●REVENGE おまけ10●
「進藤さん」
一瞬、誰を呼んでるのか分からなかった。
あまりに聞き覚えのある声が、いつもとは違う名前で私のことを呼んだからだ。
「進藤さん」
もう一度呼ばれて振り返ると、京田さんがいた。
「受付の撤収手伝ってくれる?」
「あ……はーい」
一緒に受付に移動し、他の棋士やスタッフと共に机の撤収作業に取りかかった。
今日私は朝から棋院主催のクリスマスイベントの手伝いに来ていた。
公開対局や指導碁、サイン会や記念撮影、トークショーなど内容は盛り沢山。
大勢のお客さんで終日賑わって、イベント的には大成功で終わった。
大事なクリスマスが仕事になってしまった――いつもの私なら落ち込んでるところだけど、今回は違う。
なぜなら一緒に過ごしたかった人も、このイベントにいるからだ。
私のすぐ側で他の棋士と一緒に机を折り畳んでいる彼――京田さん。
私もテーブルクロスを畳みながらチラチラ彼の方を盗み見ていた。
「京田先生は打ち上げ行くんですか?」
一緒に折り畳んでいた棋士が京田さんに尋ねた。
「あ…いえ、この後用事があるので帰ります」
「そうなんだ。進藤先生は?」
私にも聞いてくる。
「あ…私も用事があるので」
「そっかぁ。打ち上げ参加人数少ないのかなぁ」
クリスマスだもんなぁ…と呟きながら、その棋士は次は会場の撤収を手伝いに向かってしまった。
私と京田さんも続いて一緒に向かいながら、コッソリとアイコンタクトを取った。
イベント解散後、私は一目散に待ち合わせ場所である駅のホームに向かった。
彼の姿を探してキョロキョロしていると、後ろから
「彩ちゃん」
と呼ばれる。
もちろん私は今度は直ぐに振り返った。
「京田さんvv」
「お疲れ様。結構楽しかったな」
「うん!京田さん、サンタ帽子すごく似合ってたよ」
「彩ちゃんも。すごく可愛かったよ」
「え?そう?じゃあ京田さんちでも被っちゃおうかな♪」
「はは」
京田さんはイベントとか周りの目がある時は私のことを「進藤さん」と呼ぶ。
他人行儀で少しだけ寂しいけど、そのあと二人きりになると途端に「彩ちゃん」と甘く囁いてくる彼。
この切り替えの素早さが最近たまらなかったりするのだ。
「じゃ、行こうか」
「うんvv」
やって来た電車に一緒に乗り込んだ。
向かう先はもちろん彼の部屋。
これから二人だけでクリスマス会をするのだ。
付き合い始めてから、初めて迎えるクリスマス。
しかもお母さんにお願いして、今夜はお泊まりもオッケーして貰った。
久々の外泊にテンションが上がる。
一晩中彼とイチャイチャ出来ますように!
メリークリスマス!
―END―
以上、付き合い始めてから始めてのクリスマスの彩と京田さんでした〜。
周りの目がある時は彩のことを「進藤さん」と呼ぶ京田さんです。
昔みたいに「進藤」と呼び捨てにしないのは、やはりヒカルに注意されたからでしょうかw
もちろん彩が不在で、今頃進藤家のクリスマス会では超絶不機嫌なヒカルが目に浮かびますねw
ヒ「アキラが外泊許すから…」
ア「クリスマスくらいいいじゃないか」
ヒ「よくない!くそ…っ、来年のクリスマスは研究会してやる!」
佐「やめてくれ」
来年(一人暮らし後)からはもちろん精菜とクリスマスを過ごしたい佐為が絶対に研究会は阻止するからよかったね、彩。