●NEVER 2●







ずっと塔矢が好きだった。

でも下手に告白して距離が出来るぐらいなら、今のままでいいとずっと思っていた。


――でも、塔矢に彼氏が出来たら?


他の男のものになってしまったら?

オレはそれに耐えられるだろうか……


――無理だ


どう考えても無理だ。

じゃあやっぱり塔矢を手に入れるしかない。

どうやったら失敗しないで100%手に入る?

囲碁しか使い物にならない頭で、三日三晩必死に考えた。

そして気付いた。

そうだ、囲碁だ!

オレは碁しか能がない。

そしてオレと打つことを、塔矢が誰より切望していることをオレは知っていた。


『もう打たない』作戦でいくしかない!!











「塔矢、お待たせ。待った?」

「…ううん」


今日はホワイトデー。

告ったのがバレンタインだっから、もう一ヶ月も経ったんだな。

この一ヶ月間、オレは『もう打たない』作戦を連発していた。

付き合ってくれなかったらもう打たないからな!…のみならず、手を繋ぐのも、抱きしめるのも。

キスも、エッチも、ちょっとしたことも全部。

彼女に有無を言わさなかった。

生理だっていうアイツを無理矢理抱いた時はちょっとやり過ぎたかな…とは思ったけど。

でも、この作戦は大成功だ。


そして、今日は更に次のステップに進むつもりだ。

プロポーズする。

塔矢に結婚を申し込む。

断ったら……分かってるよな?







「塔矢、結婚しよう」

「………」


一日デートを楽しんで、オレの部屋に二人で帰ってきたすぐ後に、ついにオレは切り出した。

困ったような顔を向けてくる。


「…それで?断ったらまたもう打たないって言うのか?」

「ああ。打たない。もう二度と」

「………」


それじゃあ困るよな?

だから受け入れてくれるよな?

ドキドキしながら、でも自信を持って返事を待っていると――


「…そう。じゃあこれからはお互い別々に神の一手を目差すしかないね」

「―――は?」


思わぬ返答が返ってきた気がした。

聞き間違いか?


「オマエ今なんて…」

「断るって言ったんだ。誰がキミなんかと結婚するか。結婚するくらいなら、打たない方が100倍マシだ!」

「ほ…本気で言ってんのか?マジで打たないぜ?公式戦でも…」

「勝手にすればいいだろう!こっちとしては不戦勝なんて有り難い話だからね。タイトルが取りやすくなって万々歳だ」

「え……」

「ライバルは新しく他で探すことにするよ。結婚相手もね!」


じゃあね、さよなら―――そう言い捨てて帰ろうとした塔矢の腕を、慌てて掴んだ。


「…ま、マジで言ってんのか?」

「…ああ。キミに脅されるのはもう真っ平だ。僕が大人しくしていればどんどん付け上がりやがって。終いには結婚しろだと?キミは本当に最低な男だね」

「……!」


塔矢の目は本気だった。

本気でオレを軽蔑していた。

その目を見て――オレは初めてこの作戦が失敗だったことに気付いた。

そして掴んだ彼女の腕が…体が、奮えていることに気付いた。

怒りで奮え、悲しみで奮えていた……


「――ごめん。ごめん塔矢…。オレが悪かった…」


やばい。

謝らないと。

とにかく謝らないと。

本当に彼女を失ってしまう。

本当に打てなくなる。


「ああキミが全部悪い。キミは最低で最悪の男だ。僕の気持ちを完全に無視して…。僕の気持ちも知らないで…。ただ現実を知るのが怖くて逃げてたんだろう…?」

「…そうだよ」


フラれるのが怖かった。

拒否られるのが怖かった。

だから塔矢の弱みに付け込んで…逃げてたんだ。

本当は打てなくなって一番困るのは自分自身のくせに―――


「…ごめん。本当に…ごめん」

「…知ってた?僕もキミのことがずっと好きだったんだよ…?普通に告白してくれたらよかったのに…。普通にキミと…恋人同士になりたかったのに…」

「塔矢……」


涙を零した彼女の体を――オレは抱きしめた。

今なんて言った?

好きだった?

本当に?

夢じゃない?


「オレも…。オレも普通にオマエと恋人同士になりたかった…」

「進藤…」

「本当にごめんな?もう一回、最初からやり直してもいいか?」

「最初から…?」

「うん。告白から」

「―――嫌だ」


最初からなんてチンタラやってられない。

どうせ結果は同じだ。

脅されようがそうで無かろうが、僕の返事は同じ。

それより、キミはさっき僕にプロポーズしてくれたよね?

断ってしまったから。


「だから…もう一回してくれる?」

「も、もちろん!」



――結婚しよう――



「うん…うん!大好き、進藤。大好き!」

「オレも。大好きだ、塔矢――」




その晩。

オレらは初めて身も心も一つになって、愛しあえた気がした。









―END―









以上、もう打たない作戦話でした〜(笑)
あー不器用なヒカル君。
結婚するくらいなら打たない方が100倍マシ!とか言ってましたが、もちろん本気ではありません。
アキラさんはヒカルに打ってもらう為なら本当に何でもすると思います。
例えヒカルのことが好きじゃないアキラでも。
付き合ってと言われれば付き合うし、結婚してと言われれば結婚するし、子供がほしいと言われれば産んであげると思う。
ヒカアキストとしては萌えるけど、それってどうなの…?(^ ^;)