●MOTHER's DAY●
5月の第ニ日曜日――母の日。
オレはこの日の象徴ともいえるカーネーションを片手に、塔矢の家を訪れた。
「あれ?進藤?」
アポ無しで来たから、彼女が少し驚いていた。
「明子さん、いる?」
「え?いるけど…」
「上がってもいい?」
「…別に構わないけど」
「んじゃ、お邪魔しまーす」
靴を脱いでる途中、靴箱の上のカーネーションの鉢に目が止まった。
きっと塔矢があげたやつなんだろう。
「母に何か用なのか?」
「ああ。ちょっとね」
「ふぅん…」
塔矢がオレの持っていたカーネーションに視線を向けた。
そ、これを渡すつもりなんだよ。
え?明子さんは僕の母親で、キミの親じゃないって?
ま、確かに『今は』そうだけどさ。
「あら、進藤さん。いらっしゃい」
「こんにちは。あの、これ明子さんにプレゼントです」
「まぁ…綺麗なカーネーション。どうもありがとう」
居間に入るなりさっそく明子さんに渡してみた。
明子さんは塔矢と違って、オレの意図を全部お見通しって感じだ。
その証拠に、直ぐさま
「あなた、見て。未来の息子からお花を戴いちゃったわ」
とか言って、隣の和室にいた塔矢先生に見せに行っていた。
当然オレと塔矢の関係を全く知らない先生は、飲んでいたお茶で噎せていた。
でもって同じく何も知らない塔矢が、
「どういうつもりだ?」
とオレを問いただしてくる。
「どういうつもりも何も、そういうことだよ♪」
「未来の息子って…意味が分からないんだけど」
「何で?オレらが結婚したら、明子さんは義理のお義母さんじゃん。で、オレは義理の息子」
「だから、何で僕がキミと結婚するんだ!付き合ってもいないのに!」
「付き合ってからでないと、結婚出来ないっていう法律はなかったと思うけど?」
「は…はぁ??」
口調は怒ってるけど、塔矢の顔を見ると満更じゃないのは一目瞭然。
オマエがオレのことを好きなのは、ずっと前から知ってたよ。
オマエだってオレの気持ちに気付いてただろ?
お互いずっと口に出してなかっただけだ。
「もうそろそろ一歩進んでもいい頃だと思わねぇ?お互い九段になったし、オレは本因坊、オマエは名人。仕事と同じくらい、プライベートもそろそろ充実させたいと思いませんか?」
「そりゃあ……まぁ…ね」
「オレじゃ不満?」
「…ううん」
「よし。じゃあもう一回花屋に行くぞ」
「え?」
「今度は塔矢が未来のお義母さんに花を渡す番。ついでにオマエのこと紹介したいし♪」
「うん…」
明子さんに「いってらっしゃ〜い」と見送られながら、オレらは塔矢邸を後にした――
ちなみに約半年後。
塔矢は同じく両親に見送られて、お嫁に行く為に実家を後にすることになる――
―END―
今日は母の日〜ってことで、母の日話を書いてみました。
お茶で噎せた名人のその後が気になります…ね。
当然ヒカアキのやりとりを近くて見ていた訳ですから、そんな適当なプロポーズあるかー!と却下しないものなのかどうなのか。
ま、でも、アキラさんがヒカルのことを気にかけていたのは中学の頃から知ってた訳ですからね。
しぶしぶ…って感じでしょうか?(笑)