●MOTHER●
――どうしてアキラさんは第一人称が『僕』なのかしら…。
男の子みたいよって注意しても全く聞く耳持ってくれないし。
服装も地味でズボンばかり。
それか仕事用のスーツね。
この子…このままずっとこうなのかしら。
嫌だわ…。
母としてはやはり娘には可愛い格好してもらいたいし、せっかく元がいいんだからそれなりに男の人とも交際して、恋愛もして欲しいのよね。
碁ばかりで青春が終わっちゃうなんて勿体ないわ。
だけどね、そんなアキラさんにもついに春が来たの。
あれはアキラさんが17になった冬だったわね。
年明けのイベントやら取材やらが終わって落ち着いてきた頃、お夕飯の時間に突然言い出したのよ。
「僕、進藤と付き合うことにしたから」
って―!
すごく嬉しかったわ。
今まで男気が全くなくて、碁ばかりに打ち込むアキラさんを見てて心配だったから。
行洋さんは複雑だったみたいだけど。
「そうか…」
と感情を表に出さない返事をしてたわ。
でもね、こんなに頬を赤めて可愛くなったアキラさんを見るの初めて!
私、知ってるのよ。
進藤さんと付き合い出してから少しずつアキラさんがお洋服にも気を使ってること。
だからここぞとばかりに買い物に連れ回したわ。
今まで夢だったんですもの!
娘とお買い物…!
付き合い出す前は碁ばかりで一緒に買いに行ってくれたことなんてなかった。
いつも私一人、デパートでアキラさんに似合いそうな服を買うの。
すれ違う親子を見る度に羨ましく思ってたのよ。
あぁ…やっと普通の母と娘になったみたい―!
それからしばらくたった4月―。
温泉から帰ってきた後、突然進藤さんがいらして言ったのよ。
「アキラさんをオレにください」
って―!
聞けばアキラさんのお腹には赤ちゃんがいるんですって。
まぁ!まぁ!まぁ!
これが今流行りのできちゃった婚になるのかしら!
やるわね、アキラさん。
行洋さんは一気に血圧が上がって真っ赤になっちゃったわ。
でも上がり過ぎてショートしちゃったみたい。
しばらく考えこんで、結局は許してたわ。
まぁ当然ね。
許さないわけにはいかないもの。
赤ちゃんをおろさせるわけにもいかないし、シングルマザーにするわけにもいかないでしょう?
進藤さんは7大タイトルこそ持ってなかったけど、早碁を得意としてるらしくて、そっちのタイトルをいくつか持ってたし、段位賞の常連だったから歳の割には収入は多い方じゃないかしら。
子供を育てていけるだけの経済力はあったし、何よりアキラさんも女流タイトルを総嘗めしてたから、親元を離れても生活には不自由しないでしょう。
実際二人は3LDKの分譲マンションを購入して、7月頃から一緒に住み始めたわ。
そしてヒカルさんの誕生日にめでたく入籍。
式も身内だけだったけど、新宿のシティホテルで挙げたのよ。
本当は披露宴もしてほしかったんだけど……残念。
そして12/11。
アキラさん似の可愛い男の子が無事産まれたの。
行洋さんも初孫に大喜び!
でね、名前は『佐為』ですって―。
私はよく知らないんだけど、その名前にしたとヒカルさんから聞かされた時、行洋さんが驚いていたのは事実ね。
でもそんなことはどうでもいいの!
私、なんと30代でおばあちゃんになれたのよ!
佐為ちゃんと出かける度に
「可愛い息子さんですね」
って言われるの!
「息子さん」よ、「息子さん」!
私の子供に見えるみたい!
何だかすごく若返った気分だわ〜。
でも佐為ちゃんが9ヶ月になった頃…アキラさんが帰って来てしまったの。
別居…ですって。
一体何があったの?!
しかもアキラさん妊娠してるらしいじゃない。
それなのに意地張ってヒカルさんには黙っておくつもりみたい。
仕方のない子…。
まさかそれが3ヶ月も続くとは思ってなかったけど、無事に仲直りしてくれたみたいでよかったわ。
そしてお腹の赤ちゃんはめでたく5/5、子供の日に産まれたの。
ヒカルさん似の可愛い女の子よ。
名前は「彩」って書いて「あや」ですって。
退院後はまたしばらく家に帰ってくるみたい。
そして今日がその退院日――
ヒカルさんのいつもの車音が聞こえて急いで玄関に出ていくと、彩ちゃんを抱き抱えたアキラさんが車から降りてたわ。
「ただいまお母さん」
「お帰りなさい」
「こんにちは明子さん」
「こんにちは」
ヒカルさんは今年の始めについに車を買ったのよ。
BMWの3シリーズですって。
CMで見たことあるわ。
性能とかは説明されてもよく分からないけど……とにかく頑丈な車なら何でもいいわ。
でもヒカルさんはもっと大きな車が欲しいらしくて、将来的にはこの車はアキラさんが乗るんですって。
いつ免許取るつもりなのかしら…?
「また1週間ぐらいいるそうなので、よろしくお願いします。オレもこっちにいる時は毎日見に来ますんで―」
「ええ」
名人と碁聖のタイトルを保持してるヒカルさんはスケジュール的にもかなり忙しそう。
アキラさんももうすぐ本因坊の七番勝負が始まるらしくて、あんまり休んでもいられないみたい。
また佐為ちゃんも彩ちゃんも預けにくるのかしら。
考えただけでも楽しみだわ。
アキラさんに2歳から碁を教えた行洋さんは、また佐為ちゃんにも教える気満々らしいの。
嫌だわ…親子三代で碁バカなんて。
彩ちゃんは碁と無縁の世界で、女の子らしく可愛くて優しい子に育てたいわねぇ…。
―END―
以上、明子ママ視点のヒカアキ話でした〜。
内容は「FEMALE」〜「FEMALE+γ」までの総集編みたいな感じで(笑)
明子さんの性格はたぶんB型…ですね(笑)
(でもアキラがABで、行洋がBなので…ABでしょうか?)
でもホント、周りが碁打ちだらけだと、苦労しますよ(^^;)
これからも頑張ってほしいものです。佐為&彩の子育てに(笑)
で、この話で一番書きたかったこと!
それはずばりヒカルの「アキラをください」台詞です!!(笑)
本編だと何故か抜けてた(?)ので、いつか書きたいなぁ…とタイミングを狙ってました。
にしても交際がまだ3ヶ月な上、17のガキにそんなこと言われたら…行洋パパの血圧が上がるのは当然かと。
相手がヒカルだったから…まだ許せた?みたいな。
とはいえ、妊娠してなかったら絶対「まだ早い。出直してきなさい」てな展開になってたと思います。
ちなみに現在の行洋パパ&明子ママはずっと日本にいる設定で。
忙しいヒカアキの代わりに佐為&彩の面倒を見なくてはいけませんしねー。
たぶん行洋パパの新たな目標は、アキラ以上に佐為達を立派な棋士に育てあげる!ことだと思います。
少々明子ママと目標がずれてますが……これからどうなることやら(笑)