●MANGA●





女の子にとって、マンガはバイブルだ。

恋愛の教科書。

夢と希望と理想と妄想がふんだんに詰まった――






「こんにちは〜」

「精菜、いらっしゃい♪上がって上がって!」

「お邪魔します」



夏休み。

私は彩の家に遊びに来た。

もちろん、佐為に会えたらいいなぁ…と期待して。


「…佐為は?」

ドキドキしながら彩に尋ねると、

「おじいちゃんち」

という返答が即座に返ってきて、私は肩を落とした。

私が到着する30分も前に出かけちゃったらしい。

ガッカリだ……



仕方なく彩と一緒にマンガを読むことにした。

相変わらず読みきれない程のマンガで溢れている彼女の部屋。

クローゼットの中は服ではなく、マンガがぎっしり詰まっている。

今日はどれにしようかな……


私が手に取ったのは、今『りぼん』で連載中の少女マンガ。

主人公の女の子(小5)と彼女が好きな男の子(中1)は幼なじみだ。

小さい頃からいつも一緒だった。

でも、彼が中学に入ってから少しずつ関係が変わっていく……



(まるで私と佐為みたい……)



佐為が中学に入ってから、明らかに会う回数が減った。

佐為は友達(西条さん)とばかり遊ぶ(打つ)ようになった。

夏休みに入ってからはプロ試験のことしか頭にないらしく、調整の為に塔矢先生の家に連日通っているらしい。


(今度またお父さんにくっついて私も研究会参加しようかなぁ…。そしたら会えるかなぁ…)




「うーん…」

彩がマンガを読みながら唸りだした。

「どうしたの?」


彩が読んでいたのは少しだけ大人向け(高校生とか?)のマンガだった。

横から覗くと、主人公が彼氏とキスしていた。


「キスってどんな感じなのかなぁ?」

「どんなって……」

「精菜はお兄ちゃんとしたことあるんでしょ?どんな感じだった?」

「それは……」


私と佐為は付き合い始めてもう2年になる。

もちろんキスは何回もしたことがある。

どんな感じか。

思い返そうとして……あんまり思い出せない自分がいた。

そういえばもう半年くらいしてない気がする……


「精菜とお兄ちゃんも、いつかこういうコトするのかぁ……」


彩が捲ったページに描かれていたのは、キスのその先だ。

男女が裸で抱き合っていた。


「……そんなの、現実的じゃないよ」

「え?そう?」


キスすらずいぶんしてないのに、それより先を想像して意味なんかあるのだろうか。

もちろん、一度も想像したことがないというわけではない。

私だって、いつかは佐為と先に進みたい。

今の段階では非現実だけど。



「私もしてみたいなぁ…」

「……京田さんと?」

「え?!」


彩の声が裏返る。

何で私が京田さんのこと好きだって知ってるの?!という顔。

そりゃ分かるよ……


「彩はすぐ顔に出るからバレバレだよ」

「え?!ウソ…っ」

「…告白しないの?」

「…うーん…」


彩が悩んでいた。

そりゃ悩むだろう。

何せ相手は高校生なのだ。

小学生同士の恋愛とはワケが違う。


「京田さんて…彼女いないと思う?」

「どうなんだろね…。彼女の存在を匂わせて来るような言動は、私の知る限りでは無いけど」

「じゃあ私が告白したとして、OKしてくれる可能性ってあると思う?」

「そりゃ可能性だけならゼロではないと思うけど……」


彩は普通に可愛い。

いや、普通以上に可愛い。

でもって性格も可愛い。

私がもし男だったら、彩に告白していたかもしれない。



――でも



彩と京田さんの会話を思い返して見ると、やはり彼にとって彩はまだ『恋愛対象』ではない気がするのだ。

今の私達に5歳差は大きい。

いいとこ『妹』ポジションだろう。

ただ、京田さんは進藤本因坊のファンだから、彩は憧れの人の娘なのだ。

だから京田さんは彩には特別優しい気がする。

もし彩が告白したとしたら、彼は断るにしても、そのあとの関係が悪化するような完全な拒否はしないような気がする。

『保留』的な。

もうちょっと大きくなったら付き合おう的な。



「……まぁどのみち今悩んでも意味ないよ、彩。京田さんも今はプロ試験のことしか考えられないと思うし」


佐為みたいに――


「だよねぇ…。私も頑張ろう」

「うん、私も」


7月の院生順位、私は10位だった。

そして8月は13位。

上手いこと落とせたと内心ほくそ笑む。

『落ちた』ではなく、私はわざと『落とした』のだ。

調整したとも言う。

もちろん佐為と一緒に予選を受ける為だ。

毎週末、彼に会う為に――


(佐為にバレたらきっと怒られちゃうね…)


でも、佐為がいけないんだ。

中学に入ってから私に全然かまってくれないから。



「精菜、予選頑張ってね」

「もちろん」


もちろん頑張るよ。

佐為と本戦でも会う為に。

3ヶ月間も彼に毎週末会えるなんて最高だから――






―END―






以上、夏休みにマンガを読みふける彩と精菜の会話でした〜。
佐為は外来予選受験中です。
精菜は不満ありありです。
佐為…もうちょっとかまってあげて…

ちなみに彩の部屋はヤバイぐらいにマンガだらけです。
昔から誕生日もクリスマスも図書カードをプレゼントとしてもらっていた彩。
(両親からも祖父母からもそれぞれ1万円のカードを)
もうそれで買いまくりですw
クローゼットなんて本を隠す場所だと思ってる彩なのでした☆