

「そうだよ」

「え……お前、自分の弟子に娘取られてもたん?」

「……うるせぇよ」


ヒカルが低い声で唸った。



16歳の誕生日に告白して、付き合うことになった彩と京田さん。

でも小学生の頃から彩が京田さんを好きなことは知っていたし、二人が相思相愛であることに気づいたのももう何年も前の話だ。

ヒカルだって同じだと思うのに、何故今さらそんなに落ち込むことがあるんだろうか。



「まぁええやん。どうせいつかは誰かに取られてまうんやし。京田君なら進藤も納得やろ?」

「……」

「名人リーグで京田君と打ったけど、俺負けてもたもんなぁ。あ、そういや進藤も先月負けてなかった?」

「……」


ヒカルがますますズーンと落ち込んだ。



そう――あの天元本戦、準々決勝はまさに彩を賭けた一局だったのだ。

対局開始前、京田さんはヒカルに話を持ちかけてきたらしい。


『先生、もし今日俺が勝ったら、彩さんと交際することを認めてくれますか?』

『…いいよ。勝てたらな』

『ありがとうございます』


天元本戦は持ち時間3時間。

お互い持ち時間を全部使いきって、最後は一分碁を何十分も続けた程白熱した師弟対決となったそうだ。

結果は京田さんの半目勝ち。

負けて帰って来たヒカルの落ち込み具合は凄かった。

いや、彩の誕生日の方がもっと凄かったかな?



『――ちょっと待て。アキラ今、何て言った…?』

『だから彩のお誕生日会が出来なくて残念だねって』

『その前!』

『え?彩が留守だから?』

『それ!彩の奴どこ行ったんだよ?!』

『どこって……京田さんち』

『いやいやいや、おかしいだろソレ。アキラオマエ、外泊許したの?』

『許したよ』

『何で?!』

『誕生日だから』

『いやいやいや、誕生日だからって何もかもOKなわけじゃないだろ?!』

『今回は特別だよ。だって彩に初めて彼氏が出来たんだから』

『ひぃぃぃ…っっ!!オマエオレの前でんなことハッキリ言うなよ!!』



これが5月5日、彩の誕生日の夕飯時の会話だ。

その後もギャーギャー騒ぐヒカルを、前に座っていた佐為が冷めた目で見ていた。


ちなみに翌日はヒカルの研究会の日だったわけだけど、京田さんは可哀想なくらい気まずそうにしていた。

彩が空気を読まずに京田さんにベタベタ纏わりついていたから尚更だ。





「アキラが外泊許すから……」

ヒカルがブツブツしつこくぶり返す。

「許そうが許すまいが結果は同じだよ」

「そうかもしれないけど……オープン過ぎるんだって、彩も…佐為も」


ちょっとは父親の気持ちも考えてくれ……とヒカルが項垂れる。

その様子は二週間前の緒方さんとまるで同じだった。

二週間前、十段のタイトルを緒方さんから奪取した佐為が、その晩を精菜ちゃんと過ごしたことは僕も知っている。

大阪から帰って来た緒方さんのやけ酒に僕も付き合った時に聞いたからだ。

確かに父親の心情としては、もっと目のつかない所で隠れてしてほしいものなのかもしれないけど。

(タイトル取られたことより精菜ちゃんとのことの方を落ち込んでたもんなぁ…)





「この調子じゃ先が思いやられるなぁ塔矢…。彩ちゃん2年後にはもう結婚出来る歳やろ?」

「はぁ?!2年後に結婚とか絶対許さないからな!20年後で十分だっての!」

とヒカルが社に噛み付く。


確かに2年後はないだろうが、京田さんがヒカルに結婚の挨拶に来る日もそう遠くない話だと僕は思う。

(僕の予想では5年後くらいだろうか?)

ちゃんと許してあげれるのか、今のヒカルを見てると僕は不安でしかないのだった――



「言っておくけどな、社!お前だって他人事じゃないんだからな?!お前の大事な大事な春花ちゃんにもそのうち彼氏が出来るんだぞ?!」

「ひぃ〜〜堪忍してっ!絶対嫌や〜〜っ」






―END―






以上、おまけ2の一週間後。
ヒカアキ+社の夕食時の会話でした。
とりあえず彩を京田さんに取られて落ち込みまくってるヒカルです。
二週間前の緒方さんと同じだそうです。
確かにオープン過ぎるよね、佐為も彩も。親にバレバレですw

春花ちゃんは社の娘ちゃんの名前なのですよ。
今はまだパパ大好きな4歳です。

ちなみに進藤家の食卓。
実はこの3人で七大タイトルの5つを占めている、すごい食卓なのですよw