●MAGO●
『お願いします、僕と結婚して下さい。父に孫を抱かせてあげたいんです』
塔矢先生がまた倒れたらしい。
塔矢が14歳、16歳の時に引き続きこれで3回目。
どんどん状態は悪化してるらしく、次倒れたら命の保障はないらしい。
だからなのか。
棋院にウワサが流れ始めた。
塔矢アキラが手当たり次第にプロポーズしてるらしい――と。
「進藤〜聞いてくれよ〜〜、ついに俺も塔矢にプロポーズされた〜」
「マジで?!」
森下先生の研究会が始まる前、一緒に準備をしていた和谷が教えてくれた。
緒方先生、芦原先生…とまずは馴染みの塔矢門下の棋士から攻めてみた塔矢。
「俺は独身主義だ」
「ごめんねーアキラ。俺彼女いるから」
見事惨敗した彼女は、次は棋院中の独身男性にプロポーズし始めた。
最近伊角さんや本田さんにまでしたらしい。
そしてついに和谷にまで。
「どんな風に言われたんだよ?」
「父に孫を抱かせてあげたいのでお願いします、みたいな感じだったぜ。ま、普通の男なら引くよな〜。断られて当たり前だっての」
塔矢先生に残された時間は少ない。
だから一刻も早く子供を産んで孫の顔を拝ませてやりたいんだろう。
「で?普通の男じゃない進藤君はもちろんOKするつもりなんだろ?」
「おう!」
オレは塔矢のことがずっと好きだった。
和谷にまで来たってことは、次はいよいよオレの番だな。
よし!いつでもプロポーズしに来い!心も体も準備万端だぜ!
とドキドキわくわくしながら待ってたわけだけど……
数日後、棋士に全敗した塔矢が今度はお見合いをしだしたというウワサを聞いた。
な、なんで全敗??
オレはーー??
「塔矢っ!!!」
もう我慢出来なかったオレは、彼女に文句を言うべく家にまで押しかけた。
「なんでオレだけスルーなんだよ!!オマエからのプロポーズずっと待ってたのに!!」
だいたいオマエと一番仲のいい男はオレだろ?!
何で一番にプロポーズしに来ないんだよ!!
ずっと好きだったのに!オレなら絶対に断らないのに!!
先生がいようが明子さんがいようが構わない。
玄関で怒鳴りながら告ると、塔矢はキョトンとした目で言い返してきた。
「え?だってキミはまだ17歳だろう?」
「………は?」
「男の人は18にならないと結婚出来ないじゃないか。だから諦めて他の人にお願いして回ったんだよ」
おおお…さすが塔矢アキラ様だぜ。
子供は結婚してから、らしい。
先に作るとかいう発想はないらしい。
……ていうか、今、諦めてって言った?
「オレを諦めて?」
「ああ…うん。僕もキミが好きだし…出来たらキミと結婚したかったんだけどね…。17で残念だよ…」
「ちょっ…、んな簡単に諦めんなよ!オレだってあと数ヶ月で18になるってのに!そもそもオマエ、先生に早く孫の顔を見せてやりたいから結婚したいだけなんだろ?子供なんて結婚前でも作れるじゃん!仮に今すぐデキても、産まれる頃には18になってるし、オレでも何にも問題ねーよ!」
「先に作って怒られないかなぁ…?父を悲しませたくないんだけど…」
「はぁ??娘が自分の為に愛のない結婚をする方がよっぽど悲しむっつーの!!」
気付いたら、塔矢の後ろに先生も明子さんも立っていた。
振り返った塔矢に、二人が優しく微笑む。
「そうだよアキラ。結婚は本当に好きな人と、自分の為にしなさい。アキラが幸せになってくれるのが一番の冥土土産だ」
「お父さん…」
「そうよアキラさん。行洋さんのことは気にしなくていいわ。あなたがどうしても今進藤さんと結婚したいというのなら私達は別に反対はしませんけど、そうでないのなら普通に考えてまだ子供を産むには早過ぎなんじゃないかしら?もうちょっとお付き合いの時間を楽しんでも、長い人生ですもの、遅くはないはずよ?」
「お母さん…」
そうですね…僕が間違ってましたと両親に謝った塔矢は、もう一度オレの方に向き直した。
「進藤…僕と付き合ってくれる?結婚とか子供とかそういうのは抜きにして、純粋に…17歳らしい交際をしてくれる?」
「もっちろん♪」
早速塔矢をデートに連れ出したオレ。
でも終いにエッチを要求したら、彼女に「17歳らしい交際と言っただろう!」と見事拒否られたわけだけど。
もちろんオレは「今時の17歳は皆してるの!」の突っぱね返したわけだけど。
一年後――『普通』に交際を続けた上でデキてしまい、結局当初の塔矢の望み通り、先生が生きているうちに孫を抱かせてあげる夢が叶ったのだった。
ま、予想外にも先生はそれから20年も長生きしたりするんだけどな。
―END―
あんなに美人で可愛いアキラさんが全敗するはずがないですよね〜(笑)
きっと裏で緒方さんあたりが動いているんだと思います。
そして更に裏の大ボスは塔矢先生本人で。
娘婿はヒカルって決めてる塔矢家ってのも萌えるな〜(笑)
先生は孫どころかひ孫まで抱けるよ!