●MUKO 4●





「オレ、婿養子に入るつもりだから。反対するならオレもう一生独身でいるからな」



オレが脅迫めいた台詞を親に言い放ったのは、塔矢と何度目かの朝を迎えた後だった。

「好きにしなさい。お前の人生だ」

特に反対もされず、逆に「そんな相手がいるのか?」と興味津々に聞き返されたことはいい思い出だ。





あれから一年。

オレは今日、念願の塔矢を手に入れた。

プロポーズを了承してくれた彼女の体を手を取って起こす。



「時間だ。行こう塔矢」

「ああ」

「お腹痛くない?」

「うん…もう大丈夫」


昼休み終了時間が近づき、オレらはまた対局場へと戻ることにした。

対戦者に戻る前にもうひと約束してから。


「明日オマエんち行ってもいい?先生に挨拶したいんだけど」

「もちろん。キミの実家にも行こう。…反対されないかな?」

「大丈夫だよ」


オレの婿養子を親が許してくれるのか不安らしい。

大丈夫。

オレもう一年前から親にちゃんと話してるから。

塔矢との結婚を意識した日から、オレはずっとこうなるって予測していた。

職業柄先読みは大得意だ。



「順番が逆になったことは何て言われるかな…」

「あー…まぁ10年前なら怒られたかもな。でもオレらもう33だし。てことは親もまぁまぁな年だし。純粋に孫が出来たこと喜んでくれるんじゃねぇの?初孫だし」

「うん…そうだね。そうだといいな…」


塔矢がお腹に手を当て、優しく撫でた。

オレも撫でてみる。


「オレはすっげぇ嬉しいよ」

「僕も…。早く会いたいね」

「楽しみだな」


予定日は11月らしい。

オレなんて34になってるなぁ…なんて。









結局この棋聖リーグはオレの半目勝ちで終局した。

今期の棋聖リーグはまだ始まったばかりの初戦だったから、オレも塔矢もあと4戦もある。

きっと塔矢は全部は出れないだろう。

運よく出れて仮に挑戦者決定トーナメントまで進めたとしても、そのトーナメントを棄権しなくてはならないかもしれない。

棋聖戦だけじゃない。

コイツの持ってる名人戦の七番勝負なんてそもそも秋に始まるし。

他の棋戦も女流タイトル戦も全て同時進行だ。




「オマエ産休とかどうすんだよ?」

「さぁ…まだ分からないな。さすがに予定日ギリギリまで働くわけにはいかないとは思うけど。そもそも早産とかで入院する可能性もあるし…」

「だよなぁ…」

「でもどちらか選べと言われたら僕は間違いなくこの子を取るつもりだ。タイトル全て返上になったとしても後悔はしない。また一から頑張るよ」

「強いなぁ…」


改めてそんな勇ましい塔矢が好きになった。

まだ棋院の中だってのに、ぎゅっと目一杯抱き締める。


「オレも頑張る」

「当たり前だ。僕が戻った時タイトルホルダーとして待ち構えていてくれ」

「おう」

「あ、でもこの機会に一気に産んでしまうのもいいな」

「ん?」

「子供に僕と同じことで悩んでほしくない。一人っ子は駄目だ。3人くらいパパッと産んでしまおう」

「オマエさぁ…今日の昼まで結婚すら渋ってたくせに…」

「ダメ?」

「いや…ダメじゃないけど…」


あと二人も産んでもいいと可愛く言ってくれる塔矢に目眩がした。


あ〜〜も〜〜大好きだ!!














「どうかな?まだ目立ってない?」


一ヶ月後、オレと塔矢は写真館に来ていた。

この一ヶ月で結婚に関する手続きを全て終わらせたオレら。

オレの本名はもう塔矢ヒカルだ。


塔矢も結婚式に興味がないらしく式はしないことになったんだけど、明子さんの

「あらそう…お式しないのね。残念だわ…アキラさんのウェディングドレス姿見たかったのに…」

の一言でオレの脳は一気に目覚めた。


塔矢のウウウウェディングドレス姿??!!


見たい見たい見たいオレも見たーい!!!




「嫌だよ…今から準備したんじゃお腹が突き出た新婦になってしまう。恥ずかしい」

「じゃあ写真だけ!写真だったら2、3時間もあれば終わるし!今度の休みに行こうぜ!オレもう予約したから!!」

「し、仕方ないな…」


という訳で今オレの目の前には、真っ白なウェディングドレスを着た美しすぎる塔矢がいる。



「進藤?聞いてる?どう?」

「うん、超綺麗。最高。結婚して」

「もうしてるだろう…」





着替え終わったオレらは両家の両親が見守る中、写真撮影を開始する。

そして一番の出来の写真をパネルにしてもらって、新居の玄関のど真ん中に(嫌がる塔矢を丸め込め)しばらくの間飾るのだった。



ちなみにこの写真を入れ替えたのはそれから約5年後。

オレとアキラと4歳の長男、2歳の長女、0歳の次男、の5人の家族写真が出来た時だ――










―END―








以上、条件で結婚相手を決めるアキラ嬢のお話でした〜。
でもアキラさんの第一条件は棋力なので、自然とヒカルしかいないかと?!
ヒカルがまだ独身でよかったね〜(笑)
もちろんヒカルが独身なのは偶然でも何でもなく、アキラのことが好きだったからvv
きっと10代の頃からずっと好きで、でも告白する勇気なんてなくて、とりあえず仕事優先でライバルの位置を保ちつつ、たまに告ってきた女の子と付き合ったり…別れたり。
でも30近くなって周りも結婚し出して、後援会とかにも早く身を固めるよう言われたりお見合い話とか持ちかけられたりして、いざ真剣に結婚を考えた時、

(やっぱり結婚するなら塔矢としたいなぁ・・・)

ってなったんだと思います!
そこからますます囲碁サロン通い詰めて様子を伺っていたのかと。
アキラがお見合いを続けている時もずっとモヤモヤしてたんだろうな〜。
きっとアキラが本気でこの人と結婚する!って断言してきたら、阻止するつもりだったんだと思われます。
でもそんなことはなく、アキラはアキラで結婚条件には棋力がやっぱり一番重要だと気付き、

(進藤が長男じゃなかったらすぐにでも結婚を申し込むのになぁ・・・)

と思っていたんだとvv
このアキラ嬢はあくまで結婚相手を探しているので、告白じゃなくていきなりプロポーズですvv
でも長男だからどうしよう・・・でも諦めきれない・・・子供には絶対ヒカルの遺伝子を入れたいし・・・じゃあ、結婚はせずに跡継ぎの子供だけもらおう、という発想となって今回の話となります。

結局このアキラさんはヒカルの棋力には惚れ込んでるけど、ヒカル自身はどうとも思ってないのかな?(笑)
でも結婚は愛される方が幸せなので、これでいいんですvv
恋愛とか興味ないアキラさんも最高ですvv
きっとヒカルと結婚して、寝食共にしていくうちにヒカルのことを好きになるよ、きっとvv