●PROPOSE●




「塔矢!結婚を賭けてオレと一局打って!」



いつものように進藤のマンションに打ちに行くと、突然彼にプロポーズされてしまった―。

だけど……期待していた言葉とは少し違う。

別に一局打たなくても普通に『結婚して』と言ってくれれば僕はOKするのに……。


眉を傾けながらしぶしぶ碁盤の前に座ると、タイトル戦並みの気迫をした彼が僕と対峙した。

ほ…本気だ。

本気で進藤は僕との結婚を対局で勝ち取る気なんだ。


「お願いします!」

「お、お願いします…」


…で、長い持ち時間3時間の対局が始まったわけだけど………こ、こんなに負けたいと思ったのは初めてだ。

でもわざと負けるのは真剣な彼に失礼だし…。

しかも僕自身も一度対局が始まってしまえば手を抜くことの出来ない性格だ…。

ただでさえ進藤との対局は僕にとって特別なもので、どの対局も棋譜が残っても大丈夫なくらい常に力を入れている。

しかもこの対局は結婚を賭けた大切な一局。

一生僕らの脳裏に残るに違いない。

手を抜くなんてことは考えられない!


だけど…

だけど…

僕は進藤と結婚したいんだ!!


チラッと横を見ると、向こうの机の上にアレらしい小箱が置いてあった。

ほ…欲しい。

ものすごく欲しい。

だけどこの対局に負けないと貰えない…。

負けたい。

だけど手を抜くことは出来ない。

これはもう彼がいつも以上の力を発揮して、勝ち取ってくれることを祈るしかないな。





……ところが……






し、進藤、そこは右からツケる所だろ!なぜ左?!


今は先にコスむべきだろ?!中央を守らないのか?!


もう!そんなヌルい手が僕に通用するとでも思ってるのか!!


キミらしくないぞ!!



――そう

いつも以上の力を発揮どころか、今日の進藤は力の半分も出しきれてなかったんだ。

やる気が空回りして、読み違い・ケアミスばかりでただテンパってるだけ。

とてもじゃないけど先月天元位を取った者の碁とは思えない…。

しっかりしてくれ!!



「…ありません」

「…ありがとうございました」

終局した途端にお互いの口から溜め息が出た。

勝ったのはもちろん…僕だ。


「と、塔矢、来週もう一度打ってくれる…?」

「いいよ…今度こそ期待してるからな…」

何だか拍子抜けした声でフラフラと彼の部屋を後にした。


くそっ!

結局貰えなかった!

進藤のバカっ!

あー、もう!一週間後と言わず明日にでも再戦したい気分だ!





そして待ちに待った一週間後――


またしても僕は勝ってしまった…。


ちなみにその次の週もその次の週も僕の勝ち勝ち勝ち勝ち…………









「進藤!いいかげんにしてくれ!この調子じゃ僕はおばあちゃんになってしまう!」

「ま…まだ10敗しただけじゃん。そんな大袈裟な…」

「だいたいキミは力み過ぎなんだ!ここって時に決めれない男は最低だぞ!!」

「んなこと言ったって……勝たないと結婚出来ないと思うと余計にプレッシャーがかかるんだよ…」

「だいたいそれが気に入らないんだ!何でこんな対局を持ち掛けてきたんだ?!普通にプロポーズしてくれればよかったのに!」

「ごめん…。こっちの方が碁打ちらしいかなって思って…」

しゅん…と落ち込む進藤を僕は睨み付けた―。


「もういい…。キミが勝つのをこれ以上待ってられない」

「塔矢…?」

「僕がキミに結婚対局を申し込む!もう一局打って僕が勝ったら結婚してくれ!」

「わ…分かった」


はぁ…。

全くもう…何でこんなことに…。

進藤なんか当てにせず最初からこうすればよかった…。

そしたら今頃はもう夫婦だったかもしれないのに――







……ところが……








「…ありません」

「……ありがとうございました…」


何と……進藤が勝ってしまった。


「な?な?すげープレッシャーになるだろ?!」

「いや、僕はいつも通りだったよ…。キミがこんな時に限って力を出し切ったから…」

「なんだよ!オレのせいだっていうのかよ?!」

「そうだ!キミのせいだ!せっかく女の夢も理想も捨てて僕の方からプロポーズしたのに!これじゃあ台無しじゃないか!進藤のバカっ!」


もう知らない!

きっと僕らは本当は縁がなかったんだ!

一生結婚なんて出来ないんだ!!


「塔矢っ!!待って!!」

逃走しようとした体を進藤に掴まれて、止められてしまった―。


「離せっ!僕はどうせキミとは結婚出来ない運命だったんだ!」

「んなことないって!オレは結婚するならオマエしか考えれない!」

「僕だってそうだ!だけど…このままじゃ…とてもじゃないけど…―」

だんだん涙が溢れて、零れた僕の頬に進藤が優しくキスをしてきた―。


「ごめんな…オレが結婚を賭けた対局なんかを持ち掛けちまったから…」

「僕は…もっと、…普通に…言って…欲しかった…」

「どういう風に?」

「そんなの…自分で…考えてくれ…」

涙声で途切れとぎれに伝えると、進藤がジッと僕の目を見つめてきた―。

そして今までに何度も夢見た言葉を口にしてくれたんだ――






「塔矢、結婚しよう」














―END―














以上、プロポーズ話でした〜。
いつも以上にヒカルがヘタレですみません…。
でもヒカアキはアキラの方からプロポーズするのも有りだと思う。
思うけど!しょせんアキラも女の子ってことで〜。
色々理想があるのですよ(笑)えぇ、色々。
アキラを満足させるにはかーなーりー頑張らねばならないと思いますよ?ヒカル君。ヘタってる場合じゃありませんよ(笑)