●W VIRGIN●


〜ヒカル視点〜



(……ない)

(今日は靴が全部無くなってる)

(…くそっ!どういうつもりなんだよアイツ…!!)



オレが塔矢と付き合い始めてもう4年。

4年目にして、オレは最大のピンチを迎えていた。


もしかしてオレに飽きてきた?

嫌われるようなこと…したかなぁ?

浮気されてるのかも?

何にせよ…やばい。

フラれる…!!



なぜオレがそう思うのか。

その根拠は最近の塔矢の行動にある。

ああ、そうだ。

ここ最近なんだ。

この春頃までは確かに彼女は普通だった。

もうほぼ半同棲状態のオレらは、いつも通り仕事のあとは一緒に帰ってきて、碁を打ったり、一緒にご飯作って食べたり、夜はいちゃいちゃしたりしていた。

朝も一緒に起きて、一緒に出勤。

そんなサイクルだったから、当然のようにオレの部屋には彼女の物が溢れていた。


それが夏になった頃から、急に彼女の態度が変わってしまったんだ。

まず、一緒に帰ってくれなくなった。

「用事があるんだ」とか、「今日は実家に帰る」とか言って断られる。

例え一緒に帰ってきても、碁はかろうじて打ってくれるけど……ご飯は一緒に食べてくれない。

風呂も当然NG。

エッチなんて…気付いたらもう三ヶ月近くご無沙汰な気がする。

(春までは最低でも3日に1回はしてたのに…!!)


そして今、あんなに溢れていた彼女の物が一つ一つ姿を消している。

この前は服。

今日は靴。

今度は何を持って帰るつもりなんだろう。

何で…持って帰ってるんだろう。

そのうちもう…ここには来てくれなくなるんだろうか。


オレら…もうダメなのかな……

オレ…フラれるのかな……






「もうすぐキミの誕生日だね」

「え?ああ…そうだな。もうそんな時期か…」


忘れてた。

つか、ぶっちゃけ今は誕生日どころじゃない。


「誕生日…どこかで外食しようか」

「外食?」

「…大事な話があるんだ」

「…!!」


来た。

ついに来た。

きっと別れ話だ。

オレに飽きたとか、他に好きな人が出来たとか、もう別れようって言われるんだ。


「い…嫌だ」

「え?」

「聞きたくない。オレは絶対…嫌だからな!」

「進藤?」

「外食なんてしなくても、家でいいじゃん。オレ、ご馳走作るよ」

「キミの誕生日なのに自分で作るのか?」

塔矢がクスッと笑ってきた。

「うん。ワインも買ってくるからさ、一緒に飲もうぜ」

「……」

「オ、オマエがどういうつもりなのかは知らねーけど……せめて誕生日までは……、誕生日くらいは……前のオマエに戻ってくれよ…」

「……」

「オレ、ここんとこ全然オマエに触ってない…。誕生日ぐらい…いいだろ?そのあとは…オマエの好きにしていいから…さ…」


オレ…なに誕生日に縋ってるんだろう。

好きにしていいって…なに諦めちゃってるんだろう。

嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ、絶対に嫌だ!

塔矢と別れたくない。

絶対に別れないからなー!!





********************


〜アキラ視点〜




今日は進藤の誕生日。

とびきりのプレゼントをキミにあげるからね―――



「お誕生日おめでとう、進藤」

「ん…サンキュー」


サンキューと言いながらも、丸っきり嬉しそうじゃない彼。

このところずっと元気がない。

何か悩みでもあるのだろうか?


「そういえばね、今度両親が北京から帰国するんだ」

「ふーん…」

「会うの、半年ぶりだからすごく嬉しい」

「よかったな…」

「しばらく日本にいるんだって」

「へー…」


だから今、少しずつ僕の私物を家に持って帰っている。

流石に両親がいる間は、僕も実家にいなくちゃならないし。

でも、本当は帰りたくない。

ここにずっといたい。

ずっとキミの側にいたい。

ううん、もうすぐいられるようになるはず。

今日、キミにあげるプレゼントを開けた瞬間、絶対にキミは僕にそれを求めてくるはず―――



「…今日、大事な話があるって言っただろう?」


進藤の肩がビクッと揺れた。

聞きたくないかのように、耳を塞いでくる。


「進藤…?」

「やだ、言うな。まだ今日は5時間もある。せめて今日ぐらいは恋人同士のままでいさせてくれよ」

「は…ぁ?」

「ほら、ワイン飲もうぜ。奮発して高いの買ってきたんだぜ!」


僕のグラスに注いでくれる。

でも、僕がそれを口にすることはなかった。

だって…アルコールは厳禁だろう?


「飲まないのか…?オマエ前はあんなにワイン好きだったじゃん。あ、今日は酎ハイの気分か?それともビール?日本酒?」

「アルコールはいらない。それよりキミにプレゼントがあるんだ」


僕は鞄からウキウキとそれを取り出した。

可愛くラッピングした、その小さなB6サイズのプレゼント。


「開けてみて?」

「今…?」

「うん」

「……」


あんまり乗り気じゃない彼が、しぶしぶリボンに手をかけた。

包装紙を丁寧に開いていく――


「これ……」


中身を見た途端――彼は一気に目が覚めたように大きく目を見開いてきた――


「ふふ。キミの誕生日プレゼントにしようって、分かった時から決めてたんだ。驚いた?」

「まままマジ…で?」

「うん、マジ。それ本物だよ」

「だから…さっきアルコールいらないって言ったんだ?だから…最近エッチさせてくれなかったんだな」

「うん」

「じゃあ、オマエの私物が消えてたのは…」

「だからさっき言っただろう?両親が帰ってくるって。その間は僕も帰らないといけないからね」

「オレ…大事な話って、てっきり別れ話かと思ってた」

「僕がキミと別れるわけないだろう?キミのこと…誰よりも愛してるし、これからこの子の父親になってもらわなくちゃならないのに」

「塔矢ぁ〜〜っ!!!」


ガバッとキツく抱きしめられた。

その衝動で、さっきあげたばかりの大事なプレゼントが机から落ちた。

僕らの愛の結晶がいる証。

母子手帳が―――



「結婚しよう!塔矢!今すぐ!」

「うん―――」






数日後、帰国した両親に進藤はすぐさま挨拶に来てくれた。

そのまた数日後には正式に入籍。

僕の誕生日が来る頃には、堂々と彼のマンションに帰る僕がいた―――







―END―







実はこの話、2010年のヒカルバースデー話のボツになったものです。
途中まで書いて投げ出してたのを、今回最後まで書いてみました。
ヒカル君…かなり勘違い。
でもアキラもアキラでもっと早く言ってあげれればいいのに、ね。
まぁ…変にサプライズしようとして、変に拗れるのがヒカアキなんですけどね(笑)