●LOVE BITE●


「塔矢さん、見えてるよ」

「え?」


体育の授業が終わった後――更衣室で制服に着替えていたら、隣りのロッカーを使っていた女の子が僕に言った。

何が見えてるんだろ…?と首を傾げている僕に、彼女は教えてくれた。


「ほらココ。これ、キスマークでしょ?」





えっ?!





その瞬間、近くにいた女の子が一斉に僕の方を振り返った―。


「うっそー!どこっ?!」

「やだっ、ホントだ!」

「私初めて見たー」

「こっちにも付いてるよ」

「わー、生々し〜」

「塔矢さんやるぅ!」

「彼氏いたんだー」


キャーキャー言って僕を囲ってくるクラスメートの視線を浴びながら、僕は真っ赤になって体を確認した。


本当だ…。

言われてみればあちこちに付いている。

どうして今まで気付かなかったんだろう…。


「誰と付き合ってるの?」

「まさかクラスの男子じゃないよね〜?」

「あ、棋士の塔矢さんだからやっぱり囲碁関係の人?」

「教えてよ〜」


今度は僕の相手を知りたいらしく問い詰めてくる。


キーンコーン
カーンコーン


「やばっ!もう予鈴鳴ったし!」

「次移動だったよね?」

「遅れる〜」


ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴ってくれて、僕は彼女達から解放された。

だけどホッとしたのも束の間、僕はその日一日噂のターゲットにされることになる。


「塔矢さんて彼氏いるんだって」

「うっそ!マジ?」

「私体育の後にさ、塔矢さんの体見たけどすごかったもん。体中にキスマーク!」

「じゃあもう最後までいってるんだ?」

「あんな清純っぽい顔してるのにねー」

「やだー」


それは女子の間だけではなく、すぐに男子の間でも広がってしまった。

異性の間で囁かれる噂はとても口に出せるものではなく、それを耳にした僕は一瞬泣いてしまうかと思った。


皆暇だよね…。

もうすぐ入試じゃないのか?

そんな噂してる暇があったら勉強すればいいのに!

だいたい他にも彼氏がいる女の子なんてたくさんいるじゃないか!

何で僕だけこんなに言われなくちゃならないんだ?!

既に貞操を無くしているのがそんなにいけないことなのか?!

付き合っていればそうなるのが自然じゃないか!


すごく腹が立つ…。

そして思い詰めた僕のその怒りの矛先は、当然あんなものを体に付けてくれた元凶へと向いていった―。





「塔矢!」

待ち合わせのカフェで僕の姿を見つけた途端、笑顔で手を振ってくる彼の元に、僕はニラみつけながら駆け寄った。

「遅かったじゃん。HR長引いた?」

「進藤っ!!よくもやってくれたなっ!」

「へ?」

この時間、このカフェは学校帰りの学生で溢れかえっている。

さすがにその話題を堂々と口に出せるわけもなく、僕は進藤をトイレに引っ張っていった。



バタンッ


「えーと…オレ何かしたっけ?」

「『何かしたっけ?』だと?!ふざけるなっ!こんなもの付けておいて!」

僕はリボンを解いて、シャツのボタンを2、3個外し、進藤がつけた痕を彼の目に曝した。

「見てみろ!こっちにも!ここにも!こんな所にまである!」

「……だから?」


『だから』だと?!

何が悪いのか理解出来ないと書いてある進藤の顔を更に睨みつけた。


「僕は今日これのせいで凄く嫌な思いをしたんだ!どう責任取ってくれるんだ!」

「…ごめん」

「謝るぐらいなら!もう二度と付けないと約束してくれ!」

「ヤダ」


ヤダ?!

キミ、今、嫌だって言ったのか?!

信じられないという顔をした僕の頬に――進藤が触れてきた。


「付けたの5日も前なのにな…。まだ残ってるんだ」

徐々にその手が顎に――首に――鎖骨に、滑るように降りてくる。

「オマエの肌って白いから目立つもんな…」

胸の上に付けられた痕を進藤が指でなぞった。

「付けがいがあるぜ…」


え…?


進藤の顔がそこに近付いていったので、慌てて彼の口を手で押さえた。

「な、なにをする気だ…」

「もっと付けようかと思って♪」

「ふざけ―…」

叫ぼうとした口は彼の唇で塞がれてしまった―。

「―…ん…っ…」

両手を掴まれて、壁に押しつけられる―。

「ん…っ、…んっ―」

口内を貪られて、深く口付けられる―。


「……ぁ、…はぁ…―」

強引なキスに、唇が離れた途端息が上がってしまった。

「アキラちゃんさぁ…、誘ってんの?」

「え…?」

「こんな狭い個室に連れてきてさ、いきなり服脱ぐんだもん。そうとしか思えないって」

「そんなつもりじゃ……」

たちまち赤くなって下を向いた僕の額に、優しくキスをして…進藤は元通りにボタンを合わせ、リボンを結んでくれた。

「ごめんな、嫌な思いさせちまって…。でもこの痕って一つの愛情表現だからさ…我慢してほしいな」

「……」

「今度からはなるべく抑えるから…さ」

「……うん」

確かに進藤は服を着ていたら見えない場所にしか付けてないし……我慢出来ないこともない…か。

今度からはトイレで着替えることにしよう…。








―END―








以上、キスマーク話でした〜。(微妙に中途半端な所で完)
LOVE BITEはまさしくそのまんま。イギリス英語でキスマークという意味です。
ヒカルはキスが大好きだと思います。(勝手なイメージ)
アキラもそんなヒカルにされるのが大好きだと思います。(バカップル)
ちなみにアキラのファースト・キスの相手はもちろんヒカルだと思います。
ヒカルはどうだろ…。
私の中でヒカルは2通りありまして、1人はアキラ好き好き一途なヒカル。
もちろん全てにおいてアキラが初めて。少々ヘタレ設定で。
もう1人はそれなりに遊んで経験豊富なヒカル。
そんなヒカルにリードされるアキラさん。アキラを知った瞬間からヒカルはアキラ一筋に。(ナンダソレ)
結果的にはたいして変わりませんが、どっちのヒカルも好きですーv