●PARTNER 2●






「………はぁ」


家に戻ったオレは、倒れるようにベッドにダイブした。

寝て頭を冷やそうと思ったけど、何だかどんどん不安になってきて……寝れない。

このまま塔矢が頭から離れなかったらどうしよう…。

このまま好きになっちまったらどうしよう…。

もうライバルでいられなくなるかもしれない…。


そんなの嫌だ!!

塔矢とは一生ライバルとして打ち続けたいんだ!!





ピンポーン


玄関のベルがなった。

こんな時間に誰だろう…と覗き穴を覗くと―――塔矢??!



カチャ…


「あ、進藤…。キミ、扇子忘れて帰っただろう?」

「え?ああ…ごめん」


そういえばさっき、顔の温度を下げる為にパタパタ扇いだんだった。


「別に次会った時でよかったのに…」

「でも、明日から大事な遠征だろう?キミ…いつも握りしめて打ってるから、無かったら困るかなぁって思って…」

「そっか。サンキューな…」

「…別に。万全の体勢で臨んでほしいだけだよ。じゃあ頑張ってね」

「え?あ、待てよ!」


目的を果たしたらすぐに帰ろうとした彼女の腕を掴んだ。


―――て、何引き止めてんだよオレ??!


「何?」

「いや、あの…、えっと……せっかく来たんだからさ、ちょっと上がっていけよ」

「え?」

「コ、コーヒー煎れてやるよ。最近いいコーヒーメーカー買ったんだ。飲んでいかねぇ?」

「…じゃあ一杯だけ…」


あああ…何言ってんだよ、オレ??!

塔矢が警戒気味に入ってきた。

そりゃ警戒するだろう。

もう夜だし。

一人暮らしの男の部屋に入るってことがどういう意味なのか………いやいやいや、オレは全くそんなつもりはないけどな!

純粋にわざわざ届けてくれた塔矢にお礼がしたいだけだ!



「お待たせ。どう?いい香りだろ?」

「うん…本当だ。ありがとう、いただきます」


塔矢にマグカップを渡した後、オレは彼女のすぐ横に腰掛けた。

べ、別に変な意味はないからな!

オレの部屋にはソファーが一つしかないから、この位置は仕方のないことなんだ。

あ、今、オレらの腕が少しぶつかった……



「あー…さっきはごめんな、対局途中で投げ出してさ」

「…別に。あのまま打ち続けても意味のない碁だったから構わないよ」

「う…ごめん。オレぼろぼろだったもんな…」

「何かあったの?」

「何かって………別に…」


オマエのことが気になって集中出来ませんでした……なんて絶対に言えない。

普通に

「腹の調子が悪くて…」

と答えてみた。


「大丈夫?」

「なんとかな。明日の対局には響かねーよ」

「そう…よかった」


ほっとしたのか塔矢が少し笑ってきた。




う……マジ可愛い……




今までこんなこと思ったこともなかったのに。

どうなっちまったんだろオレ…。


―――でも、やっと周りの男どもの気持ちが分かった気がした。


『塔矢アキラって美人だよなー』

うん、確かに美人だ。


『一度は付き合ってみたいよなー』

付き合いたい??

塔矢と??

いや、それはありえないだろ!

塔矢とデートしたりキスしたり、それ以上のことをするなんて考えられねーよ。

絶対に考えられ……



「………」



彼女のコーヒーを飲む仕草を勝手に目が追った。

カップが口から離れると、潤った柔らかそうな唇が現れる。

じっと見つめてしまった。

見つめられてることに気付いた塔矢が頬を少し赤めてきた。


「…なに?僕の顔に何か付いてる?」

「いや…別に…」


塔矢が少し右に寄って、オレから離れた。

でもその分オレも移動して、彼女をソファーの端に追い詰める。


「進藤…?」

「…なぁ、キスしてもいい…?」

「は…?キミ…なに言って…」


本当…なに言ってるんだろう…オレ。

でも塔矢がイエスノーを言う前に、オレは勝手に唇を合わせにかかった。




「――…ん…っ」




見た目通りの柔らかくて温かい唇。

何度も何度も啄んで、感触を確かめた。

当然と言えば当然なのかもしれないけど、オレと塔矢の初チューはコーヒーの味がした。



「―…は…ぁ…はぁ…」

「塔矢……」


彼女を優しく、でもしっかりと抱きしめた。


「…酷い…よ、ファーストキスだったのに…」

「え…?オマエって男と付き合ったことなかったのか…?」

「こんな一年中囲碁のことしか考えてない女を…誰が好きになってくれるって言うんだ…」


塔矢の瞳から涙がこぼれた。

その綺麗な水滴を舌で掬ってやる。


「ちょ…っ、や…」

「…オレは好きだよ。碁のことばかり考えてる塔矢が好きだ…」

「え……」


目を見開いてきた。

信じられないっていう顔。

ああ、オレだって自分の口からこんな告白まがいの言葉が出るなんて信じられない。

しかも、この塔矢アキラ相手に――



――でも、言葉にすると何かスッキリして……今までの葛藤が吹っ飛ぶ気がしたんだ。



「進…藤…本気で言ってる…のか?」

「本気だったら困る?」

「…ううん。僕はキミといる時が一番自然に振る舞えるから…、キミが好きだと言ってくれるのなら僕は…」

「体許してもいいって?」

「そ、そこまでは言ってない!何を考えてるんだキミは…!」

「えー?だってもう11時だし。終電間に合わないぜ?泊まっていくだろ?」

「……!!」



ライバルを好きになってもいいじゃん。

打てなくなるどころか、今までよりきっと打つ回数が増える。

塔矢と打つことは誰よりも勉強になるし、強くなれる。


彼女は最高のパートナー。









―END―










以上、葛藤するヒカル君でした〜。
最後は吹っ切ったみたいですが?

アキラさんはモテるけど、実際に告白を受けたことはないんじゃないかな〜?と思います。
皆遠目に見てるだけ。
塔矢アキラに告白する勇気なんてナイナイ。
だからアキラさん自身は自分がモテてることを知らないのです。

もちろん告白されてもOKしないと思うけど。
ヒカルだけが特別なのですvv