●TIME LIMIT〜子育て編〜




2010年1月15日―――今日は待ちに待った雑誌の発売日。



「千明〜本屋行こうな」

「ほんやすきー」

「だろ〜?ほら、お着替えお着替え♪」


塔矢と離れて早2年半―――千明も2才半になっていた。

特に大きな病気もせず、順調に成長してくれてる。

もちろん今の髪型はオカッパのショートボブ。

この小さな塔矢に、オレはメロメロのラブラブな日々をおくっていた。



「千明かわいい〜

「えへへー」


着替え終わって、いざ出発!

だけど玄関のドアを開けると一面の雪景色だった。


「げ……またか」

「ゆき〜♪」


雪で遊ぶ千明の横で、仕方なく除雪作業に入った。

この辺りは雪国というわけではないが、今年の冬はやけに降る。

積もるのはこれで何回目だろう。

東京生まれ東京育ちのオレにとって、雪掻きなんてのはもう未知の世界のことなので毎回死ぬ思いだった。



「はーーー終わった」

「しゅっぱつしゅっぱつ〜♪」

「おう!出発〜♪」


千明を助手席のチャイルドシートに乗せて、いざ本屋に向かった。

公道まで来ると除雪車が入ってくれてるので運転は楽だ。

無事に本屋に到着し、早速お目当ての雑誌を手に取った。


…へへ。


表紙を見るだけで顔が思わずニヤけてしまった。

雑誌用にモデル並に綺麗にメイクされたオレの最愛の女性―――塔矢アキラ。

今日は彼女の特集号の発売日だった。



「パパ〜これぇ…」

「ん?」


つんつんと、オレのコートの先を引っ張ってきた千明。

恥ずかしそうに一冊の本を出してきた。


「これがほしいのぉ」

「どれどれ…んーと、シンデレラぁ?まだ早いんじゃねぇ?」

「だいじょぶ」

「そうか?じゃあいいけど」

「パパだいすき♪」


ずっきゅーん


塔矢と瓜二つの顔でそんな…大好きだなんて。

はわわわわ

やっべー、幸せ過ぎて目眩で倒れそうだ。








「し・ん・で・れ・ら・は・ま・ま・は・は・た・ち・に」


家に帰ると千明は即効シンデレラを自分で読み出した。

そう―――自分で、だ。

確かに千明が教えて教えてと言うので、ひらがなの読み方程度は教えてやったけど…。

だけど2歳半って普通理解出来る歳か?

実は天才だったりして?

それか二歳で碁を始めた塔矢の血か?


「パパ、パパ」

「ん?」

「ままははって…なぁに?」

「ままはは?ああ…継母ね。んーと、新しいママのことだよ」

「あたらしい…ママ?」

「うん」

「こわいの…?」

「はは、シンデレラの継母は確かに意地悪だよな〜」

「ちあきにも…ままはは…くるの?」

「え…?」


えーとえーとえーと…

これってまさか千明がお母さんが欲しいってことなのか?

やっぱオレ一人じゃ不満なのか?

ガーン…


「ママ…欲しいのか?千明がどうしてもって言うなら…オレ――」

「いやん!」


オレの胸にぎゅっと抱き着いてきた。

必死にしがみついて……少し震えてる。


「こわいママいらないもん!パパはちあきのだもん」

「千明…」


本気で嬉しかった。

オレ…千明に必要とされてる。

塔矢にそっくりな千明に――



そのままお昼寝タイムに入った娘の横で、オレもさっき買った雑誌を読み始めた。

塔矢の写真。

入段してから今までの彼女の大集成。

何枚かオレと写ってる写真もあった。

これ…北斗杯だ。

懐かしいな…。


会いたい…な。


オレの記憶の中にあるアイツの顔とか声とか…肌の温かさとか。

思い出す度に胸が熱くなる。

やっぱまだ好きなんだなぁ……



インタビューなんか読んだら涙が出てきた。


―――ありがとうございました。最後に一言お願いします。

『碁を打ってる方は全員ライバルだと思っています。でも、その中でも一番のライバルは今でも進藤ヒカルです』

―――進藤元棋聖本因坊ですね。早く復帰してくれるといいですね。

『はい、彼とまた打てる日が待ち遠しいです』


…オレもだよ。

会いたいし打ちたいし…抱きたい。



「パパ…?どこかいたいの…?」

「あ…起こしちゃった?ごめんな…」


そっと手を頭に伸ばしてきて――千明がオレの頭を撫でてくれた。


「……ありがとう」



千明はオレと塔矢の唯一の繋がり。

まるで塔矢に撫でられてるような気がした――










―END―











以上、千明にメロメロなヒカル話でした〜。
1月15日は「いい碁の日」。
それに合わせて発売されたアキラの特集号を買いにいくヒカルでした(笑)
2010年のこの日は、TIME LIMITシリーズではまだヒカルは遠くで千明を子育て中なんですよね〜。
アキラと瓜二つな千明に日々メロメロ〜。
そしてこの日は初めて千明がヒカルの頭を撫でてあげた日でもあったり。

…にしても千明って聡明だわ…