●MAIL-GO●
エッチの最中にまた携帯が鳴った。
「ちょっとぉ…後で出てよー」
呆れる彼女に跨がったまま、オレはサイドボードに置いてあった携帯に手を伸ばした。
届いた一通のメール。
送り主はもちろん――塔矢アキラ。
ふーん…7の十か。
いい手だ。
少し考えた末、オレは次の一手を返した。
そして再びセックス再開。
激しく突き上げてる最中に、またさっきの着信音が鳴る。
「8の九…か」
「もー、エッチする気あるの?!」
何度も中断されていい加減怒った彼女が、オレの体をドンッと退けた。
「興ざめ!帰るから!」
「ああ、気をつけてな」
「〜〜〜!!進藤君ってほんっと最低!この囲碁馬鹿男っ!もう二度と連絡してこないで!」
バタンッと乱暴にドアが閉められた。
フラれたってのに、そんなことお構いなしにオレは頭を携帯に集中させたままだった――
オレと塔矢は最近『メール碁』にハマっている。
一局打つのに何百ものメールを送り合い、時には終局まで何日もかけるこのメール碁。
持ち時間はもちろんエンドレス。
お互いこれだっていう最高の一手で毎回攻め合っている。
「じゃあ今回の対局の検討をしようか」
「ああ」
そして終局すると塔矢ん家の囲碁サロンで検討。
最初から直接会って打てばいいじゃん、と言われるかもしれないけど、メールみたいに一手にそんなに時間がかけれるわけじゃないし。
碁盤を挟んでない方が返っていい手が思い付くことだってある。
「オマエのこの手、ありえないだろ」
「いい手だろう?お風呂に入ってる時に思いついたんだ。絶対に取れない、一発逆転だ」
「くそっ…今回は勝ったと思ったのになぁ」
「ふふ、メール碁って楽しいね。次は僕が黒でいい?」
「ああ」
「じゃあお願いします」
「お願いします」
目の前に碁盤があるってのに、塔矢は携帯をカチカチ打ち出した。
すぐに届いた彼女からのメールに、オレもすぐさま返す。
碁盤を挟んで携帯を睨むオレらを見て、市河さんが
「いい加減にしたら?!」
とガチャンと乱暴にコーヒーを机に置いた。
「進藤君もアキラ君も最近メールしすぎよ!楽しいのは分かるけど、何も今メールで打たなくてもいいじゃない。ちゃんと碁盤を使いなさい、碁盤を!」
「そうだけど…」
「あんまりし過ぎると目が悪くなるわよ。アキラ君、ご飯中もメールが届いたら、お箸持ったまま携帯弄ってるらしいじゃない。明子さんが行儀悪いって困ってたわよ」
「…すみません」
「進藤君だってメール碁のせいで彼女と別れたんでしょ?二人ともしばらく携帯から離れた方がいいんじゃない?」
市河さんがオレと塔矢から携帯を取り上げた。
「ここにいる間は没収よ!」
とカウンターに持っていってしまった。
仕方ないのでオレらは碁石を掴む。
「…オマエ、飯食いながら打ってたのか?明子さんが怒るのも無理ないって」
「だって…キミから返事が来たのに見れないなんて生殺しだと思わない?キミだって彼女といる間ずっと我慢するのは無理だろう?」
「…まぁな」
エッチの最中だって弄ってたぐらいだからな。
フラれて当然だったのかも…。
「彼女といつの間に別れたの?」
「…この前」
「…そう」
「いや、別に落ち込んでないからな。これで好きなだけ打てるって内心喜んだぐらいだし」
「…でも、しばらく止めにしようか。確かに最近視力が落ちてきた気がするんだ…」
「え、マジ?」
「だから眼鏡買ってみたんだけど…」
塔矢がカバンから眼鏡を取り出して、かけてみた。
チェーン付きのその赤縁眼鏡は、塔矢がかけると何だかインテリ女子風。
でも、意外と似合ってる。
可愛い。
「よく見えるか?」
塔矢に顔を近付けてみた。
「う…ん」
「どうした?顔赤くなってきたぜ?」
「だって…っ、キミの顔がハッキリ見えすぎるから…!」
慌ててまた外していた。
「何だよ、オレの顔なんて見たくないって?」
「そうじゃなくて……緊張する…から」
「はぁ?」
「……最近僕…変なんだ…。キミの姿を見るだけで…胸がドキドキして。キミと向かいあって対局しようものなら…もう平静でいられなくて。変に緊張して汗が出てくるし…集中出来ないし」
……え?
「だからキミをメール碁に誘ったんだ。これならいつも通り100%の力が出せるし。ううん、それ以上かもしれないね…時間に縛られない分」
「塔矢、オレ…今オマエに告られてるって思っていいのか?」
「は?告…?」
「オマエ、人を好きになったことないのか?」
「え…?」
流石は物心ついた時から囲碁一筋な塔矢アキラ様。
恋愛経験はゼロらしい。
その症状がどういう意味なのか、全く理解していないらしい。
「これ…恋…なの?」
「たぶん100%」
「キミに…?僕が…?」
ようやく自覚したらしい塔矢は、耳まで真っ赤に顔を染めて下を向いてしまった。
……可愛いよなぁ……
と、思うオレも実は満更でもないのかもしれない。
「…なぁ、オレ今フリーなんだけど。試しに付き合ってみる?」
「え……」
「いつまでも緊張から逃げてたらダメだろ?オレに慣れて、早く前みたいに碁盤で100%力を出しきれるようになろうぜ」
「……うん」
塔矢をゲットしたオレは、見られないように密かにガッツポーズをした。
以来、オレらはメール碁をやめた。
今オレが彼女宛てに打ってるのは、デートのお誘いメールだ。
『今度の休み、水族館行こうぜ!』
―END―
以上、メール碁話でした〜。
メール碁…なんてものが本当に存在するのかは知りませんが(笑)
でも、ヒカアキにメール碁は必要ないよね!
直接打って下さいな。
メールはお互いをデートに誘う時だけで♪
ヒカルの着信音だけ違う曲にしてるアキラさんとか可愛くていいなぁvv
届いたらきっとすぐ反応するんだろうな〜。