●LOVE POTION●
「は?惚れ薬?」
「うん。伊角さん、今中国行ってるじゃん?面白いだろって送ってくれたんだ」
手合いの休憩時間に和谷が見せてくれたのは、妖しい緑色の液体が入った小さな小瓶。
2個あるからってオレに1個くれた。
「説明書が中国語で全然読めないのが問題なんだけどな」
「ふーん」
説明書のコピーまでご丁寧にくれる。
「俺、今日合コンあるからさ、可愛い子いたらちょっと試してみる」
「はは…マジで?」
「オマエも試してみろよ。今日もこの後打つんだろ?アイツと」
「………」
オレはチラッと、視線を休憩室の端に移した。
芦原さん達と何やら楽しそうに話してるアイツ―――塔矢アキラ。
もう何年越しになるのか分からない、オレの恋の相手だ。
オレがもしこの薬を使うとしたら、間違いなく彼女しかいないだろう。
……でもなー。
薬の力で好きになってもらっても、ちょっと気持ち的に微妙っていうか何と言うか……
「なに?僕の顔に何か付いてる?」
「あ、いや…その、何か感じない?」
「は?」
―――とか思いながらも、囲碁サロンでの検討中、塔矢がトイレに席を立った隙に、彼女のカップに例の液体をしっかり入れてるオレがいた。
何も知らずそのコーヒーを口にする彼女を、オレはドキドキしながら反応を待つ。
「さ、検討の続きしようか」
「あ………うん」
でも、塔矢の様子はこれっぽっちも変化がなかった。
相変わらずオレには厳しい視線で文句ばっか、痛いところを指摘されてタジタジだ。
ちぇっ…、何だよ。
やっぱパチモンかよ。
翌日―――森下先生の研究会で会った和谷に突っ返そうと思ったら……
「進藤!!すごいなこれ!!俺マジびっくりしたんだけど!!」
「……はぁ?」
和谷は何故か大興奮気味だった。
話を聞いてみると、和谷も昨日例の合コンで隣の席になった女の子に実際に使ってみたらしい。
しかも一口それを飲んだ途端、大好き!!といきなり抱き着いてきたらしいのだ。
で、そのままお持ち帰りしちゃった……と。
ず、ずるい。
「でも朝になったら薬の効果は消えちゃっててさ、アンタ誰?ってビンタくらった」
まだ痛いぜ…と頬をさすってる。
どうやら薬の効き目は一晩たつと無くなるらしい。
「進藤の方は?どうだったんだよ?」
「えー…全然効き目なし。オレの方パチモンだったんじゃねぇ?」
「え、じゃあ俺のと交換するか?それとも量が少なかったのかもよ?お前昨日どのくらい入れたんだよ?」
「一液だけど…」
「少ないって。半分くらい入れてみろよ。コーヒーなら黒いからバレないし」
「う、うん…」
そのまた翌日―――囲碁サロンに行くと塔矢がいたので、再チャレンジしてみることにした。
市河さんが持ってきてくれたコーヒーの中に、トボトボトボ〜っと、もう一瓶全部入れてみる。
他のお客さんの指導碁を終えて帰ってきた塔矢が、早速それを口にすると……
「僕が黒でいい?」
「え?あ…ああ…」
「じゃあ、お願いします」
「お願いします……」
普通に彼女は打ち始めてしまった。
なんで〜〜???
「な、なぁ…塔矢」
「なに?」
「オマエ中国語読めたよな?」
「北京語ならね」
「これ、読める?」
塔矢に例の説明書のコピーを見せた。
「伊角さんが送ってくれた『オモチャ』の説明書なんだけど…」
「はは、惚れ薬?こんなのあるんだ。さすが中国」
塔矢が笑いながら上から訳してくれる。
一液で効き目は一時間。
飲んだ後、初めて見た人を男女関係なく好きになる。
薬の効き目が切れると、その間の記憶も消える。
「面白いね。キミも僕に試してみる?」
「は…はぁ?」
冗談でそう言う塔矢に、内心ギクリ。
もう試しましたなんて絶対言えねぇ……
「…あ、駄目だ。僕には効かないね。注意書きにそう書いてある」
「は??何で??何て書いてあるんだよ!」
「……内緒」
「教えろよ!」
「自分で訳せば?」
「くそっ…」
後で中国の楊海さんにお願いして訳してもらったその注意書き。
『但し、もともと自分に好意を持っている人に投与しても効果はありません』
オレがすぐに塔矢に告りに行ったのは言うまでもなかった――
―END―
以上、一度は書いておきたい惚れ薬ネタでした〜!
ヒカルのことが元から大好きなアキラさんに飲ませても、効果はないよねってことで(笑)
でも、薬がきいてヒカルに好き好き言うアキラさんもちょっと見てみたかったような…(笑)
でもって、ヒカルもそのままアキラさんと一晩を過ごしちゃうのですよ〜。
で、朝起きたら記憶がなくなってるアキラにビンタされると(笑)
ちなみに惚れ薬もいいけど、素直になっちゃう薬もいいよね!
ヒカルのことが好きだけどツンツンしちゃうアキラさんが、それを飲んだ途端素直に気持ちをヒカルに伝えれるのv
もちろん薬なんて使わないのが一番なんですけどね☆